本研究は、免疫応答において重要な役割を持つと考えられるリンパ球の生体内循環機構を解明するため、2次リンパ組織へT細胞がホーミングできない突然変異マウスを用いて、T細胞の血管外遊走を誘導する因子の同定と機能解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。 1.近郊系マウスDDD/1の末梢リンパ節中のT細胞が他の系統に比して著しく減少していることを発見した。交配実験により、この形質が常染色体上の単一劣性遺伝子によって支配されていることを明らかにし、この遺伝子をpltと命名した。 2、pltマウスの脾臓や末梢血中のT細胞数が正常マウスより多いことや、リンパ球の移入実験の結果から、pltマウスの形質は全身的なT細胞の減少ではなく、リンパ節へT細胞がホーミングできないために生じていることを明らかにした。B細胞は正常にホーミングすることから、T細胞特異的にそのホーミングを誘導する因子が存在することを示した。さらに、T細胞のホーミング不全はリンパ節のみならず、脾臓の白脾髄やパイエル板等他の2次リンパ組織でも生じていることを示した。 3.pltマウスと正常マウスとの相互リンパ球移入実験及び骨髄移植実験により、pltマウスのT細胞ホーミング不全はT細胞に原因があるのではなく、リンパ組織の間質細胞に起因することを明らかにした。 4.リンパ節へのホーミングに重要な機能を有することが知られている接着分子L-selectinとそのリガンドPNAdの発現と機能を調べ、これらが正常に機能してT細胞がリンパ節の高内皮細静脈に接着できることを明らかにした。このことから、T細胞のホーミングには、L-selectinとそのリガンド以外にも必要な分子が存在していることを示唆した。 5.ゲノムDNA上に存在するsimple sequence length polymorphismを用いた交配実験により、plt遺伝子の染色体マッピングを行い、マウス第4染色体上のセントロメアから約25cMの距離で、マイクロサテライトD4Mit237と極めて近傍の座位に存在することを明らかにした。 6.pltマウスで観察されるT細胞のホーミング不全が、リンパ球のGi蛋白の機能を阻害した場合のホーミング不全と類似していることや、plt遺伝子座に相当するヒトの遺伝子座にケモカインSLCとELCが同定されたこと等から、plt遺伝子の野生型産物がある種のケモカインである可能性について考察している。 以上、本論文はT細胞が2次リンパ組織ヘホーミングできない突然変異遺伝子を発見し、T細胞特異的にリンパ組織への血管外遊走を誘導する因子が存在することを明らかにした。本研究はこれまで不明であったケモカインによるリンパ球の血管外遊走誘導を示唆しており、リンパ球が血流から2次リンパ組織ヘホーミングする機構の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |