学位論文要旨



No 214010
著者(漢字) 藤田,勉
著者(英字)
著者(カナ) フジタ,ツトム
標題(和) 鋼管および複合鋼管の水中切断技術の開発とその応用
標題(洋)
報告番号 214010
報告番号 乙14010
学位授与日 1998.10.08
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第14010号
研究科 工学系研究科
専攻 産業機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 谷,泰弘
 東京大学 教授 長尾,高明
 東京大学 教授 木内,学
 東京大学 教授 増沢,隆久
 東京大学 助教授 柳本,潤
内容要旨

 鋼管杭および鋼・モルタル複合鋼管である鋼管矢板を用いた基礎構造物における水中切断について,鋼管を対象とするディスクカッタ法の他に,継手管も切断対象とする砥石カッタの組合わせ法など各種切断技術が開発されているが,複合鋼管の切断に困難を有し施工性に大きな課題を含んでおり,種々のアプローチによる研究が必要な段階にある.殊に複合鋼管の切断において各種切断法の原理に立ち戻って検討を行う必要がある。

 プラズマアーク,切断砥石ならびにアブレシブジェットを用いた鋼管の水中切断実験の結果から,図1に示すように熱ピンチ効果が期待でき高速切断性にすぐれるプラズマアーク切断法が鋼管切断に最適である.また,モルタル中詰め複合鋼管-継手管-を対象とした切断実験の結果から,アブレシブジェットに比べ水中研削切断の優位性が明らかである.これらの結果を総合し,複合鋼管を水中で能率的に切断するには,継手を先に研削切断しその後本管をプラズマアークにより切断する方法が最適であるといえる.

図1 各種水中切断法における鋼管の切断特性

 水中研削切断の実験結果から,A系砥石では鋼材に対しすぐれた研削性能を示すが,鋼・モルタル複合鋼管の研削においてモルタルが砥石と鋼管に囲まれる閉空間領域で送り速度が極度に低下する場合が見られ,これはA/C系またはC/GC系砥石では認められなく,これは砥粒の靭性や摩耗形態などの相違に由来する.また,周速700〜950m/minの範囲では比研削エネルギーは高周速側で15%低下するなど,比研削エネルギーは周速が大きいとき低下するが,実験範囲では周速の影響は大きくない.また,継手管の研削切断時の研削抵抗比の経時変化から,砥石周速が大のときに砥粒は食い込みにくく,ほぼ1100m/min以上の周速のときに研削抵抗比が2.0を上回り,このとき砥石の押付け力は大となる.この研削抵抗比は900m/min以下の中周速研削時には小さく,砥石高周速時の大きな水中損失も考慮し,中周速研削切断の選択が示唆される.研削比と単位時間あたり研削代断面積の関係などに基づいた切断作業経済性の観点から,軟らかい砥石・中周速研削切断・A/C系砥粒などの選定に基づく最適研削切断条件を確立した.

 電気エネルギー分散などのため従来から困難とされる海水中で,ノズルへの非導電性セラミックスカバーの装着に加えプラズマ柱へ向けて真水を噴射すると,図2に示すように海水シールド効果と熱ピンチ効果によってシリーズアークの発生を防止してプラズマ切断を維持できる.プラズマ電流が400Aの水中切断実験を行い,常圧から0.3MPaまで水圧が増加すると5〜30Vのアーク電圧の上昇を伴いながら切断深さが減少し,また,見かけの入熱密度=(切断電流/ノズル径)により切断性能はほぼ説明できる.しかしながら,厚肉鋼板に対し見かけの入熱比を同じにした場合,モーメンタムの小さい酸素プラズマでは窒素プラズマに比べ切断深さが小さい.750Aまでの大電流下,または0.45MPaまでの高水圧下における実験結果から厚肉鋼管に対する切断特性に関し,厚みが50mmまで,または水深が30mまでの鋼管が切断可能である.これは実用上十分すぎる切断性能である.水圧下で厚肉鋼板を切断するときプラズマガス流量の最適な範囲が存在し,これを越えて増大するとアーク電圧の増大を伴いながら切断が不安定になり,シリーズアークの発生の因子となる場合がある.水圧が0.45MPa程度に大きくなると,トーチ移動速度を小さくするとプラズマ入熱の熱伝導による損失割合が増大し,切断深さが減少する場合があり極厚鋼管の切断限界がある.鋼管背面に粘性土などが存在するときでも,再溶着部が存在しない完全切断可能な領域が存在する.以上,実施工に際し基本的に重要と考えられる技術的課題を解決し,海水中でもプラズマアーク切断を実用化可能とする技術を開発できた.

図2 海水中におけるシリーズアーク発生防止方法

 プラズマアーク切断と研削切断を一体に組込んだ新しい水中切断装置を考案した.研削切断における累積切込み量の経時変化を検知し,その変化パターンを研削砥石の押付け力により制御することが可能であり,また,顕著なシリーズアークが発生するとアーク電圧に大きな変化が生じることから,定常的切断の維持のためにアーク電圧および電流のモニタリングが有効である.

 プラズマトーチのスタンドオフが大きいとプラズマアークの温度降下やプラズマジェットの流速低下が生じ,切断深さが低下する.切断開始時の厚肉鋼管のピアシングの問題を取上げ,研削切断で切込みを入れた後にプラズマ切断に移行する方法を確立し,これを東京湾横断道路川崎人工島の実プロジェクトに適用し,海水中で厚肉大径鋼管杭を高能率切断できることを実証した.また,鋼管矢板の水中切断に適用し本管および継手管を能率よく切断でき,本開発の目的を十分達成できたことを示すとともに,上述のことと合わせ本技術の実用上の優秀性を実証した.

 以上,本研究の特徴とするところは,

 (1)複合鋼管に対し,継手管:研削切断,および本管:プラズマアーク切断の切断手順により高能率で水中切断できる方法を開発したこと,

 (2)水中研削切断実験により砥石の周速および種類などが及ぼす研削比および比研削エネルギーなどへの影響を求め,研削切断の最適化を実現する条件を確立したこと,

 (3)海水中におけるプラズマアーク切断実験により,シリーズアークの発生を防止する方法を得,海水中でも可能とする高能率水中プラズマアーク切断法を開発したこと,

 (4)厚肉鋼管または大深度における鋼管に対し,水中プラズマアーク切断の条件を示したこと,

 (5)研削砥石とプラズマ切断部を一つの装置に組込み,鋼管矢板を遠隔自動で切断できる切断装置を開発したこと,

 (6)開発した水中切断機を用いて,鋼管杭および鋼管矢板の実プロジェクトにおいて水中切断を行い,開発技術の優秀性を実証することができたこと,

 である.

審査要旨

 本研究は,水中切断加工の技術的進歩を促進するために,鋼管あるいは鋼管およびモルタルからなる複合鋼管の水中切断技術の開発とその応用について検討を行ったものである.鋼管および複合鋼管の切断について従来種々の開発が試みられてきているが,十分な成果を挙げるに至っていない.有望な切断法としてプラズマ切断,研削切断およびアブレシブジェット切断法を取上げ,水中研削切断では複合鋼管の最適切断条件を検討し,プラズマ切断では海水中あるいは厚肉鋼管に対して安定な切断を可能とする技術を開発している.切断加工時の工作物の変形特性を考慮して接触式切断,非接触式切断の順の加工法を確立し,複合鋼管群の完全切断を可能としている.

 このように,本研究は鋼管および複合鋼管の水中切断分野における切断技術および切断加工学の質的な向上を達成している.

 鋼管あるいは鋼管・モルタルからなる複合鋼管を用いた基礎構造物の水中切断の分野においては,鋼管を対象としたディスクカッタ切断,複合鋼管をも対象とした切断機など,各種切断技術が従来開発されてきた.しかし,未だ厚肉鋼管や複合鋼管の切断に困難を有し施工性に大きな課題を含んでおり,種々のアプローチによる研究が必要な段階にある.特に複合鋼管の水中切断において各種切断法の原理に立ち戻り研究を行う必要がある.

 本研究は,水中切断加工の技術的進歩を促進するために,鋼管あるいは鋼管およびモルタルからなる複合鋼管の水中切断技術の開発とその応用について検討を行ったものである.具体的には,研削切断,プラズマアーク切断およびアブレシブジェット切断の機械的および電気的な三切断法を取り上げ,鋼管および複合鋼管に対する水中切断について検討を加えている.その結果,水中研削切断では複合鋼管の最適切断条件を究明し,プラズマ切断では海水中あるいは厚肉鋼管に対して安定な切断を可能とする技術を開発している.切断加工時の工作物の変形特性を考慮した接触式切断,非接触式切断の順の加工法を確立し,複合鋼管群の完全切断を可能としている.このように,本研究は鋼管および複合鋼管の水中切断分野における切断加工技術の質的向上を図っている.

 本論文は8章より構成されている.論文中の各章で取り扱っている種々の切断法は,最も一般的な切断技術であるが,複合鋼管の水中切断技術への適用について検討を行い,実用的な切断技術を確立している.論文の具体的な内容は以下に示すとおりである.

 第1章では,本研究の背景および目的について述べている.

 第2章では,従来の切断技術について解説し,同時にその水中切断への適用の可能性について検討している.さらに鋼管,および代表的複合鋼管である鋼管矢板の従来の各種水中切断機について解説し,本研究の開発目標を示している.

 第3章では,鋼管および複合鋼管に対する予備的な各種水中切断実験と,得られた結果を基にした高能率水中切断法について述べている.すなわち,プラズマアーク切断,研削切断およびアブレシブジェット切断を用い,鋼管模型に対する水中切断実験を行い,取扱が簡便で水中において熱ピンチ効果が期待できかつ同一出力条件下で最も高速切断性に優れるプラズマアーク切断法が鋼管の水中切断に最適であることを示している.また,複合鋼管の模型を対象に水中研削切断実験を行い,研削切断の有効性を示している.これらの結果を基に各種水中切断法を比較検討した結果,複合鋼管を研削切断し,次に鋼管をプラズマアーク切断する複合鋼管群の最適水中切断方法を確立している.

 第4章では,水中研削切断実験の結果から,比研削エネルギーおよび研削抵抗,研削切断動力に上乗せされる研削砥石の水中回転損失,ならびに切断作業の経済性に影響を及ぼす研削比と研削作業能率などに関し,鋼管および複合鋼管に対する研削切断の挙動を考察し,研削切断の実用化のために最適条件を究明している.アルミナ系砥石を用いれば鋼管に対し優れた研削性能が得られることを示している.他方,複合鋼管の研削切断において砥石表面が第2の鋼管の表面に接近した時に砥石の送り速度が極度に低下する場合が見られる.この現象は炭化珪素系またはアルミナ/炭化珪素系砥粒を用いた時には見られず,このことは砥粒の摩耗形態や靭性などの相違に由来すると考察している.また,砥石周速に関し,高周速側で比研削エネルギーは低下するが実験範囲では周速の及ぼす影響は大きくないこと,および周速が大の時に砥粒は食い込みにくくかつ大きな水中損失を示すことなどを明らかにしている.得られた結果に基づき,軟らかい砥石,中砥石周速,アルミナ/炭化珪素系砥粒などの選定が最適な研削切断条件であることを明らかにしている.

 第5章では,海水中においては電気エネルギーの分散などの問題のため従来から適用が困難とされていたプラズマアーク切断について検討している.ノズル先端への非導電性セラミックスカバーの装着に加えプラズマ柱へ向けた真水噴射を併用することで,ノズルを海水からシールドする効果とアーク柱の熱ピンチ効果によりシリーズアークの発生を防止する新たな手法を提案し,これにより海水中においてもプラズマアーク切断を真水中と同等に維持できることを示している.厚肉鋼管に対し見かけの入熱比を同じにした場合,プラズマガス流のモーメンタムの大きい窒素プラズマでは酸素プラズマに比べ切断深さが大きいこと,また水圧下においてプラズマガス流量を増すとシリーズアークの発生が必ずしも抑制されず,電圧増大によりシリーズアークを発生させる場合があることを示している.750Aまでの大電流下,または0.45MPaまでの高水圧下における切断実験結果から,50mmまでの厚みの,または水深位置30mまでの鋼管が切断可能であることを示している.これらの結果から,海水中でも適用可能な実用的なプラズマアーク水中切断法を開発している.

 第6章では,プラズマアーク切断と研削切断を組み込んだ水中切断装置を開発している.アーク電圧・電流のモニタリングがシリーズアークの発生の検知のために,また砥石移動量のモニタリングが安定な研削切断の維持のために有効であることを示している.

 第7章では,プラズマ切断開始時の厚肉鋼管に対するピアシングの問題に関連して,部分的に研削切断した後にプラズマ切断に移行する厚肉鋼管の切断方法を確立している.これを実プロジェクトに適用し,海水中で42mm厚みの厚肉大径鋼管杭を高能率切断できることを実証している.また,代表的な複合鋼管群である鋼管矢板の水中切断に適用し本管および継手管を能率よく切断でき,本開発の目的を十分達成できたことを示すとともに,上述のことと合わせ本技術の実用上の優秀性を実証している.

 第8章は,本研究の結論であり,水中切断加工の技術的進歩を促進するために,鋼管および複合鋼管に対し種々の実験検討を行って得られた結果を取りまとめて示すとともに,工業的に有用な水中切断技術を開発できたことを示している.また,本研究には複合鋼管および厚肉鋼管の水中切断分野における切断技術の質的な向上を達成している.

 本研究の成果として得られた実用的な水中切断技術により,橋梁・道路などの建設分野において作業施工性の格段の向上が可能となっている.すなわち,本開発技術により,多様かつ広範囲な対応が可能となり,建設現場での高度化・高能率化に大きく貢献している.

 上述のように,本論文は工学的および工業的有用性が高く,博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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