本研究は、子宮頚癌発生に深く関わっている16型ヒトパピローマウイルス(HPV16)のウイルスDNAの複製に必須であるウイルス蛋白E1の機能をより明らかにするために、酵母によるTwo Hybrid System、transientのウイルスDNA複製系、PCR法を用いたrandom mutagenesisを用いてE1蛋白の細胞内結合蛋白および新たな機能について探索、解析を試みたものであり下記の結果を得ている。 1)HPV16E1と結合する2つの細胞蛋白を新たに同定した。そのうち一つは、hUBC9で、酵母のubiquitin-conjugating enzymeのヒトのホモローグとして同定されたものである。hUBC9は158アミノ酸からなる蛋白で、、酵母のUBC9の機能を相補することが可能である。他の一つは16E1-BPと命名された432アミノ酸からなる蛋白であり、ATP binding motifを有し、thyroid hormone receptorと結合する蛋白として同定されたTRIP13と高い相同性を持つ。 2)Reverse Two Hybrid Systemを用いて、hUBC9または16E1-BPと結合能を失った8つのE1の変異体を得た。W439R、S330R、Y412F、W439LがhUBC9との結合を失った変異体として同定され、G482D、D438G、L494Q、G496Rは16E1-BPとの結合を失った変異体として同定された。 3)変異体のhUBC9、16E1-BP、HPV16E1、HPV16E2との結合能、ウイルスDNA複製能、ATPase活性を評価した。変異体の蛋白の結合能のうち、ウイルスDNAの複製能にもっともよく比例するものは、hUBC9との結合能であった。代表として、S330RはhUBC9結合能が失われ、それ以外の検討したE1の機能については野生型に近いレベルが保たれているにも関わらず、複製能は失われていた。このことはhUBC9とHPV16E1の結合が、E1のHPVDNA複製能に重要である可能性を示唆している。 4)S330R以外の変異体は野生型E1のHPVDNA複製能に影響を与えなかった。S330Rを野生型と共発現させると、HPVDNAの複製は抑制され、S330Rは野生型E1のHPVDNAの複製能に対し、dominant negativeに作用することが明らかになった。 以上、本論文は、HPV16E1と結合する細胞蛋白として、hUBC9と16E1-BPを同定し、これらの細胞蛋白とHPV16E1の結合の重要性を検討するために、E1蛋白の変異体を作成、E1の持つ諸機能について解析した。その結果、hUBC9とHPV16E1の結合が、E1のHPVDNA複製能に重要である可能性を示唆し、またS330RのHPV16E1のHPVDNA複製能におけるdominant negatine作用を明らかにした。本研究はこれまで未知に等しかった、HPV16E1蛋白の細胞内結合蛋白とその重要性を明らかにし、HPV16DNA複製におけるE1蛋白の機能の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |