現在、グローバルな国際競争社会において、原子力発電所建設を取り巻く環境は厳しく、環境問題、電力料金の値下げ問題がある.一方、今後10年以内に10数プラントを超える建設が計画されている.原子力発電所を順調に伸ばすためには、種々の問題を解決する必要がある.計画・設計・建設上の問題において、特に建設上の問題では、原子力発電所の建設費の40%を占める建設工事費の合理化が最重要課題になっている.問題の一つは、労働者のいわゆる3K離れ(きけん、きたない、きつい)を反映して、建設作業員の数は、10年前とほぼ横這い状態で、今後少子化の影響で大幅な増員は期待できない.マルチプラント建設計画を控え、建設作業員の確保難は、さらに深刻さを増し、工数の低減に貢献できる技術の開発と実用化が、関連する技術者の共通の使命である.建設合理化には、作業の自動化の拡大と作業計画の高精度化等が必要である.前者については、工法の改善が上げられ、建築会社及びプラントメーカ共に積極的な取り組み新しい技術が研究されている.
一方、後者については、作業手順を含む工程計画が上げられる.その実現のためには、作業が現実的に可能で、高精度な工程計画を作成する技術が必要となる.高精度の工程により図書管理、人員管理、物量管理の精度が向上することにより、現地の工数削減に貢献することが出来る.
現在までに、数理計画最適化技術を基盤とし、作業人員を平準化する工程計画を作成する対話型の工程調整プログラム(HI-CPM)を開発したが、作業の難易度による工数の差を反映できなかったり、現地作業の可能性の評価等が十分行われない等、課題が残されている.
本研究では作業人員を平準化するHI-CPMシステムを自動化し、計画作成時間を短縮するために、対話的な山崩し法の替わりに高速平準化アルゴリズムの開発を行った.
さらに、作業原単位の精度向上と建設コストへの影響を考慮した工程計画の調整ができ、作業人員コストの削減ができるアルゴリズムを開発した.特に、工学上重要となる実機への適用という点を考慮して過去の計画例に対する試験的な適用により良好な結果を得た.
(1)プラント工程平準化システム 従来、原子力発電プラント等の建設工程計画は問題の環境が変動の個数にして数千以上となる大規模問題であることから取扱う問題の規模を縮小するための作業人員山積みの平準化を図-1に示すように3ステップで段階的に行っている.
ステップ-1:エリア内工程平準化
ステップ-2:全建屋工程平準化(エリア内平準化)
ステップ-3:エリア内工程調整平準化(対話的山崩し法)
従来システムを自動化し計画作成時間を短縮するためには、対話的な山崩し法の替わりとなる高速平準化アルゴリズムの開発が必要となる.
本研究では各ステップで同種の組合せ最適化問題に定式化できることに着目して、まず、エリア内平準化より全建屋内平準化の方が制約条件が少なく、構造が単純であることに着目して、まず全建屋内の平準化を高速に行うアルゴリズムを開発し全建屋内平準化アルゴリズムを開発、次にアルゴリズムをエリア内平準化へ適用できるように機能拡張を行い、高速平準化アルゴリズムを、ステップ3にも適用できるように機能拡張を行うことにより、その有効性を確認した.
図-1 建設工程計画の作成プロセス(2)高速平準化アルゴリズム ある工程計画に対して、各日の必要作業人員の総和の期日を表す数直線上に並べれば、作業人員山積みが得られる.この山積みができるだけ平準となるように各工程の開始日を決定する.平準化の度合いを表す指標値としては、各日の必要人員の2乗和か、山積みの最大ピーク値を用いる.各日の山積みの2乗和は、必要人員の分散に相当し、この値が小さいほど山積みが平準化されている.また、平準化されていれば山積みの最大ピーク値も低くなる.本研究で開発した平準化アルゴリズムでは、平準化を2乗和により取り扱う.これを、0-1二次計画法と呼ぶ.
各段階で高速平準化アルゴリズムを適用することにより、自動化を図る.図-2に示すようにk個のエリアを含む全工期Lの全建屋内平準化を考える.エリアiに対してあらかじめその作業期間ti日、第j日目の山積みhij(人)が与えられているとする.この時、全建屋内平準化は、式(1)(2)(3)の制約条件の下で式(4)を最小化する問題として定式化することができる.
図-2 定式化で用いられている各種定数図-3 エリア内平準化のフロー
高速平準化アルゴリズムは、工程計画を定式化した2次計画問題の準最適解を求める高速近似解法である.その特徴は、解の更新にともなう目的関数の変化量の指標を設け、この指標をシンプレックス法での解探索点での更新方法に組入れた点にある.(図-3)これにより目的関数を確実に減少させる探索点移動方向をすばやく決定することができ、計算時間が大幅に短縮できた.
この高速平準化アルゴリスムは、2次計画問題に定式化した工程計画問題の準最適解を求める高速近似解法であり、次のような特徴を持つ.
(a)平準化の度合いを示す目的関数(最小化が平準化に対応)の変化量を工程の開始日と作業期間の変化量の関数で表現
(b)上記関数をシンプレックス法での探索点更新法の指標に用いて解探索を実行
これにより目的関数を最大限減少させるような工程の開始日と作業期間の変更量を比較的小さな計算量で決定することができ、計算時間が大幅に短縮できる.
開発した高速平準化アルゴリスムを、ステップ1,2に対して現行システムへバックフィットを行い、115エリア、全工期997日の実際の原子力プラント建設計画へ試験的に適用した.その結果、ステップ1,2に対しこれまでと同程度に平準化された計画を100分で作成できるようになった.一方、ステップ3に対しては、作業期間を延べ作業人員を保存するように任意に変更できると仮定して、プロトタイププログラムにより評価した.その結果、さらに平準化された工程計画を約20分で作成することができた.これにより、3ステップの計画作成時間の合計は約2時間となり、これまでの数日〜1週間と比較して計画作成時間を大幅に短縮できた.
2.局所区分平準化アルゴリズムの開発 プラント工程計画に資源山積みの平準化において、全体平準化と局所区分平準化を組み合わせて、資源山積みの変動幅だけでなく、凹凸の平準化を可能とする工程計画アルゴリズムを開発した.基本となる全体平準化アルゴリズムは、資源山積みの分散を最小化するように資源平準化を0-1二次計画問題に定式化し準最適解を求め、局所ピーク値を改善するものである.全体平準化の後で局所区分について資源平準化を行ない、分散の最小化では有効とならない山積みの凹凸の平準化とともに、さらに局所ピーク値の改善を行なう.
局所区分平準化アルゴリズムとしては、区分内で資源山積みの目標値を設定し、目標値にしたがって分布形状を改善するヒューリスティックな方法を開発、採用した.
図表 発電プラントの建設計画を模したデータを用いて、開発した手法の適用・評価を試験的に行なった.エリア数は約100エリア、工程数は約5000、資源は作業人員とした.その結果、局所区分平準化の処理を用いることにより、全体平準化により得た計画の品質を更に向上できることから、本手法の有効性を確認できた.
3.建設コストを考慮した工程平準化システム (1)作業効率を考慮したプラント建設作業工数評価式の算出
プラント建設の工事計画に一層の精度向上が要求されることから、建設計画の基礎データとなる作業工数を評価する手法(工数予測手法)を提供するものである.工数算出方式である、据付対象部品の物理的な特徴に着目した非線形関数を用いて、実際のプラントに適用し、結果が一致することを確認した.
(2)建設コストを考慮した工程平準化
(a)建設コスト低減と平準化
工程計画の資源山積みの平準化と単価変動に基づく建設コスト最小化を同時に考慮できる多目的最適化手法を開発した.本手法は、(1)問題を、適当な重みでコストを考慮できるよう設定した目的関数を持つ二次計画問題に定式化し、(2)既開発の工程平準化アルゴリズムの解探索操作を改良して、準最適解を求解するものである.
図表 本手法により、平準化コストの重みを自由に設定でき、両者を考慮に入れた準最適解を短時間で得ることができる.
(b)工数変化の工程計画への影響の分析
原単位高精度化に伴う工数変化が工程平準化にどのような影響を与えるかを分析した結果、作業内容や工事の前後関係に直接根拠をおく規則性は認められないことがわかった.