学位論文要旨



No 214002
著者(漢字) 大西,建輔
著者(英字) Onishi,Kensuke
著者(カナ) オオニシ,ケンスケ
標題(和) リーマン計算幾何 : 凸包、ボロノイ図とデローネ型三角形分割
標題(洋) Riemannian Computational Geometry : Convex Hull,Voronoi Diagram and Delaunay-type Triangulation
報告番号 214002
報告番号 乙14002
学位授与日 1998.09.21
学位種別 論文博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 第14002号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 阿久津,達也
 神戸大学 教授 佐々木,武
 東京大学 助教授 森下,真一
 東京大学 教授 小柳,義夫
 日本アイ・ビー・エム 研究員 徳山,豪
内容要旨

 本論文では、リーマン空間での計算幾何学、すなわち、リーマン計算幾何学に付いての研究を行なっている。その目的は、リーマン空間での幾何構造に対する効率的なアルゴリズムやデータ構造の設計である。リーマン空間での幾何構造の中でも簡単なもの、例えば、測地線やcut locusなどが既に研究がなされている。しかしながら、これらの研究の大半は、幾何的対象の構造を調べることに着目をしている。我々は、ここに計算という側面を加えることを提案したい。すなわち、構築のためのアルゴリズムを提案し、その組合せ複雑度や計算複雑度を与える。さらに、これらの構造の応用も述べる。

 凸包、ボロノイ図とデローネ型三角形分割を本論文では扱う。凸包は、計算幾何において基本的な対象であり、ボロノイ図やデローネ型三角形分割の構成にも使われている。ボロノイ図は、与えられた点集合に対する近接関係を表しており、自然科学の多くの分野で応用がなされている。デローネ三角形分割は、有限要素法やコンピュータグラフィックなどにも良く使われる有用な三角形分割である。しかしながら、リーマン空間においては、デローネ三角形分割が必ずしも存在するとは限らないので、私達は、デローネ型三角形分割を提案する。この三角形分割は、いくつかのリーマン空間において存在し、その構造はユークリッド空間では、デローネ三角形分割に一致する。これらの幾何構造は、ユークリッド空間では全て効率的に構成することができる。しかしながら、リーマン空間では、幾何構造が必ずしも定義できたり、計算できたりするとはかぎらない。例えば、ボロノイ図は任意の点集合に対して、距離の定義してある空間ならば、定義はできるが、効率的な計算ができるかどうかはわからない。つまり、どのような幾何構造ならば、効率的な計算が可能かということも研究対象の一つである。

 双曲型空間と双対平坦空間での幾何構造を本論文では考察している。双曲型空間は、共形、射影、微分幾何的な側面をもち、リーマン幾何としても基本的であり、非ユークリッド幾何としても有名である。また、双対平坦空間は、統計的推測との関係において有用であり、ユークリッド幾何の一つの拡張ともなっている。その空間では、ポテンシャル関数(ボロノイ図やデローネ型三角形分割のアルゴリズムにおいて重要な役割を果たしている)やダイバージェンス(ユークリッド距離の拡張)が存在している。

 これらの構造をそれぞれの空間で考えるのだが,それらの構成ができることに重点を置き、拡張をそれぞれの定義に対しておこなった。その結果、これらの構造は、ユークリッド空間でのよい性質を失わずに、我々のアルゴリズムにより効率的に計算が可能である。我々のもっとも大きな貢献は、それらの構造間の関係を述べたことである。つまり、これらの構造の関係を超曲面アレンジメントを通して説明したすることにより、これまでの計算幾何学における概念を含むような理論として、本研究を位置付けることができる。また、ここで扱った双対平坦空間はかなり性質の良い空間であり、この空間上でユークリッド空間での様々な問題を考えることができる。

審査要旨

 本論文ではリーマン空間における計算幾何学が研究されており、7章から構成されている。

 第1章では研究の目的・意義、および、論文の構成について述べられている。

 第2章では本論文の基本となる数学的事項の定義などが述べられている。まず、リーマン空間に関する諸定義が述べられ、次に、統計的パラメータ空間についての諸定義が述べられている。更に、情報幾何学において既知かつ重要な知見である統計的パラメータ空間と双対平坦空間(リーマン空間の一種)との関係が簡潔に述べられている。

 第3章では計算幾何学における基本的かつ重要な幾何構造である凸包の構成アルゴリズムについて述べられている。アルゴリズムは座標変換によりユークリッド空間における凸包構成問題に帰着させるというものであり、大域座標系をもつ平坦空間および双曲型空間において効率良く凸包を構成することができる。さらに、同様の手法を適用できるクラスとして線形化可能空間が提案され、それと平坦空間や双曲型空間との関係が調べられている。また、2次元ポアンカレ空間に特化した効率の良いアルゴリズムも示されている。本章のアルゴリズムは比較的単純ではあるが、ある種のリーマン空間においても単純な方法により効率良く凸包が構成できることが示されたことは重要なことである。

 第4章では応用という観点からも重要な幾何構造であるボロノイ図の構成アルゴリズムについて述べられている。まず、双曲型空間におけるアルゴリズムが示されている。基本的な方針は3章と同様にユークリッド空間におけるボロノイ図構成問題に帰着するというものであるが、凸包の場合と異なり、ユークリッド空間におけるボロノイ図の構造で保存されない部分が出てくるので後処理が必要となることが示されている。次に、双対平坦空間におけるアルゴリズムが示されている。基本的な方針はユークリッド空間の問題に帰着させるというものであるが、その変換はポテンシャル関数を巧妙に利用したものとなっている。さらに、高次のボロノイ図構成法や各空間におけるボロノイ図の関係が調べられている。本章においては、効率の良いアルゴリズムが示されただけではなく、リーマン空間におけるボロノイ図の構造に関する性質が示されており、興味深い結果となっている。

 第5章では双曲型空間および双対平坦空間における三角形分割(単体分割)のためのアルゴリズムについて述べられている。ユークリッド空間においてはボロノイ図の双対グラフであるデローネ三角形分割が理論面からも実用面からも良く研究されている。しかしながら、本章では、リーマン空間においてはボロノイ図の双対が必ずしも三角形分割にはならないことが示されている。そして、その困難を克服するために、デローネ型三角形分割が提案され、その構成アルゴリズムが示されている。さらに、デローネ型三角形分割はある種の良い性質を持つことが示されている。本章ではユークリッド空間とは異なる性質が示され理論的に興味深い結果となっているとともに、その困難にもかかわらず三角形分割を与えるアルゴリズムが開発できたことで応用面への可能性を開く結果にもなっている。

 第6章では、本論文で研究されてきたリーマン空間における計算幾何学の応用の可能性について議論されている。まず、各種統計処理で重要となるクラスタリングへの応用の可能性が示唆され、次に、有限要素法やコンピュータグラフィックスなどにおいて重要な処理となる曲面分割への応用の可能性が示唆されている。

 第7章では論文のまとめが述べられている。

 本論文は、これまでほとんど研究されていなかったリーマン幾何における計算幾何学を開拓したというパイオニア的論文となっている。リーマン幾何における計算幾何学は理論面および応用面の両者から今後の発展が期待できるため、その基礎を築いたという点で、本論文は博士(理学)を授与するに十分に値する論文である。

 なお、本論文の4章と5章の一部(双対平坦空間におけるボロノイ図と三角形分割)は今井浩氏との共同研究であるが、論文提出者が主体となって研究を行なったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。また、論文目録中の(1)は高山信毅氏との共同研究であるが、この論文も論文提出者が主体となって研究を行なったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。

 したがって、博士(理学)を授与できるものと認める。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/50705