本研究は長期部分体外循環であるV-A ECMO(veno-arterial extracorporeal membrane oxygenation)中の冠動脈の酸素飽和度に対して、PDA(動脈管)を介する左-右シャントがどのような影響を及ぼすかを明らかにするため、イヌを用いてECMOを行い、左-右シャントの流量を変化させながら冠動脈の酸素飽和度を測定し、その解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。 1.V-A ECMO中、心筋を灌流する冠動脈には、自分自身の左心室から拍出された血液、すなわち肺でのガス交換が不十分な場合はほとんど酸素化がなされずに肺循環を灌流してきた酸素飽和度の低い血液と、ECMOから送血される血液、すなわち人工肺で酸素化され酸素飽和度が十分に高い血液が、上行大動脈で混合されて流入する。その混合の割合は、高流量のECMO下であっても、冠動脈に流入する血液の約60%は自分自身の左心室から拍出された血液であることが示された。 2.高流量V-A ECMO下において、左-右シャントが存在することにより、冠動脈の酸素飽和度は上昇することが示された。特にECMOの補助が十分に多い場合や左心拍出量の少ない場合においては、ECMO流量の5%というわずかなシャント量によって十分に酸素飽和度が保たれることが示された。 3.ECMO流量が少ない場合や左心拍出量の多い場合には、わずかなシャント量では十分に冠動脈の酸素飽和度を上昇させることはできないことが示された。 4.PDAを介した少量の左-右シャントの存在が、過度のlung restによる心筋低酸素の危険性を回避する可能性があると考えられた。 5.心拍出量が保たれている場合や、ECMO流量が高流量に保てない場合には、たとえ左-右シャントを認めたとしても、心筋低酸素の危険性を念頭に置く必要があると考えられた。 6.実際の臨床においては、PDAを介するシャントを心エコーなどによって確認し、その他の循環状態の観察を行いながら、十分な注意を払って換気条件を設定する必要があると考えられた。また小児外科領域で行われる気道外科手術にECMOを用いる場合、心機能の比較的良好な患者が、換気を完全に止められる状況に置かれることから、心筋への酸素供給が阻害される可能性を常に念頭に置きながら、呼吸管理を行う必要があると考えられた。 以上、本論文はV-A ECMO中のPDAを介する左-右シャントの存在が、冠動脈の酸素飽和度を上昇させ、lung restの場合においても心筋低酸素を回避できる可能性があることを明らかにした。本研究はこれまでほとんど知られていなかったECMO中の冠動脈酸素飽和度や心筋低酸素の危険性とPDAを介する左-右シャントの関係の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |