内容要旨 | | 今まで発達したチャンネル乱流については数多くの研究がなされてきた.これらの研究により,速度分布については乱流境界層での規則性が明らかにされている. しかし,乱れ特性は数多くの実験結果があるものの,速度分布で得られているような規則性が不明なままである.また,これまでの研究の成果で,加熱定常流における速度分布の規則性や温度分布の規則性等が確認されたが,加熱による乱れ分布の特性については不明な点が多く,実験データも不足している. 特に,壁面近傍での乱流現象を明らかにすることは,伝熱面近傍での熱伝達に関するメカニズムを解明するのに欠かせないことであり,加熱による影響を調べることは伝熱現象を理解する上で重要である. そこで,本論文ではそれらの一歩として壁面近傍に重点を置き,壁面近傍の測定が容易にでき,さらに流れ場を乱さずなおかつプロングの影響を受けないような計測プローブのプロング形状を考案し,試作した.また,壁面加熱による流体の温度変化を考慮し,流体温度の変化による熱線流速計の出力の変化について手軽く検定できるシステムを構築した. そして,実際のチャンネル乱流の測定に当たり,温度勾配が大きい境界層内の流れ場におけるプロング温度の変化から生じる影響について,温度分布の測定値を用いた計算により,プロング温度の影響を排除した. 試作した計測プローブと実験装置を用いて非加熱定常流と壁面加熱による加熱定常流の実験を遂行し,測定システムによるデータの収集と解析結果を考察した.その結果,発達チャンネル乱流の壁面近傍における流れの特性について,比較的広いレイノルズ数範囲で流れ方向の速度分布及び乱れ強さ分布等について基礎的な知見を得ることが出来た. 本論文は以上の内容について,5章および結論より成る. 第1章「序論」では本研究の背景になったスターリング機関の特性について紹介し,発達したチャンネル乱流について従来の研究を概観し,本研究の立場及び方法について述べた. 第2章「実験装置および測定機器」では,本研究を遂行するする上で必要とする実験装置の構造や計測プローブの検定に用いる検定風洞,また周辺計測機器について紹介し,計測機器を使用するための校正や測定機器における不確かさ等を検討した. 第3章「計測プローブ」では試作した計測プローブの形状や検定の仕方,計測プローブにおける検定式を導いて,応用について述べた. さらに,加熱定常流の測定に備え,流体温度が熱線に及ぼす影響やその補正方法,温度境界層内でのプロング温度補正方法について詳しく説明し,検定式の不確かさについても検討した. 第4章「非加熱定常流」では空気によるレイノルズ数Re=5,000〜40,000(=190〜617)の実験範囲で,発達チャンネル乱流について計測した.(Re=Um・De/f,) そのデータを解析した結果,非加熱定常流について以下のことが明らかになった. 1)摩擦速度で無次元化した時間平均速度分布U+は,境界層内の全領域においてに依らず普遍的な分布を示した. 2)摩擦速度で無次元化した速度乱れ強さ分布は,に依らず普遍的な分布を示す粘性領域(Y+<50),の増加に伴って分布が変わる対数領域(Y+>50)で明確に差があることが明らかになった. 3)粘性領域での速度乱れの歪み度や平坦度を調べた結果,両方ともによる影響は表れず,ともに普遍的な分布が得られた. 4)本実験装置における流れ場での測定結果は,二次元チャンネル乱流であるKimらのDNS結果やその他の実験による結果と比較した結果,同程度のに対し無次元速度乱れ強さ分布が全領域において良い一致を示した. 5)このような結果から,普遍性を示す粘性領域におけるとY+の間に成立する次の関係式を提案した. ここで,anは係数であり,n=0〜4である. (a0=0.6443,a1=-2.9976,a2=11.8564,a3=-8.7415,a4=1.7356) 第5章「加熱定常流」では壁面加熱により,温度分布を持つ発達したチャンネル乱流におけるRe数と加熱条件による影響について,Re数5,000〜30,000(=121〜507)と摩擦温度<2.0℃の実験範囲で調べた. 本研究では速度と温度を別々に測定したので,瞬時温度分布ではなく時間平均の温度分布を用いる簡易データ処理法を採用した.その結果,以下のことが得られた. 1)本実験範囲内で,流れ方向の無次元時間平均流速U+と無次元時間平均温度T+は,Re数と加熱条件によらない普遍的な分布を示した. 2)速度乱れ強さの分布は,粘性領域Y+<50において摩擦レイノルズ数には依存しないが,摩擦温度により大きく影響され,非加熱流に対する見かけ上の増加が現れた. 3)そこで,速度乱れ強さの増加を示す特性値KYを定義し,=121〜507,=0.76〜1.91℃の実験範囲内で下記の摩擦温度との関係式を得た. 4)しかし,上記の結果は時間平均温度を基にして得られた見かけ上の増大で,瞬時の温度変動による影響を考慮すると,加熱定常流でも非加熱定常流と同一の粘性領域における普遍乱れ強さ分布則を持つ.その修正係数が前述のKYになる. 5)以上の補正を行うことより,粘性領域における加熱定常流の速度乱れ強さ分布はRe,数と加熱条件によらない普遍的な分布を示すことが確認できた. 6)歪み度と平坦度を調べた結果,粘性領域における乱れ特性は加熱条件に全く影響されないことが確認できた. 7)速度と温度の粘性領域における乱れ特性はほぼ一致し,速度と温度の高い相関関係を示唆する. 第6章「結論」以上の非加熱定常流と壁面加熱による加熱定常流の実験から得られた結果について述べた. |
審査要旨 | | 本論文は「発達チャンネル乱流の壁面近傍における乱れ特性に関する研究」と題し,6章より成っている. 今まで,発達したチャンネル乱流について数多くの研究がなされてきた.これらの研究により,速度分布については乱流境界層での規則性が明らかにされている. しかし,乱れ特性は数多くの実験結果があるものの,速度分布で得られているような規則性は不明である.また,これまでの研究で,加熱定常流における速度分布の規則性や温度分布の規則性等も確認されたが,加熱による乱れ分布の特性については不明な点が多く,実験データも不足している. 特に,壁面近傍での乱流現象を明らかにすることは,壁面での熱伝達に関するメカニズムを解明するために不可欠であり,加熱による影響を調べることは伝熱現象を理解する上で重要である. 本論文ではそれらの一歩として壁面近傍に重点を置き,壁面近傍の測定が容易にでき,さらに流れ場を乱さずかつプロングの影響を受け難い計測プローブのプロング形状を考案し,試作している.また,流体温度の変化より受ける熱線流速計の出力への影響について,容易に検定できるシステムを構築している. そして,チャンネル乱流の測定に当たり,温度勾配が大きい境界層内の流れ場におけるプロング温度の影響について,温度分布の測定値を用いて補正をすることにより,その影響を排除している. 試作した計測プローブと実験装置を用いて,非加熱定常流と壁面加熱による加熱定常流について,比較的広いレイノルズ数範囲に対し実験を行い,発達チャンネル乱流の壁面近傍における流れの特性を明らかにしている. 第1章「序論」では,本研究の背景になったスターリング機関の特性を紹介し,発達したチャンネル乱流について従来の研究を概観し,本研究の立場及び方法について述べている. 第2章「実験装置および測定機器」では,本研究を遂行するする上で必要とする実験装置の構造や計測プローブの検定に用いる検定風洞,また周辺計測機器について述べ,計測機器を使用するための校正や測定機器における不確かさ等を検討している. 第3章「計測プローブ」では,試作した計測プローブの形状や検定の仕方,計測プローブにおける検定式を導いて,応用について述べている. さらに,加熱定常流の測定に備え,流体温度が熱線に及ぼす影響やその補正方法,温度境界層内でのプロング温度補正方法について説明し,検定式の不確かさについても検討している. 第4章「非加熱定常流」では,空気によるレイノルズ数Re=5,000〜40,000(=190〜617)の実験範囲で,発達チャンネル乱流について計測した.(Re=Um・De/f,,Umは断面平均流速,Deはチャンネルの相当直径,fは膜温度に対する動粘度,Hはチャンネル中心までの高さ,は摩擦速度) その結果,非加熱定常流について以下のことを明らかにしている. 1)摩擦速度で無次元化した時間平均速度分布U+は,境界層内の全領域においてに依らず普遍的な分布を示す. 2)摩擦速度で無次元化した速度乱れ強さ分布は,に依らず普遍的な分布を示す粘性領域(Y+<50),の増加に伴って分布が変わる対数領域(Y+>50)で明確に差がある. 3)粘性領域での速度乱れの歪み度や平坦度を調べた結果,両方ともによる影響は表れず,ともに普遍的な分布を示す. 4)本実験装置による流れ場の測定結果は,二次元チャンネル乱流であるKimらのDNS結果やその他の実験による結果と比較した結果,同程度のに対し無次元速度乱れ強さ分布が全領域において良い一致を示す. 5)このような結果から,普遍性を示す粘性領域におけるとY+の間に,次の関係式を提案している. ここで,anは係数であり,n=0〜4である. (a0=0.6443,a1=-2.9976,a2=11.8564,a3=-8.7415,a4=1.7356) 第5章「加熱定常流」では,壁面加熱により,温度分布を持つ発達したチャンネル乱流におけるRe数と加熱条件による影響について,Re数5,000〜30,000(=121〜507)と摩擦温度<2.0℃の実験範囲で調べている. 本研究では速度と温度を別々に測定しているため,瞬時温度分布ではなく時間平均の温度分布を用いる簡易データ処理法を採用している.その結果,以下のことを得ている. 1)本実験範囲内で,流れ方向の無次元時間平均流速U+と無次元時間平均温度T+は,Re数と加熱条件によらない普遍的な分布を示した. 2)速度乱れ強さの分布は,粘性領域Y+<50において摩擦レイノルズ数には依存しないが,摩擦温度により大きく影響され,非加熱流に対する見かけ上の増加が現れることを示している. 3)そこで,速度乱れ強さの見かけ上の増加を示す特性値KYを定義し,=121〜507,=0.76〜1.91℃の実験範囲内で下記の摩擦温度との関係式を得ている. 4)しかし,上記の結果は時間平均温度を基にして得られた見かけ上の増大で,瞬時の温度変動による影響を考慮すると,加熱定常流でも非加熱定常流と同一の粘性領域における普遍乱れ強さ分布則を持つことを明らかにしている.その修正係数が前述のKYになる. 5)以上の補正を行うことより,粘性領域における加熱定常流の速度乱れ強さ分布はRe数と加熱条件によらない普遍的な分布を示すことを確認している. 6)さらに,歪み度と平坦度を調べた結果,上記の結果と合せ,粘性領域における乱れ特性は加熱条件に全く影響されないことを確認している. 7)速度と温度の粘性領域における乱れ特性はほぼ一致し,速度と温度の高い相関関係を示唆している. 第6章「結論」では,以上の非加熱定常流と壁面加熱による加熱定常流の実験から得られた結果について述べている. 上記のように本論文は,非加熱及び壁面加熱の定常流に対する発達チャンネル乱流の壁面近傍における流れの特性について,比較的広いレイノルズ数範囲に対し実験を行い,簡単な温度補正をすることにより,流れ方向の流速分布及び乱れ強さ分布等について基礎的な知見を得ている.この点から,機械工学,特に熱流体工学の発展に寄与するところが大きい. よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる. |