血液透析および腹膜透析(CAPD)は、末期腎不全患者に対して我が国で最も良く行われている治療法である。しかし、この二つの治療法による、患者の視点からみたアウトカムの差は明らかにされていない。本研究では、透析患者に対する疾患特異的QOL尺度の一つであるKDQOLTMを日本人患者に対して用い、その信頼性(内的整合性および再検査信頼性)を検討した。さらに、この尺度を用いて、血液透析患者とCAPD患者のQOLを比較した。比較するにあたって、患者自身が重要と認識するQOLのすべての側面を反映すること、その比較によって医療従事者・医療政策決定者および患者に対して何らかの還元ができること、国際比較・異文化間比較をする際の基礎的知見となりうること、に留意した。特に本研究では、 1.日本の透析患者の健康関連QOLは、国民標準と比較するとどの側面で、どの程度低下しているのか(あるいは低下していないのか)、 2.CAPD患者の健康関連QOLは血液透析患者に比べて高いのか、 3.日本における治療法別比較(血液透析vsCAPD)の結果と、諸外国の結果には差があるのか、 を定量的に明らかにすることを目的とした。 KDQOLTMの内的整合性の指標として793名の透析患者のデータからCronbach’s 係数を求め、再検査信頼性は60名患者を対象にして評価した。その結果、内的整合性および再検査信頼性は十分高いことが確認された。 血液透析患者(418名)およびCAPD患者(102名)の健康関連QOLを、KDQOLTMを用いて測定した。KDQOLTMは、包括的QOL尺度であるSF-36と、疾患特異的な項目とから成り立っている。結果を以下に述べる。 1.すべての下位尺度において透析患者の健康関連QOLは国民標準値に比べて低下していた。 2.CAPD患者と血液透析患者で有意な差が認められたのは、社会機能のみだった。CAPD患者の社会機能の得点は、血液透析患者よりも有意に低値であり、交絡因子を考慮した重回帰分析からも同様の結果を得た。 3.同一の尺度を用いて行われた、スコットランド、カナダおよびオランダにおける先行研究と比較した。それぞれの下位尺度についての治療法別比較の結果は、国によって異なっており、国による差は臨床的な意義があると認めるのに十分なほど著しかった。 本研究は、妥当性・信頼性のある多次元的な尺度を用いて健康関連QOLを測定することの重要性を示した。また、治療法と健康関連QOLとの関連には国によって大きな違いがあることを明らかにした。さらに、本研究の結果はCAPD患者のQOLを向上させる医学的・看護学的・社会福祉的介入が患者の社会機能を改善させる現実的な方策を講じることに重点を置くべきであることを示唆しており、明確で具体的な臨床的意義を持つと考えられた。 以上、本論文は、患者のQOL向上に対する方策に対して臨床的に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |