学位論文要旨



No 214051
著者(漢字) 藤田,英輔
著者(英字)
著者(カナ) フジタ,エイスケ
標題(和) 流体溜りの共鳴による火山性微動の発生
標題(洋) Resonance of Volcanic Fluid System for the Source Mechanism of Volcanic Tremor
報告番号 214051
報告番号 乙14051
学位授与日 1998.11.16
学位種別 論文博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 第14051号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 武尾,実
 東京大学 教授 松浦,充宏
 東京大学 助教授 川勝,均
 東京大学 助教授 小屋口,剛博
 東京大学 教授 渡辺,秀文
 東京大学 教授 井田,喜明
内容要旨

 様々な火山で観測される火山性微動は、マグマや高温の水蒸気・火山ガスなどの火山性流体の運動と密接な関係があると考えられており、顕著な卓越周波数を持つことが多い。その周波数に着目すると、以下のように分類される。(1)少数の卓越する周波数を持つ火山性微動(例:浅間山・Galerasなど)、(2)多数の卓越する周波数を持つ火山性微動(例:桜島・Arenalなど)、および、(3)連続スペクトルを持つ火山性微動(例:伊豆大島・St.Helens)。(1)・(2)は、周辺の地震・マグマの発泡や流動にともなって励起された、帯水層・クラック・火道・マグマ溜りなどの火山流体システムの共鳴であると考える。そこで本研究では、基本的な三つの共鳴体、1次元的な振動(平面モデル)・2次元的な振動(円筒モデル)・3次元的な振動(球モデル)を考え、固有振動数および固有減衰定数を求め、その特徴の相違について比較し、分類された火山性微動の解釈を行なう。

 それぞれのモデルについて、共鳴体のサイズと流体のP波速度で無次元化された固有周波数・固有減衰定数は、平面の場合、解析的に求められ、周波数が,2,3…となり、減衰定数はインピーダンスコントラスト(弾性体/流体)のみで決まり、モードによる相違はない。円筒の場合、固有周波数がおよそ3/4,7/4…となり、平面の場合から/4低周波にシフトする。減衰定数は高次モードにおいて平面の場合とほぼ同じ値をとるのに対し、低次モードでやや小さくなる。球の場合、固有周波数はおよそ、3/2,5/2…などとなり、平面の場合から、/2高周波側にシフトした分布であることがわかる。また固有減衰定数は、特に低次モードにおいてパラメータによって高次モードよりも極端に小さくなる場合があり、このモードを低減衰モード(LAM)と呼ぶ。高次モードは波長が短いため球面に対し平面波的な入射となり、減衰はインピーダンスのみでほぼ決まるのに対し、低次モードは波長が長いため境界面の曲率の影響を受ける。この場合、流体領域の体積的な膨張・収縮運動のエネルギーが境界周辺の弾性体のshear方向の変形として伝わり、radial方向の弾性波としては伝えにくくなる。特に弾性体の剛性率が大きくなると、流体の振動が遅過ぎるため弾性体の振動を励起しにくくなり、流体領域に振動のエネルギーがトラップされやすくなって低減衰となる。

 低減衰モードの減衰は、速度コントラスト(弾性体のP波速度/流体のP波速度)によってきまり、その増大とともに減衰が小さくなる。低減衰モードが存在可能な速度比の領域は、1次モードについておよそ3である。例えば、=8,=1.25の場合、1次モードが高次モードに比べて約6%程度の減衰定数(継続時間約17倍)となる。共鳴のモデルにより、先に分類された(1)・(2)の火山性微動の卓越周波数は、それぞれ、(1)共鳴における低減衰モードの卓越・(2)共鳴における同等の減衰定数を持つ複数のモードと解釈できる。また(3)は励起の連続によるものと考えられる。

 低減衰モードを持つ球モデルを浅間山の火山性微動に適用する。一般にこれらはN型地震・LP-eventなどと呼ばれるものであり、単発的な励起により共鳴体が振動したものと考える。図1は浅間山で発生した火山性微動の例であり、そのランニングスペクトルをとったものである。この場合、振動開始時から約15秒までは幾つかの卓越周波数が見えているが、それより長くなると、基本モード(約1.7Hz)のみが卓越することがわかる。そこで各モードの周波数と減衰定数を求め、モデルと比較する(図2)。観測された卓越周波数はおよそ、1.7Hz,2.9Hz,5.8Hz,8.1Hz…などとなり、適当にパラメータを与えて求めた球モデルの理論値1.7Hz,3.0Hz,5.6Hz,8.1Hz…と非常に近い。また、1.7Hzを低減衰モードと解釈すると、速度比と密度比が独立に求められ、およそ=5.5〜6.0,=2.4〜2.8となる。外側の弾性体のP波速度と密度を適当に仮定すると、球の直径:r0=400m、流体のP波速度:1=0.4km/sおよび密度:1=1.0×103kg/m3と求まった。これは共鳴体内の流体が液体と気体の二相系であることを示唆する。

 一方、このような火山性微動を励起するメカニズムについて、固有モードの重ね合わせにより考察した。これにより、浅間山の火山性微動は、(1)マグマ溜り全体で継続時間約2秒、約0.1MPaの圧力変動、(2)マグマ溜り表面で、約0.1秒、約1MPaの圧力変動の二つのパルスによって説明できることがわかった。

図1:火山性微動のランニングスペクトル:浅間山図2:固有周波数・固有減衰定数の観測値と理論値の比較:◇:KAC UD成分,+:KAS UD成分,□:球モデル理論値図3:浅間山の火山性微動の励起メカニズムの例.二つのパルスにより励起される.
審査要旨

 この論文では,様々な火山で観測される火山性微動のうち,きわめて特徴的である非常に緩やかな減衰を持つ少数の卓越する周波数を持つ火山性微動を取り上げ,その卓越周期と低減衰の特長を説明するモデルを構築し,具体的な観測データに当てはめることによりこのような火山性微動の励起メカニズムについて新しい知見を得ている.

 本論文で取り上げた火山性微動はこれまでにも多くの研究者により,周辺の地震・マグマの発泡や流動にともなって励起された帯水層・クラック・火道・マグマ溜りなどの火山流体システムの共鳴であるとの考え方が示されている.この博士論文は,このような従来の考え方と同様のベースにたっているが,これまでのモデルが主として卓越周期のモデル化が主体であったのに対し,卓越周期と低減衰という両方の特徴を説明しうるモデルの提唱とその観測データへの具体的適用を行っている点にこれまでの研究にない大きな特徴があるといえる.

 この論文では,基本的な三つの共鳴体,1次元的な振動(平面モデル)・2次元的な振動(円筒モデル)・3次元的な振動(球モデル)を考え,固有振動数および固有減衰定数を求め,その特徴の相違について比較し,分類された火山性微動の解釈を行なった.それぞれのモデルについて,共鳴体のサイズと流体のP波速度で無次元化された固有周波数・固有減衰定数は,平面の場合,周波数が,2,3…となり,減衰定数はインピーダンスコントラスト(弾性体/流体)のみで決る.円筒の場合,固有周波数がおよそ3/4,7/4…となり,平面の場合から/4低周波にシフトする.減衰定数は高次モードにおいて平面の場合とほぼ同じ値をとるのに対し,低次モードでやや小さくなる.球の場合,固有周波数はおよそ,3/2,5/2…などとなり,平面の場合から,/2高周波側にシフトした分布であることがわかる.また固有減衰定数は,特に低次モードにおいてパラメータによって高次モードよりも極端に小さくなる場合がある.このような低減衰のモードは3次元のモデル化により現れることが定性的には予測されるが,この論文で球体モデルの場合を定量的に解明した.その結果,顕著な卓越周期を持ちゆっくりと減衰する火山性微動の震源メカニズムとして一つの有力なモデルと提出することができた.このモデルでは限定された固有振動モードしか考えていなかったり地震波動としての励起の部分に未解決の問題が残されているが,この論文の成果は火山学的に重要であり高く評価できる.

 さらにこの論文では,低減衰モードを持つ球モデルを浅間山のN型地震と呼ばれる顕著な卓越周期と低減衰の特徴を持つ振動に適用し,この振動の励起メカニズムの考察を行っている.この部分は観測データの質・量が不十分であるため,暫定的に成らざるを得ないが,この振動を励起する流体球のサイズやP波速度,密度を見積もることに成功した.このような情報は,その火山体浅部にある振動源に含まれる液体がマグマを含むものか地下水を含むものかを推定する手がかりとなるものであり,火山活動を考察する上で重要である.

 以上述べてきたように,この論文の火山物理学の分野における意義は大変高いものであり,審査委員会は全会一致でこの論文が学位論文にふさわしいものとの結論に達した.従って,博士(理学)を授与できると認める.

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