本論文は「蛍光X線分析装置の開発とその応用」と題し、蛍光X線分析の装置に関し、装置特性を定めるうえで重要な一次X線の発生強度分布、ソーラースリットの効果、分光結晶特性ならびに検出器の性能向上について実験とモデル計算に基づき検討し、また、装置系全体の改良を行って超軟X線領域の蛍光X線を精度良く測定可能とすると共に半導体薄膜試料分析への発展の道を拓き、さらにこれらの装置を種々の鉱石、鉄鋼材料、ならびに工場排水中の金属等の元素分析、状態分析に応用したものであり、全5章からなる。 第1章は序論であり、蛍光X線分析装置の開発に関し、歴史的沿革、装置化の発展について述べ、本法の分析機器ならびに工業分析化学的特徴を述べている。 第2章では、装置の基本的構成要素に関する検討の結果について述べている。すなわち、まず、ファンダメンタルパラメーター(FP)法による分析のための正確度の向上と軽・超軽元素分析のために、X線管から発生する一次X線の発生強度の分布測定を行い、薄いベリリウム板を窓材とした端窓型X線管の特性が重要であることを明らかにした。ついで、平行X線束法の光学系の解析を行ない、ソーラースリット箔の全反射・二重ソーラースリット効果とLiF(200)モザイク特性をもとに、より合理的な光学系設計の基礎を明らかにした。また、新しい製作方法によるグラファイト分光結晶の特性を検討した。さらに、計数測定の性能の向上を目的として、高計数測定の際の数え落としの補正ならびにガスフロー型比例計数管特有の波高値の低下の補正の検討を行なった。 第3章では、軟・超軟X線装置の開発と応用について述べている。まず、封入型ベリリウム薄板を用いた端窓型ロジウムターゲット付X線管と薄い有機膜を窓材としたガスフロー型比例計数管を用いて二種類の分光素子の研究を行なった。分光素子として全反射ミラー、フィルター、波高選別器という組合わせの分光系と、人工累積膜格子と波高選別器を用いた分光系による軟・超軟X線の測定を行なった。ここに累積膜格子を用いることにより1Be〜92Uの全元素が蛍光X線で分析可能となった。また、全反射ミラー方式は測定される強度は強いが分光能力は低いため、C-KおよびB-KX線の測定にのみ用いることが出来るが、累積膜格子は反射強度は低いが分光能力は優れており、SN比が良く複雑な試料の分析に適していることを明らかにした。さらに、軟・超軟X線の測定とFP法の結合により1.0〜100.0nmの薄膜および多層膜の測定を可能とし、半導体集積回路における種々の薄膜の測定に応用した。 第4章では、蛍光X線分析装置の応用について述べている。蛍光X線分析による微量分析ではバックグラウンドX線が分析誤差に大きく影響を与えるので、その原因である試料からの一次X線を詳しく検討した。鉱石分析は最も重要な応用の一つであるが、その分析誤差の主な要因は、試料が天然物の混合物であることと、マトリックス効果が大きいことによっている。そこで、試料からのRh-KX線のコンプトン散乱X線を内部標準として用いることにより、鉄、マンガン、ニッケルおよび銅の鉱石分析を行なった。製品分析の例としては低合金鋼の分析誤差を測定し、MnSにみられるような析出による偏析が発生している状態の解析を行なった。また、表面分析の特質を生かして、工場排水などにふくまれる低濃度の重金属元素の分析を電着法による濃縮法を用いて分析した。 第5章は総括であり、蛍光X線分析装置の発展に伴って、装置化の重点が、構成素子の高性能化、システム化、自動化、汎用化などと変遷したこと、また、試料の均一性と分析精度の関係などの重要性などについて述べ、さらに、今後の課題と展望について述べている。 以上本論文は、蛍光X線分析装置の開発と応用について、極めて初期の段階から次第に高性能化を実現していくほぼ全ての過程に関し種々の問題点を詳細に検討・解析し解決したことを述べており、また、その結果が蛍光X線分析法の市販装置の開発および応用・普及を通して、社会に貢献したことを論じている。したがって、工業分析化学、X線分光学、計測物理・化学等の各分野にたいし貢献することが顕著である。よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |