学位論文要旨



No 213974
著者(漢字) 吉井,幸雄
著者(英字)
著者(カナ) ヨシイ,ユキヲ
標題(和) 大型送電用鉄塔基礎への脚材定着に関する研究
標題(洋) A Study on Anchorage embedded in the Tower Foundation of Trunk Line
報告番号 213974
報告番号 乙13974
学位授与日 1998.09.17
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第13974号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 前川,宏一
 東京大学 教授 岡村,甫
 東京大学 教授 龍岡,文夫
 東京大学 教授 魚本,健人
 東京大学 教授 堀井,秀之
内容要旨

 大型送電用鉄塔基礎は、RC構造による杭基礎と深礎基礎が用いられる。送電用鉄塔では風圧などにより、基礎に多大な引抜き荷重が伝達される事から、基礎との定着には特有の方式が用いられている。すなわち、基礎と鉄塔脚材との定着は、杭基礎では"いかり材と"称する十字形の鋼材からなるアンカーを用いた"いかり材方式"が、深礎基礎では"支圧板"と称するリング状プレートを脚材に筋状に取付ける"支圧板方式"が採用されている。

 近年、電力需要の増大により大容量送電の必要性から鉄塔が大型化し、基礎に作用する引抜き荷重の増大により基礎構造の大型化が進み、寸法効果等の問題が生じた。鉄塔脚材にも高張力鋼が使用されるようになったため、従来の脚材定着耐力算定式の適用範囲を逸脱するという課題も浮上した。

 いかり材方式の脚材定着耐力の算定は、コーン状の引抜きせん断破壊を基本に検討されていたが、本研究では新たな条件や課題が生じため、本定着方式の適用範囲の拡大と合理化を指向して、以下を解明することにした。

 (1)大型化に伴う実構造物での寸法効果

 (2)せん断補強筋がフーチングの引抜きせん断耐力の増分に寄与する効果

 (3)いかり材の合理的な形状

 せん断補強筋鉄筋量といかり材形状を変化させた2体の実規模実験を実施し、既往の模型実験も加味し分析を行った。その結果、以下のことが明らかとなり、耐力算定式等の提案を行った。

 (1)実規模の実験結果は既往の耐力算定式と概ね一致しており、コンクリート負担分のせん断耐力Pcの算定おける平均せん断強度は、コンクリート標準示方書と同様に、有効高さの1/4乗に反比例する(図1)。

 (2)せん断補強筋は、従来斜めひび割れのせん断破壊面を貫通する補強筋のみ有効としていたが、終局時に全てのせん断補強筋が降状していることから全せん断補強筋が寄与する。

 (3)せん断補強筋量が増加することにより、フーチングのせん断耐力とせん断補強筋の耐力の重ね合わせは成立せず、補強筋の分担率が50%以上では補強筋の無いフーチングのせん断耐力の2倍で一定となる傾向がある。

 (4)いかり材に発生する支圧応力は、せん断ひび割れの発生に係わらず取付板側で大きく取付板より外側で小さい。また、本構造形式においてコンクリートの支圧強度は、コンクリート標準示方書の強度の1.5倍以上である。

図1 せん断ひび割れ形成荷重に対するスケール効果

 支圧板方式の脚材定着耐力算定は、基礎躯体コンクリート部の円周方向の割裂破壊を基本に検討されていたが、いかり材脚材定着と同様に新たな条件や課題が生じたため、以下を解明することとした。

 (1)深礎基礎の躯体径が増大する影響

 (2)コンクリート強度が増大する影響

 (3)定着部の長さが増大する影響

 上記の要因を変化させ11体の1/6程度の模型実験を行い既往の実験結果と合わせて分析した。支圧板定着は単純な円柱構造であり無筋コンクリートに近いことを考慮し、最新の破壊力学の成果を踏まえた2次元平面ひずみ解析を実施した。その結果以下のことが明らかとなり、耐力算定式を提案した(図2)。

 (1)割裂破壊に対し抵抗する領域は、脚材径の影響を考慮できるよう深礎基礎の躯体コンクリート部全域とする。

 (2)深礎基礎躯体コンクリート部の円周方向の引張応力度分布は、躯体径、コンクリートの強度によって異なり、脚材定着耐力に影響を及ぼす。

 (3)躯体径が大きくなると、破壊時の円周方向平均引張強度は小さくなり、コンクリートの躯体径の1/3乗に反比例する寸法効果が見られる。

 (4)コンクリート強度が大きくなると、割裂ひび割れ領域の軟化傾向が強くなり、破壊時の円周方向平均引張強度はコンクリート圧縮強度fc’の1/3乗に反比例する。

 (5)脚材の定着長が長くなると逐次進行破壊が生じ、定着耐力は脚材定着長と脚材径の比(L1/)の1/7乗に反比例する。

図2 支圧板方式の提案耐力式の精度

 より合理的な支圧板方式による脚材定着を可能とするため、円周方向に新しく提案した引張軟化構成式を用い、最新の知見を併せた軸対称擬似3次元解析による数値解析手法を開発した。開発した手法を用い、長さ・躯体径において特徴的な3つの模型実験のシミュレーションを行った。また。実規模のシミュレーションも実施しその適用性を評価した。その結果、以下のことが分かり、開発した数値解析手法の適用性の高いことが検証された。

 (1)本解析手法は荷重〜脚材抜け出し変位関係、割裂ひび割れ進展状況(図3)、躯体面のひび割れ状況、脚材のひずみおよび逐次破壊状況といった実験の結果をほぼシミュレートできる。

図3 割裂ひび割れ(Case1)

 (2)本解析手法は、破壊時における平均引張強度が(躯体長-脚材径)の1/7乗に反比例するという逐次破壊効果を表現できる。

 (3)実規模のシミュレーション解析における破壊耐力は、本研究の耐力算定式の値と同等となる。

 以上の本研究の成果により、UHV送電用鉄塔等の大型送電用鉄塔の建設が可能となり、電力の安定供給に大いに寄与した。

 今後も本論文で適用した数値解析手法をさらに発展させ、合理的な脚材定着のメカニズムを究明していくものである。

審査要旨

 電力需要の増大に対応してエネルギー社会基盤の整備を展開し,同時に建設に関わるコストダウンを図ることは,環境負荷の低減とも相まって,緊急を要する事項である。効率的な電力供給の一つの方法として,送電圧を1000kVまでに高めたUHV送電計画が策定され,昭和60年代から建設が開始された。ここでは送電鉄塔が格段に大型化され,これらを安全にかつ経済的に基礎へ定着するための脚材定着設計法が求められることとなった。本研究は,鉄筋コンクリート大型送電鉄塔基礎への脚材定着設計方法を提案するとともに,せん断破壊に対する安全性能照査システムを実験および解析的手法によって構築したものである。本論文で提示された設計法によって,現在のUHV送電鉄塔基礎が設計・施工されている。従来からの設計システムと比較して,一層,鉄塔基礎の破壊に対する安全性能が明確にされ,同時に大幅な建設経費の削減に実質的な貢献を本論文は果たしている。

 第1章は序論であり,我が国の電力供給の現状を纏め,今後において展開すべき送電施設と本研究の意義を明示している。研究の対象として,いかり材定着方式と支圧板定着方式を取り上げ,これらの設計方法の問題点を整理するとともに,大型鉄塔基礎のせん断破壊に関する寸法効果を,合理的に設計システムに取り入れることの重要性について論じ,研究の方向と背景を明らかにしている。

 第2章では,いかり材方式による鉄塔脚材の基礎定着設計法について新たな提案を行い,実寸法の基礎にまで適用可能なせん断耐力算定式を与えている。脚材の軸力に抗しきれずに基礎が破壊する形態として,3次元的な広がりを呈しながら,不安定に成長するせん断ひび割れに着目した。この過程を実規模にまで拡張した実験によって詳細に計測した結果,目視が不可能な3次元せん断破壊に対して新たな知見を提供するとともに,最終耐力に至る過程を解明している。大型実規模実験の結果と,これまでのモデル実験とを組み合わせて,いかり材方式による鉄筋コンクリート基礎構造のせん断耐力算定式を得ている。特に,正規化されたせん断耐力が構造寸法の増加に従って低下する寸法効果を精度良く評価することで,大型基礎構造の安全性を合理的に確保しているのである。

 第3章は,支圧板方式による鉄塔脚材の鉄筋コンクリート基礎設計法について論じたものである。支圧板近傍から発生するコンクリートの斜めひび割れと,脚材を取り巻く方向に発生する割裂ひび割れの進展過程を実験によって詳細に観察し,その結果をもとに内部応力分布を簡単なモデルで代表させることにより,鉄塔脚材の引き抜き耐力を算定する方法を見いだしている。系統的にパラメータを変化させた脚材定着構造の耐力を実験的に求め,提案された引き抜き耐力算定式の精度の検証を行った。

 第4章では,疑似3次元非線形破壊解析を支圧板方式の定着システムの破壊挙動に適用する方法について提案し,その精度と適用範囲に関する検証を行っている。脚材円周方向に対するコンクリートのひび割れ破壊と,脚材に溶接された支圧板から斜め方向に進展するせん断ひび割れを,直交性の仮定から独立に扱う方法を提案し,脚材の支圧板方式の定着とコンクリート製基礎の破壊の両者を,大凡,数値解析によって扱えることを示している。さらに,ひび割れの進展方向に関連した簡略化を必要としない,一般化された鉄筋コンクリート3次元非線形破壊解析の将来の方向について論じている。

 第5章は結論であって,本研究で得られた3次元鉄筋コンクリート基礎構造のせん断破壊挙動に関する知見に基づき,既往の500kV送電鉄塔基礎の設計と,本研究による1000kVの構造設計とを比較検討している。新設計法にともなう定着構造諸元の変化を纏め,所定の安全性を確保した上で,床板厚さの20%縮小と30%を越えるいかり材の軽量化が図られたことを示している。最後に,鉄筋コンクリート大型基礎の設計合理化の方向について論じ,展開すべき基礎研究の方向について述べて本論文のまとめとしている。

 本研究は以上に述べたように、鉄筋コンクリート大型送電用鉄塔基礎のせん断破壊の機構解明を通じて,脚材定着設計の合理化を達成したものである。また,3次元せん断破壊に関する知見は送電鉄塔基礎に限定されず,一般の基礎構造に共通の知見を与えている。これらは,エネルギー施設の建設コストの縮減にも貢献するところが大きい。よって,本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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