本研究は、心身医学において心身症発症の一要因としての人格特徴の抽出は重要なテーマであること、交流分析理論に基づいて作成された東大式エゴグラム第2版(以下TEGとする)は人格特徴の抽出の目的で心療内科の臨床において広く用いられている心理テストであることを踏まえ、特定のエゴグラムによって示される人格の特徴が心身症発症のリスクとなるというDusayの仮説の実証をTEGを用いて試みたものである。同種の研究はすでに存在するが、対象とした症例数が少ない、対照群がない、単変量の解析であること、リスクを求めていないなどの点で方法論上の問題点があると考えられた。そこで、本研究では、東京大学心療内科外来を受診した心身症群及び対照群として年齢性別をマッチさせた健常者群に対して、TEGおよび感情状態の自己評価式質問紙Profile of Mood State(以下POMSとする)を施行し、POMSから得られる気分状態の影響を統制した上で、TEGから得られる人格要因による心身症発症のリスクを決定することを行った。そして、その結果からTEGから得られる人格要因の心身症発症への関与の大きさおよびその内容について考察し、その結果、下記の知見を得ている。 1.心身症群と健常者群ではTEGパターンの出現度数、TEG5尺度・POMS6尺度に差が認められ、Critical Parent(以下CPとする) ・Adapted Child(以下ACとする)及びTention-Anxiety・Fatigueは心身症群の方が高く、Nurturing Parent・Free Child(以下FCとする)及びAnger-Hostilityは健常者群の方が高かった。Total Mood Disturbance score(以下TMDとする)には差は認められなかった。 2.TMD及びTEGパターンをカテゴリー分けしたものを説明変数とし、結果変数を心身症の有無として、条件付きロジスティック回帰分析を行った結果、「AC非優位型」に比べて「CP・AC優位・FC低位型」が5.47倍の有意で意味のある心身症発症のリスクをもった。よって、遠慮が少なく自らの意志を行動の指針とするという特徴をもつものに比べて、葛藤状態に陥りやすく感情を抑圧するという人格の特徴をもつものは気分状態によらず心身症を発症しやすいと考えらえた。 3.2.のことは、心身症群を摂食障害群、摂食障害以外の心身症群に分けたときも同様に認められた。自律神経失調症群のみを心身症群から抜き出して同様の操作を行ったときは、有意な結果は得られず、対象数を増やして今後の検討が必要と考えられた。 以上、本論文は、心身症発症の一要因としての人格特徴をTEGを用いて抽出することを試み、条件付きロジスティック回帰分析によりリスクという形で、その重要性を数量的に示した。本研究は、心身症発症への人格要因の関与をより整った方法論で明かにするとともにリスクとなる人格の特徴を考察し、心身症発症の一側面に示唆を与えることで、心身医学に貢献をなしたと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |