本研究では、マウスIL-5受容体 鎖トランスジェニックマウスB細胞のIL-5応答性の解析、各種抗ヒトIL-5受容体モノクローナル抗体の作製とその応用によりIL-5受容体を介するシグナル伝達機構に関して解析を試み、以下のような結果を得ている。 1)マウスIL-5受容体 鎖トランスジェニックマウス(5R -Tgマウス)では、大部分の脾臓B細胞と一部の胸腺T細胞表面にマウスIL-5受容体 鎖が発現されている。脾臓B細胞ではIL-5に対する反応性の亢進が確認されことから機能的な分子が発現されているものと考えられるが、胸腺T細胞にはIL-5への増殖応答性は認められない。 2)IL-5R発現細胞B細胞亜集団、ならびにIL-5への応答性の欠損を認めるX-linked immunodeficiency mice(XIDマウス)と5R -Tgマウスを交配し、XID遺伝子を持つ5R -Tgマウス(XID-5R Tgマウス)を作製し、その脾臓B細胞のIL-5への応答性を検討した。XID-5R Tgマウスの脾臓B細胞上にはIL-5R の発現は5R -Tgマウスと同程度に認められたが、IL-5への応答性の回復、免疫不全状態の改善は認められなかった。 3)XID-5R Tgマウスの脾臓B細胞はホルボールエステルやLPSの存在下ではIL-5に対して増殖応答性を示し、この増殖応答性はプロテインキナーゼC(PKC)阻害剤により阻害されることを見出した。更に、他のIL-5依存性マウスB細胞株の増殖応答もPKC阻害剤により阻害されることが確認されたことから、PKCの活性化がIL-5受容体を介するシグナル伝達に関与していることが明らかにされた。 4)抗ヒトIL-5受容体モノクローナル抗体の作製を行い、81クローンのハイブリドーマの樹立に成功した。これらの抗体とヒトIL-5受容体 鎖遺伝子導入TF-1細胞(TF-h5R )を用いて解析を行い、ヒトIL-5受容体 鎖とJAK2、ヒトIL-5受容体 鎖とJAK1とはIL-5無刺激時に構成的に結合し得ること、ヒトIL-5受容体 鎖と 鎖とはIL-5刺激により会合することが明らかにされた。 5)中和活性を有する抗ヒトIL-5受容体モノクローナル抗体の遺伝子をクローニングし、中和活性を有するヒト化抗体の作製に成功した。このヒト化抗体の活性をサルIL-5誘発好酸球増多モデルにて評価を行い、IL-5にて誘導される好酸球増多が抗体投与により阻害される事を示した。 以上、本論文はトランスジェニックマウス並びにモノクローナル抗体を利用し、IL-5受容体を介するシグナル伝達に関して新たな知見を得ることに成功した。また、臨床応用可能なヒト化抗体の作製の成功は、IL-5と病態との関連を臨床的に検証する手法を開発したものと考えられる。これらの成果はIL-5に関するシグナル伝達機構、並びにIL-5の臨床的な意義の理解に関して重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |