I型コラーゲンの過剰な沈着は汎発性強皮症をはじめとする多くの線維化を伴う疾患で特徴的であり、コラーゲン遺伝子の転写活性が亢進していることによるものと考えられている。本研究はI型コラーゲンの転写制御を明らかにするためそのプロモーター領域を解析したものであり、下記の結果を得ている。 1.遍在性の転写因子Sp1およびSp3はヒト 2(I)コラーゲン遺伝子のプロモーター領域の-303bpから-271bp領域、-128bpから-123bp領域の2つの転写活性化領域および転写抑制領域である-164bpから-159bpに特異的に結合することがDNA mobility shift assayにて明らかにされた。 2.Drosophila細胞を用いたCATアッセイによるSp1とSp3の機能の解析の結果、両転写因子はヒト 2(I)コラーゲン遺伝子のプロモーター活性を同程度活性化し、両者を同時に発現した場合プロモーター活性に相加的影響を与えた。 3.in vitro transcription assayにて転写因子Sp1とSp3は互いに独立してコラーゲン遺伝子を支持していることが示された。さらに、Sp1とSp3の両者の活性が特異的抗体によって同時に阻害された場合、ヒト 2(I)コラーゲン遺伝子のin vitroの転写はほぼ完全に消失することが示された。 本研究の結果より、転写因子Sp3はSp1同様ヒト 2(I)コラーゲン遺伝子プロモーター活性の転写活性化因子で、ヒト 2(I)コラーゲン遺伝子の転写活性は両転写因子によることが明かとなった。 以上、本論文はヒトI型コラーゲン遺伝子を制御する転写因子としてSp1およびSp3の存在およびその機能を明らかにした。本研究は、未だ明かとなっていない皮膚あるいは内臓諸臓器の線維化の分子生物学的機序の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |