本論文は、材料中に存在する欠陥、あるいは材料中に発生するき裂を評価するための手法である超音波探傷法およびアコースティック・エミッション法のための探触子を新たに開発し、さらにその有効性を示したものであり、全7章からなる。 第1章では、本論文で用いた超音波の波動伝播の理論およびその解析法について述べるとともに、従来の研究について整理し、本論文の目的を述べている。 第2章では、表面超音波を用いた点焦点型の超音波接触探触子を開発し、その評価を行っている。探触子の音響接触レンズを、表面波の発生に対して臨界角を持つように扇形とし、PVDFフィルムを超音波送信器および受信器に用いたものを新たに設計し、作製した。作製した探触子は狭い半値幅と高い音響強度を有する点焦点型であるという従来の探触子では得られない特徴を持つことを実験的に証明した。また、探触子中の応力パターンを理論的に評価するモデルを提案し、モデルを使って予測した応力パターンは実験結果とよく一致することを述べている。 第3章では、レイリー波を用いた点焦点型探触子を、曲面をもつ新しい形状のPZT圧電素子を用いて作製することによって実現している。従来のPVDFフィルムの点焦点探触子と比較すると、焦点位置におけるビーム強度で約35dB高く、またS/N比は約17dB高いものが得られている。また、得られた応力場は理論的に解析したパターンとよく一致した。作製した探触子を用いて、平面に存在する穴に沿って走査したところ、穴の大きさに依存する振幅をもった鋭いピーク像が得られた。これらの結果からこの点焦点探触子は、波長よりも小さな表面欠陥の検出に役立つことを示している。 第4章では、深さ依存性をもつレイリー波の反射率の連続測定の方法、様々な表面の不連続域と影響し合うパルスの測定方法およびその解析方法を示している。第3章で作製した探触子を用いて、深さ方向に微小な傾斜の存在する表面上の不連続域に沿ってレイリー波パルスの走査を行い、深さを変化させた際の反射エコー振幅を測定した。その結果、反射率が0.05<d/(スロット深さ/レイリー波波長)<2.57の範囲で連続的に良好な再現性を持って測定することが可能であることを証明した。0.05>d/<1.4の領域では通常の手法によって求められたデータおよび数値計算結果とよく一致することも示している。特に、本研究で用いた手法によると他の実験では報告されていない0.05<d/<0.25と極めて浅い領域において、反射率が数値計算の結果と極めてよい一致を示した。その結果から、深さ方向に微小な傾斜を持つ面上における穴の深さおよびその輪郭をより効果的、定量的に評価をするために、本章の方法が有効であることを示している。 第5章では、厚さが波長の約2倍以下の薄い層に対する厚さおよび音速を測定する方法について述べている。まず、通常の場合の超音波探傷においては、連続エコー信号は分離できなくなることを述べるとともに、近年開発された薄い平板の厚さや音速を決める新しい時間領域分析技術の妥当性およびその接触試験への適用を検討した。報告されている反射場の式の導出に誤りがあることを指摘するとともに、反射場の式の訂正を行った。実験では中心周波数が1.0、2.25、5.0MHzの接触型探触子を用い、水の層の厚さが0.06から1.44mm(0.04≦厚さ/波長≦5)の範囲で実験を行っている。厚さと波長の比が約0.4以上の場合には誤差7%以内、0.8以上の場合には誤差3%、2以上の場合には誤差1%で音速を求めることを可能にした。このように、接触型の探触子を用い、訂正した式を用いた時間領域技術を適用することにより、反射波を用いて薄い層の厚さの評価を精度よく測定することが可能であることを証明した。 第6章では、アコースティック・エミッションのための定量的なセンサーを開発している。まず、物体表面に生じる一時的な動的垂直速度を広帯かつ直接感知することのできるPVDFフィルムの圧電素子をもつセンサーを作製した。鋼板の震央における疑似信号をこのセンサーで検出し、その出力信号は媒体のグリーン関数とシミュレーションによる原波形を用いて計算した動的な垂直速度と非常によい一致を示すことを確かめた。出力信号は表面の動的垂直速度に比例し、感度は2MHzまで平均±3.8dB以内の誤差で平坦であった。また、電気的コンダクタンスの周波数依存性を用いて、圧電素子センサーの周波数特性を評価することが可能であることも明らかにしている。 第7章では、本論文を総括している。 以上、本論文は、表面波およびレイリー波を用いる超音波探触子、速度アコースティック・エミッション・センサーを新たに作製し、その特性を定量的に考察するとともに、材料の欠陥検出についての定量的非破壊評価のための新たな手法を提案したものであり、材料の非破壊検査工学に寄与するところが大きい。 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |