学位論文要旨



No 213933
著者(漢字) 金,炳克
著者(英字)
著者(カナ) キム,ビョンクック
標題(和) 不均一構造と表面速度の定量評価のための超音波探触子および新しい解析方法の開発
標題(洋) Development of Ultrasonic Transducers and Advanced Analysis for Quantitative Evaluation of Discontinuities and Surface Velocity
報告番号 213933
報告番号 乙13933
学位授与日 1998.07.16
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第13933号
研究科 工学系研究科
専攻 材料学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 岸,輝雄
 東京大学 教授 相澤,龍彦
 東京大学 教授 武田,展雄
 東京大学 教授 香川,豊
 東京大学 助教授 榎,学
内容要旨

 本論文においてはまず、接触型の表面超音波の強力焦点および超音波接触探触子の作製とその評価方法について示した。探触子の音響接触レンズは表面波の発生に対して臨界角を持つように、正三角形を回転させた形をしている。PVDFフィルムを超音波送信器および受信器に用いた。作製した探触子は狭い半値幅を有する高い音響強度を焦点でもつという特徴を示した。また、探触子の対称軸における応力パターンを理論的に評価する簡単なモデルも示した。モデルを使って予測した応力パターンは実験結果とよい一致を示した。この概念は超音波顕微鏡にも適用できる。

 次に、レイリー波の強力焦点型探触子を新しい形状の湾曲したPZT圧電素子を作製することによって実現した。湾曲したPZT素子でできた焦点探触子の二次元および三次元ビームの輪郭を、平らな底の穴の入った鋼ブロックにおいて接触走査をすることによって得られた。過去の研究において、しなやかなPVDFフィルムで作製した焦点探触子を用いた場合と比較して、焦点距離においてビーム強度で約35dB高く、SN比は約17dB高かった。焦点における-6dB、-3dBの半値幅はそれぞれ0.61mm、0.46mmであり、-6dB、-3dBの軸幅は5.5mm、4.0mmであった。軸応力場は簡単なモデルによって評価した全体的なパターンとよく一致した。レイリー波の波長に対する検出された最小欠陥サイズの比は0.29であった。作製した探触子を適用して、焦点距離で平らな底の穴に沿って、一回走査したところ、平らな底の穴の大きさに依存した振幅をもった鋭いピーク像が得られた。焦点探触子は半値幅分解能で高エネルギー、そして高いSN比という特徴を示し、波長よりも小さな表面欠陥の検出に実用的に役にたった。

 さらに、深さ依存をもつレイリー波の反射率の連続測定または様々な表面の不連続域と影響し合うパルス測定のための新しい方法および概念を示した。方法としては深さ方向に小さな傾斜のあり表面不連続域に沿った小さな横ビーム幅のレイリー波パルスの走査を行い、深さを変化させた際の反射エコー振幅を記録した。傾斜したスロットと点焦点レイリー波を用いた実験において、反射率を極めて再現性よく0.05<d/(スロット深さ/レイリー波波長)<2.57(0.034mm<d<1.77mm)の範囲で連続的に測定できた。0.05<d/<1.4の領域では他の通常の方法によって決められた間欠的なデータといくつかの数値結果とよい一致を示した。特に、他の実験では報告されていない0.05<d/<0.25と極めて浅い領域においては、スロットやダウンステップを用いた数値評価と極めてよい一致を示す反射率を測定した。長波長あるいは0.05<d/<0.5の浅い深さの領域における様々な表面の深さ、あるいは深さの輪郭をより効果的、定量的に評価をするために、新しい方法を用いることができることを示した。

 また、厚さが波長の約二倍以下の薄い層に対する通常の超音波探傷においては、連続エコー信号は分離できなくなるが、近年、薄い平板の厚さや音速を決める新しい時間領域分析技術が発展し、スルー透過実験が報告されている。その技術の妥当性および反射場系のもとでの接触試験への適用を検討している。我々は報告されている、再構築された反射場の等式の導出に誤りがあることを見つけ、訂正を行った。中央部の周波数が1、2.25、5MHzの接触タイプの探触子を用い、反射場系において、厚さが0.06から1.44mm(0.04≦厚さ/波長≦5)の水層についての実験を行った。厚さと音速を厚さに対する波長の比(h*/)が約0.4以上の時は誤差7%以内、0.8以上の時は誤差3%、h*/が2以上の時は誤差1%で求めることができた。接触型の探触子を用い、反射系のもとでの薄い層の媒体の評価を行う際に、我々の訂正した等式を用いた時間領域技術を適用することができた。

 一方、物体表面に生じる一時的な動的垂直速度を広帯かつ直接感知し、その絶対値を評価することがPDVFフィルムの圧電素子、PVC背面負荷、PVC板で作製されたセンサーを使うことによって実現された。鋼板の震央において、十分に明確化された段階的な力を使用した試験で得られた、センサーからの一時的な出力信号はグリーン関数とシミュレーションによる原波形を使用して計算した動的垂直速度と非常によい一致を示した。出力信号は表面の動的垂直速度に比例し、速度に対して周波数依存性をもつ感度は2MHzまでの周波数で平均±3.8dB以内の誤差で平坦であった。表面の一時的な動的垂直速度は理論的なもので校正されたセンサーを使うことによって必ず決定することができる。また、力学系および電気コンダクタンスのスペクトルによって決定された感度スペクトル間の関係を反響型である広帯変位型と広帯速度型の圧電素子センサーで調べた。それぞれのセンサーのコンダクタンスを5MHzの周波数範囲で測定した。圧電素子の種類に対応する独特の特徴が電気コンダクタンスのスペクトルに現われ、その傾向は理論的に計算された震央の変位に関連する値として評価される感度スペクトルに類似していた。比較的簡単な実験方法で測定された、周波数依存電気コンダクタンスは圧電素子センサーの分類や広周波数領域において、およその周波数特性を評価する際に使用できることを示した。

審査要旨

 本論文は、材料中に存在する欠陥、あるいは材料中に発生するき裂を評価するための手法である超音波探傷法およびアコースティック・エミッション法のための探触子を新たに開発し、さらにその有効性を示したものであり、全7章からなる。

 第1章では、本論文で用いた超音波の波動伝播の理論およびその解析法について述べるとともに、従来の研究について整理し、本論文の目的を述べている。

 第2章では、表面超音波を用いた点焦点型の超音波接触探触子を開発し、その評価を行っている。探触子の音響接触レンズを、表面波の発生に対して臨界角を持つように扇形とし、PVDFフィルムを超音波送信器および受信器に用いたものを新たに設計し、作製した。作製した探触子は狭い半値幅と高い音響強度を有する点焦点型であるという従来の探触子では得られない特徴を持つことを実験的に証明した。また、探触子中の応力パターンを理論的に評価するモデルを提案し、モデルを使って予測した応力パターンは実験結果とよく一致することを述べている。

 第3章では、レイリー波を用いた点焦点型探触子を、曲面をもつ新しい形状のPZT圧電素子を用いて作製することによって実現している。従来のPVDFフィルムの点焦点探触子と比較すると、焦点位置におけるビーム強度で約35dB高く、またS/N比は約17dB高いものが得られている。また、得られた応力場は理論的に解析したパターンとよく一致した。作製した探触子を用いて、平面に存在する穴に沿って走査したところ、穴の大きさに依存する振幅をもった鋭いピーク像が得られた。これらの結果からこの点焦点探触子は、波長よりも小さな表面欠陥の検出に役立つことを示している。

 第4章では、深さ依存性をもつレイリー波の反射率の連続測定の方法、様々な表面の不連続域と影響し合うパルスの測定方法およびその解析方法を示している。第3章で作製した探触子を用いて、深さ方向に微小な傾斜の存在する表面上の不連続域に沿ってレイリー波パルスの走査を行い、深さを変化させた際の反射エコー振幅を測定した。その結果、反射率が0.05<d/(スロット深さ/レイリー波波長)<2.57の範囲で連続的に良好な再現性を持って測定することが可能であることを証明した。0.05>d/<1.4の領域では通常の手法によって求められたデータおよび数値計算結果とよく一致することも示している。特に、本研究で用いた手法によると他の実験では報告されていない0.05<d/<0.25と極めて浅い領域において、反射率が数値計算の結果と極めてよい一致を示した。その結果から、深さ方向に微小な傾斜を持つ面上における穴の深さおよびその輪郭をより効果的、定量的に評価をするために、本章の方法が有効であることを示している。

 第5章では、厚さが波長の約2倍以下の薄い層に対する厚さおよび音速を測定する方法について述べている。まず、通常の場合の超音波探傷においては、連続エコー信号は分離できなくなることを述べるとともに、近年開発された薄い平板の厚さや音速を決める新しい時間領域分析技術の妥当性およびその接触試験への適用を検討した。報告されている反射場の式の導出に誤りがあることを指摘するとともに、反射場の式の訂正を行った。実験では中心周波数が1.0、2.25、5.0MHzの接触型探触子を用い、水の層の厚さが0.06から1.44mm(0.04≦厚さ/波長≦5)の範囲で実験を行っている。厚さと波長の比が約0.4以上の場合には誤差7%以内、0.8以上の場合には誤差3%、2以上の場合には誤差1%で音速を求めることを可能にした。このように、接触型の探触子を用い、訂正した式を用いた時間領域技術を適用することにより、反射波を用いて薄い層の厚さの評価を精度よく測定することが可能であることを証明した。

 第6章では、アコースティック・エミッションのための定量的なセンサーを開発している。まず、物体表面に生じる一時的な動的垂直速度を広帯かつ直接感知することのできるPVDFフィルムの圧電素子をもつセンサーを作製した。鋼板の震央における疑似信号をこのセンサーで検出し、その出力信号は媒体のグリーン関数とシミュレーションによる原波形を用いて計算した動的な垂直速度と非常によい一致を示すことを確かめた。出力信号は表面の動的垂直速度に比例し、感度は2MHzまで平均±3.8dB以内の誤差で平坦であった。また、電気的コンダクタンスの周波数依存性を用いて、圧電素子センサーの周波数特性を評価することが可能であることも明らかにしている。

 第7章では、本論文を総括している。

 以上、本論文は、表面波およびレイリー波を用いる超音波探触子、速度アコースティック・エミッション・センサーを新たに作製し、その特性を定量的に考察するとともに、材料の欠陥検出についての定量的非破壊評価のための新たな手法を提案したものであり、材料の非破壊検査工学に寄与するところが大きい。

 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク