本研究は、舌がんの予後決定に重要な因子である頚部リンパ節転移の発生に関する原発巣の条件、予後因子、治療に関係する術式、経過観察か予防的郭清術化の選択などの諸問題について多くの症例の臨床及び病理学的所見を解析することで検討を加えたものであり、以下の結果を得ている。 1.舌の原発巣深達度が粘膜下浸潤までに留まると頚部リンパ節転移は稀であるが、筋層浸潤(+)となると頚部リンパ節転移が高率に生じ、深部へ進むほど発生頻度は高率であった。また脈管侵襲やperineural invasionが存在するとさらに高率に転移を生じた。 2.舌原発巣において、前方占拠型や口腔底浸潤例はオトガイ下転移・中深頚部転移の発生率が高く、また顎下や上深頚部を飛び越えて中深頚リンパ節転移で初発する例もあった。 3.頚部リンパ節転移の個数は舌がんの予後ときわめて密接な関係があり、特に転移個数3個以上は予後不良であった。 4.頚部転移の分布は顎下・上・中深頚部にきわめて多く、他の部位にはかなり減少すること、及び部位別の予後も顎下・上・中深頚部とそれ以外の部位での差が大きいことから舌がんの基本的な頚部転移手術は全頚部郭清術でなくsupra-omohyoidal neck dissectionで十分であることが確認された。 5.治療的頚部郭清術において、根治的頚部郭清術と保存的頚部郭清術の術式別に予後・頚部再発を比較検討したところ差を認めなかった。ただしretrospective studyのため母集団の転移個数に差があり、有意差検定は不可能であった。 6.T2においては頚部リンパ節転移は、初発時顕在化例、潜在例、後発例をあわせると48%に認められきわめて高率に頚部転移を有することが判明した。 7.後発転移は44%に認められたが、予防的郭清術施行例と経過観察例との間に予後の差はなく予防的頚部郭清術の利点は再入院再手術の減少が主であり、予後については厳重な経過観察で十分と考えられた。 8.経過観察に伴う担がん状態の長期化による頚部リンパ節転移個数のステージアップは予防的頚部郭清群との間では認められなかった。 9.予防的郭清術施行の場合は予後改善よりも再手術の減少が利点であることから、できるだけ組織を温存する保存的なsupraomohyoid neck dissectionで十分であると考えられた。 以上、本論文は舌がんにおいて頚部リンパ節転移の発生しやすい要因や予後の危険因子を明らかにし、再発しやすい症例の選別を可能とし、追加治療を要する症例の抽出を可能としたほか、頚部リンパ節転移に対する治療方法を確立するために各手術法間の比較検討を行い、その長所・短所を明らかにしたものであり、今後の舌がんの治療に大きな貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |