本論文は「A study on natural language processing in broadcasting services(放送サービスにおける自然言語処理に関する研究)」と題し、番組制作の効率化と番組受信端末の高機能化を目的として、自然言語処理技術を放送技術に適用することにより映像データを内容に応じて管理・検索する手法とこの手法を適用した番組制作手法を中心に論じている。また、海外からの番組に字幕を付与する場合に問題となる口語特有の長文の解析に対応した手法を提案している。さらに受信系の制御においてはエージェントの概念を導入し、自然言語による視聴者と受信端末間のやり取りの効果を検証したものであり、全6章からなり、英文で記されている。 第1章は「Introduction(序論)」であり、今後多チャンネル化する放送分野において、膨大な量の番組コンテンツの供給のための番組制作の効率化と、受信端末の高度な番組選択機能が課題になることを示し、これらの課題の解決策として自然言語処理を導入することが有効であるにもかかわらず、今まであまり研究されていなかったことを指摘し、本論文で扱う番組制作にあたり映像の内容をキーワードよりも柔軟に記述できる構文情報を利用する素材映像管理や検索、及び番組制作手法と、字幕翻訳のために構文解析精度を上げる新しい手法、受信系における番組自動選択と自然言語を用いた人間とエージェント間のコミュニケーション手法の重要性を紹介している。 第2章は「Content-based video indexing method-natural language approach-(自然言語による映像の管理・検索手法)」と題し、構文情報を利用して映像の内容を記述する汎用的な素材映像の管理と検索手法を提案している。映像の管理・検索手法の代表としてキーワードに基づく手法を整理し、その考え方の延長上でキーワードだけでなく構文情報も同時に扱う新たな構文構造を提案している。この手法は、キーワードによる手法の欠点を解決し、素材映像の管理の効率や検索の精度を向上させる。また実験を通じて映像管理と検索の有効性を検証している。 第3章は「Natural language script based TV program production(自然言語スクリプトによるテレビ番組制作)」と題し、第2章の手法を用いて映像の内容を記述した自然言語スクリプト(台本など)による番組制作手法を提案している。素材映像の内容を日本語文で記述したスクリプトを用いて必要な素材映像を検索し、順に再生することにより、実際の映像を見ながら番組構成を具体的に検討できる制作モデルを展開している。このスクリプトは日本語で映像内容を記述しているため、機器操作の手順を中心とした編集コマンドで記述する従来のスクリプトと比べて可読性が高くなる。さらに、スクリプトを変更することで番組の内容を容易に変更できる利点がある。このモデルに基づく実験システムを構築し、制作効率化への有効性を実証している。 第4章は「Machine translation of very long sentences for closed-captioned program production(字幕制作のための長文翻訳)」と題し、長い字幕を短文に分割して自動翻訳の精度を上げる手法を提案している。長文は構文解析が難しく、自動翻訳はほとんど失敗する。この手法は、大量の文書データから、長文特有な接続パターンを抽出して、長文を短文に分割する手法で、局所情報だけを利用する従来の分割手法より分割精度が高い。実験によって自動翻訳における短文分割の有効性を定量的に示している。 第5章は「Agent-based TV broadcasting services(エージェントに基づく放送サービス)」と題し、エージェントの概念を受信系に導入した番組受信モデルを提案している。まず、エージェントの基礎的な概念や特徴と放送分野への応用について詳細に検討し、次に自然言語で視聴者とやり取りする対話型エージェントの構造を提案している。そして、放送におけるエージェントの構築に不可欠である視聴者の個人情報を示すユーザープロファイルのデータ構造と、番組の内容を記述する番組インデックスの構造を提案している。これを用いて番組自動選択機能を実現し、視聴者とエージェント間のやり取りを自然言語で行うことで受信端末の操作性が向上することを実証している。 第6章は「Conclusion(結論)」で、本研究の成果を要約している。 以上これを要するに、本論文は、番組制作システムと受信端末に対して、自然言語処理技術を適用し、「素材映像の管理・検索、及び番組制作、番組の字幕制作、番組自動選択」のための新しい手法を考案し、従来の手法に比べ、番組制作の効率と受信端末の操作性が向上することを理論的、実験的に明らかにしたものであり、電子情報工学上貢献するところが少なくない。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |