学位論文要旨



No 214058
著者(漢字) 三上,容司
著者(英字)
著者(カナ) ミカミ,ヨウジ
標題(和) 低比重リポ蛋白受容体機能欠損が家兎末梢神経再生に及ぼす影響
標題(洋)
報告番号 214058
報告番号 乙14058
学位授与日 1998.11.25
学位種別 論文博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 第14058号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 高戸,毅
 東京大学 教授 芳賀,達也
 東京大学 助教授 山田,信博
 東京大学 助教授 高取,吉雄
 東京大学 助教授 朝戸,裕貴
内容要旨

 低比重リポ蛋白(low density lipoprotein,以下LDLと略す)受容体は、アポリポ蛋白B-100,またはアポリポ蛋白Eをリガンドとするリポ蛋白と結合し、これを細胞内に取り込む働きがある。LDL受容体がアポリポ蛋白Eと結合してリポ蛋白を取り込む経路は、末梢神経再生時に軸索や髄鞘の膜合成に必要な材料を細胞内に取り込む働きにより末梢神経再生に関与していることが報告されている。しかし、LDL受容体が生体内で末梢神経再生にいかなる影響を及ぼすのかは明らかにされていない。本研究は、LDL受容体が生体内で末梢神経再生に及ぼす影響を明らかにするために、動物実験を行ったものである。動物としては、家族性高コレステロール血症のモデル動物で、LDL受容体機能の欠損しているWHHLウサギを用い、対照群として日本白色家兎を用いた。家兎の総腓骨神経を切断、縫合し、縫合後、4、5、7週の時点で、電気生理学的検索と免疫組織化学染色を用いた組織学的観察を行った。WHHLウサギと対照群の末梢神経再生について、電気生理学的評価法と組織学的評価法により比較、検討し、以下の結果を得た。

 1.電気生理学的検索では、WHHLウサギにおいて、縫合部から神経活動電位を導出できる部位までの距離が、縫合後5週で、対照群に比べ有意に短かかった。また、縫合後5週において、縫合部から20mmの部位での潜時がWHHLウサギでは対照群に比べ有意に遅いことが示された。縫合後7週においては、WHHLウサギと対照群の間で、縫合部から神経活動電位を導出できる部位までの距離、神経活動電位の潜時、振幅については有意な差はなかった。

 さらに、4週、5週の日本白色家兎、WHHLウサギをそれぞれまとめて両者を比較すると、神経活動電位を導出できる部位までの距離が、WHHLウサギで有意に短かった。

 2.組織学的観察では、縫合後4、5週においてWHHLウサギの再生軸索の最大伸長距離は対照群に比べ有意に短く、平均伸長距離も有意に短かった。再生軸索数も、縫合後4週のWHHLウサギの縫合部から10,20,30,40,50mmの部位および、縫合後5週の30,40,50,70mmの部位で、対照群に比べ有意に少なく、再生軸索密度も縫合後4週のWHHLウサギの縫合部から40,50mmの部位で対照群に比べ有意に低かった。さらに、4週、5週の日本白色家兎、WHHLウサギをそれぞれまとめて両者を比較すると、最大伸長距離、平均伸長距離、縫合部から10,20,30,40,50,60mmでの再生軸索数、縫合部から30,40,50,60mmでの再生軸索密度に有意な差があった。

 再生髄鞘数は、縫合後4週のWHHLウサギの縫合部から10mmの部位で対照群に比し有意に少なかったが、それ以外では対照群との間で再生髄鞘数に有意な差はなかった。再生髄鞘の最大伸長距離、再生髄鞘密度、平均伸長距離は、4週、5週、7週いずれの時期でも、WHHLウサギと対照群の間で有意差がなかった。さらに、4週、5週の日本白色家兎、WHHLウサギをそれぞれまとめて両者を比較したが、最大伸長距離、平均伸長距離、再生髄鞘数、再生髄鞘密度のいずれにも有意な差はなかった。

 以上、本論文は、家兎を用いた動物実験にて、LDL受容体機能欠損が生体内での末梢神経再生において比較的早期の軸索再生を障害することと、髄鞘再生に対してはほとんど影響しないことを明らかにした。

審査要旨

 本研究は、脂質代謝において重要な役割を演じていると考えられる低比重リポ蛋白(low density lipoprotein,以下LDLと略す)受容体が、生体内で末梢神経再生に及ぼす影響を明らかにするため、LDL受容体機能の欠損しているWatanabe Heritable Hyperlipidemic Rabbit(以下WHHLウサギと略す)における末梢神経再生を、電気生理学的評価法と組織学的評価法により検討したものであり、以下の結果を得ている。

 1.電気生理学的検索では、WHHLウサギにおいて、縫合部から神経活動電位を導出できる部位までの距離が、縫合後5週で、対照g群に比べ有意に短かかった。また、縫合後5週において、縫合部から20mmの部位での潜時がWHHLウサギでは対照群に比べ有意に遅いことが示された。縫合後7週においては、WHHLウサギと対照群の間で、縫合部から神経活動電位を導出できる部位までの距離、神経活動電位の潜時、振幅については有意な差はなかった。

 さらに、4週、5週の日本白色家兎、WHHLウサギをそれぞれまとめて両者を比較すると、神経活動電位を導出できる部位までの距離が、WHHLウサギで有意に短かった。

 2.組織学的観察では、縫合後4、5週においてWHHLウサギの再生軸索の最大伸長距離は対照群に比べ有意に短く、平均伸長距離も有意に短かった。再生軸索数も、縫合後4週のWHHLウサギの縫合部から10,20,30,40,50mmの部位および、縫合後5週の30,40,50,70mmの部位で、対照群に比べ有意に少なく、再生軸索密度も縫合後4週のWHHLウサギの縫合部から40,50mmの部位で対照群に比べ有意に低かった。さらに、4週、5週の日本白色家兎、WHHLウサギをそれぞれまとめて両者を比較すると、最大伸長距離、平均伸長距離、縫合部から10,20,30,40,50,60mmでの再生軸索数、縫合部から30,40,50,60mmでの再生軸索密度に有意な差があった。

 再生髄鞘数は、縫合後4週のWHHLウサギの縫合部から10mmの部位で対照群に比し有意に少なかったが、それ以外では対照群との間で再生髄鞘数に有意な差はなかった。再生髄鞘の最大伸長距離、再生髄鞘密度、平均伸長距離は、4週、5週、7週いずれの時期でも、WHHLウサギと対照群の間で有意差がなかった。さらに、4週、5週の日本白色家兎、WHHLウサギをそれぞれまとめて両者を比較したが、最大伸長距離、平均伸長距離、再生髄鞘数、再生髄鞘密度のいずれにも有意な差はなかった。

 以上、本論文は、家兎を用いた動物実験により、LDL受容体機能欠損が生体内での末梢神経再生において比較的早期の軸索再生を障害することと、髄鞘再生に対してはほとんど影響しないことを明らかにした。本研究は、これまで未知に等しかった、LDL受容体を介する脂質代謝経路が生体内での末梢神経再生に及ぼす影響を解明する上で、重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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