有限要素法のボトルネックは要素生成である。有限要素法の創世記から要素生成は手間のかかる作業であった。しかし当時の計算機の性能では解析規模が小さかったこともあり重要な問題ではなかった。一方で解法の開発が重点的に研究されてきた。しかし、有限要素解析は対象を有限要素に離散化しモデルを生成する必要があり、その解析精度は離散化されたモデルに大きく依存する。例えば物理量の変化を表しきれない粗な離散化では解析の目的に合致することは難しい。逆に必要以上に密な離散化では計算機資源(CPU時間、メモリ、記憶装置など)を無駄に使用する。つまり今ある計算機を必要な精度で必要な結果を得るには、有限要素法の解法なども然る事ながら離散化された有限要素モデルに大きく依存する。 このような有限要素法の信頼度や計算機の高性能化などから今後も有限要素法は利用されていくであろう技術であると言える。しかし、依然として離散化された有限要素モデルの作成には問題がある。この問題とはユーザが満足する有限要素モデルが自動的に生成されないことにある。このただ一つの問題のために、すでにさまざまな非構造格子生成法が提案されている。また別の観点から有限要素の自動生成技術が求められている。有限要素解析の対象としてより現実の対象に近いモデルを扱おうとしている試みもある。このようなモデルでは数百万から1千万自由度を保有し、有限要素が自動で生成されることは必要不可欠な技術と言える。つまり、プリプロセッシングにかかる労力の大きさが際立って大きい。この問題を解決することなしには有限要素解析そのものの進歩を阻害することになりかねない。これまでの数々の要素生成技術の成果で近年の2次元における3角形および4角形要素生成と3次元における4面体要素生成技術はほぼ確立されたと言ってよい。しかし、解析の現場から最も信頼のされている6面体ソリッド要素の生成技術はまだ確立されるには至っていない。 このような状況は、新たな解析手法の開発を促している。一つはメッシュを作らない方法。もう一つは極めて細かい有限要素を用いる方法。そして最後に有限要素は生成するがユーザに意識させな方法の3つがある。1番目の方法は、メッシュレス法やグリッドレス法とよばれるもので有限要素を用いない計算方法で積分方法に特色があるが与えるデータは形状データと節点のみである。2番目の方法は、ボクセル解析といわれCADデータから直接相当に細かい同一形状の6面体の有限要素を生成し計算を行なう。そして3番目の方法は、ユーザにメッシュを一切意識させない。2つのアプローチが存在し、1つはソルバないぶに要素生成処理を負わせる方法がある。もう1つはシステムとして実現されたもの。これはCADモデルに直接境界条件などを指定しそのまま要素生成と解析の2つの処理をユーザにひとつの処理として見せる方法である。これらどの手法もユーザに対して入力すべき情報をCADの情報だけにしようとするアプローチである。つまり3次元自動要素生成が可能であれば有限要素法のボトルネックであるプリプロセス処理の問題が解決する。 本論文は、人間による要素分割を観察しその特徴をアルゴリズム-インテリジェント・ローカルアプローチ(ILA)として新たに提案する。そして2次元4角形要素生成を基本技術とし、複雑形状に対しても有効な3次元6面体要素生成アルゴリズムを確立することを目的とする。 インテリジェント・ローカルアプローチによる要素分割 これまでの数学的な記述のアルゴリズム(例えばDelaunay法)では、任意形状の6面体自動要素分割は難しいという経験から人間による要素分割の考察を行った。その考察より導き出された4つの特徴をILAとして提案する。4つの特徴とは以下の通りである。 (1)Node by Node Generation Method (generate nodes and elements simultaneously) (2)Local Geometrical Information (3)Simple Rule for Creation of Connectivity (4)Fuzzy Knowledge Processing これら4つの特徴は、それぞれ人間が要素分割をおこなうときにあらわれる特徴を表している。これらの特徴は要素生成を確実に行うために必要と判断されたものでもある。表1は、既存の要素生成アルゴリズムと提案したILAの評価を示す。◎は優れていることを示す。○は実用的である。△は工夫が必要。×は問題があることを示す。 表1 既存アルゴリズム評価 人間の要素分割プロセスを分析し4つの仮説をもとにILAの基本アルゴリズムを提案した。2次元および3次元ともに扱う幾何情報(角度、大きさ)と幾何プリミティブは極めて単純でありその取り扱いに統一性がある。ILAはこれまでの要素生成手法にない以下の特徴を有する。要素生成制御のための3つの数値場を導入することにより、これまでにない要素の質の制御が可能となる。ファジィ知識処理の考え方を導入し複数の評価パラメータを同時に評価することが可能になった。この手法による節点位置決定の利点は、幾何形状が悪質であっても節点位置の評価をロバストに行なうことにある。2次元及び3次元分割パターンは、極めて単純であり複雑な条件分岐はない。確立されたILAアルゴリズムの有効性を検討するために次章以降にて実際ILAを拡張し2次元4角形要素生成問題へ適応した。この結果を通してILAの基本性能について確認がなされた。そこでILAによる3次元6面体要素分割について述べる。3次元要素生成に固有な処理は以下に3つがある。 ・ クラック処理 要素生成を進めて行くとクラックと呼ばれる状態が発生する場合がある。これは、形状認識が失敗をした例である。 ・ 幾何情報検索領域 2次元では、注目している線分より左右7つの線分の情報を取得する。経験的に、パターン番号が若いものから要素生成することがシンプルなルールによる要素生成が有効するための条件であると考えられる。そこでこの情報検索領域の決定は極めて重要である。 ・ 特殊な幾何状態検出 注目している要素の隣接幾何情報だけではなくより多くの幾何情報とコネクティピティ情報が必要な場合がある。より確実な形状認識するための枠組みが必要である。 以上の固有処理を施し3次元6面体要素による要素分割を行った。図1および図2に歯車モデルと地下鉄駅モデルの例を示す。 図1 歯車形状の要素分割図2 地下鉄駅の要素分割結論 人間の要素分割手法を分析しそのプロセスを模倣した方法、インテリジェント・ローカルアプローチ(ILA)を提唱した。ILAにより実装したシステムによって、幾つかの例で3次元6面体要素の生成が可能になった。 要素分割例をとおしてILAの基本性能を確認した。さらにこれまでの要素生成アルゴリズムの欠点を克服した。克服した欠点とは、 ・ 要素アスペクト比の制御 ・ 要素サイズの制御 ・ 生成される要素の質 ・ 生成要素数の少なさ である。これらの項目はユーザが望むメッシュそのものである。そしてユーザが望むメッシュが荒い要素だけではないことを指摘した。精度の良い細かいようを提供するために、6面体要素を8分割する方法を提案した。一方で今後の検討および改善すべき点は、 ・ 要素生成時間 ・ 任意形状への対応 である。要素生成時間は、チューニングや実装方法の変更などの作業が伴うが十分に高速化できる。本手法の最大の特徴であるファジィ知識処理およびシンプルパターンにより実装の複雑さを増すことなくよりロバストなアルゴリズムへ改良可能である。つまりより複雑な形状への対応はパターン認識の強化により十分可能である。 |