学位論文要旨



No 213927
著者(漢字) 猿倉,信彦
著者(英字)
著者(カナ) サルクラ,ノブヒコ
標題(和) 新波長可変固体レーザーからの紫外から遠赤外にわたる超短パルス光の発生
標題(洋) Ultrashort Optical Pulse Generation from Various Solid-State Lasers
報告番号 213927
報告番号 乙13927
学位授与日 1998.07.16
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第13927号
研究科 工学系研究科
専攻 物理工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 渡部,俊太郎
 東京大学 教授 黒田,和男
 東京大学 助教授 五神,真
 東京大学 助教授 三尾,典克
 東京大学 助教授 志村,努
内容要旨

 論文提出者は、新レーザー光源を開発研究することを一環として行っており、本論文に記される主な研究成果とその意味をまとめると以下のようになる。

 本論文にて、受動モード同期により固体レーザーから安定にフェムト秒領域の光超短パルスを発生することに世界に先駆け成功しており、その成果は、従来の超短パルス色素レーザーを基本とした超短パルス光技術に革新的進歩をもたらすブレークスルーとなった。具体的には、赤外領域の波長可変固体レーザーであるチタンサファイアレーザーの共振器内に、セルフスタート可能なモード同期を開始させるための過飽和色素ジェットと分散補償のためのプリズム対を付加することにより、100フェムト秒台の安定な超短パルスレーザー光を発生した。また、従来の超短パルス色素レーザーと比べ格段に高出力であるため紫外光への高効率波長変換やさらなる短パルス化へのパルス圧縮が容易に実現された。これら一連の技術革新の一番の意味は、従来の専門研究者でなければ扱えなかった超短パルスレーザー光源が誰にでも扱えるようになる端緒を作ったことにあり。現在では、各種の超短パルスチタンサファイアレーザーが、幅広い分野の研究開発現場に、まさにブラックボックスとして新領域の研究を支えている。

 また、その超短パルスチタンサファイアレーザーを用いた、超短パルスレーザー光の波長域拡大にも積極的に取り組み、磁場中の半導体に光を照射する装置から、世界に先駆けて、サブミリワットレベルの強度のテラヘルツ電磁波の発生に成功した。テラヘルツ電磁波とは、テラヘルツ領域(波長300ミクロン)付近の電磁波を示す。いわば電波と光の端境領域であり、今まで強力な発生源や検出器が少なかったため、未発見の現象が数多く存在すると考えられおり、その波長域での実用的超短パルスコヒーレント光源の開発の意味は極めて大きい。

 従来、紫外線領域の超短パルスレーザー光は、超短パルスチタンサファイアレーザーシステムからの近赤外線領域の超短パルスレーザー光を波長変換し発生した紫外光を用いる他はなく、紫外領域の超短パルスレーザー光源システムは極めて複雑にならざるを得なかった。既存のレーザーシステムより格段に簡便な紫外波長可変レーザーが求められていた。論文提出者は、結晶成長研究者との共同研究による新レーザー結晶(Ce:LiCAF,Ce:LLF)を用いた紫外線領域の超短パルスレーザーシステムの可能性の探求にも取り組んでいる。すでに、新結晶を用いたレーザー発振器からナノ秒以下の波長可変紫外光の発生や高効率のエネルギー抽出に成功しており、今後の研究展開により、近赤外領域でのチタンサファイアレーザーのような重要性を持つことも、とくに大出力の全固体紫外超短パルスレーザー光源システムの構築を新レーザー結晶を用いることにより期待される。

 上記のように本論文にて、紫外から遠赤外にわたる様々な波長領域での光超短パルスレーザー光の発生について、新規の方法を考案実施し、その有効性が示されている。

審査要旨

 本論文は紫外から遠赤外にわたる超短パルスの発生について述べている。論文は5章からなり第1章の導入部と第5章の結論を除き、主な内容は第2章のチタンサファイアレーザーからの超短パルス発生、第3章の半導体からのテラヘルツ波発生、第4章の紫外新固体レーザーである。

 本論文に期される主な研究成果とその意味をまとめると以下のようになる。

 論文提出者は、受動モード同期により固体レーザーから安定にフェムト秒領域の光超短パルスを発生することに世界に先駆け成功しており、その成果は、従来の超短パルス色素レーザーを基本とした超短パルス光技術に革新的進歩をもたらすブレークスルーとなった。具体的には、赤外領域の波長可変固体レーザーであるチタンサファイアレーザーの共振器内に、セルフスタート可能なモード同期を開始させるための過飽和色素ジェットと分散補償のためのプリズム対を付加することにより、100フェムト秒台の安定な超短パルスレーザー光を発生した。また、従来の超短パルス色素レーザーと比べ格段に高出力であるため紫外光への高効率波長変換や更なる短パルス化へのパルス圧縮が容易に実現された。これら一連の技術革新の一番の意味は、従来の専門研究者でなければ扱えなかった超短パルスレーザー光源が誰にでも扱えるようになる端緒を作ったことにあり。現在では、各種の超短パルスチタンサファイアレーザーが、幅広い分野の研究開発現場に、まさにブラックボックスとして新領域の研究を支えている。

 また、その超短パルスチタンサファイアレーザーを用いた、超短パルスレーザー光の波長域拡大にも積極的に取り組み、磁場中の半導体に光を照射する装置から、世界に先駆けて、サブミリワットレベルの強度のテラヘルツ電磁波の発生に成功した。テラヘルツ電磁波とは、テラヘルツ領域(波長300ミクロン)付近の電磁波を示す。いわば電波と光の端境領域であり、今まで強力な発生源や検出器が少なかったため、未発見の現象が数多く存在すると考えられおり、その波長域での実用的超短パルスコヒーレント光源の開発の意味は極めて大きい。

 従来、紫外線領域の超短パルスレーザー光は、超短パルスチタンサファイアレーザーシステムからの近赤外線領域の超短パルスレーザー光を波長変換し発生した紫外光を用いる他はなく、紫外領域の超短パルスレーザー光源システムは極めて複雑にならざるを得なかった。既存のレーザーシステムより格段に簡便な紫外波長可変レーザーが求められていた。論文提出者は、結晶成長研究者との共同研究による新レーザー結晶(Ce:LiCAF,Ce:LLF)を用いた紫外線領域の超短パルスレーザーシステムの可能性の探求にも取り組んでいる。すでに、新結晶を用いたレーザー発振器からナノ秒以下の波長可変紫外光の発生や高効率のエネルギー抽出に成功しており、今後の研究展開により、近赤外領域でのチタンサファイアレーザーのような重要性を持つことも、とくに大出力の全固体紫外超短パルスレーザー光源システムの構築を新レーザー結晶を用いることにより期待される。

 上記のように提出者は様々な波長領域での超短パルスレーザー光の発生について、新規の方法を考案しており、その学術的意味は極めて高く、この分野における波及効果は大きい。この研究は物理工学に大きく寄与するものであり、よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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