本研究は血小板減少症の各疾患における血小板減少症の病態を検討するため、末梢血に新しく放出され、末梢血中で網赤血球同様成熟していく幼若な血小板と推察されている網血小板と、血小板造血調節因子としての作用が研究されつつあるトロンボポエチン(thrombopoietin;TPO)を末梢血全血および血清を材料として同時に測定を行い、解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。 1.Thiazol orange(TO)染色後、フローサイトメトリーを用いて網血小板比率を測定することが可能であり、簡便で繰り返し行える検査法として臨床上非常に有意義な検査になりえると考えられる。 2.網血小板比率は、抗癌剤投与後の骨髄抑制からの回復期に網赤血球比率と同様骨髄における造血機能回復を予測する指標となりうる。また末梢血血小板数と網血小板比率から算出した網血小板絶対数は、骨髄における血小板造血を比率よりもより正確に反映する。 3.血清TPO値は、骨髄抑制時の血小板減少期に上昇し、血小板数の回復にともなって正常レベルに下降し、血小板と巨核球の総量(mass)の変化と相反する推移を示した。 4.平均網血小板比率は、特発性血小板減少性紫斑病症例において正常人と比較して有意差をもって(P=0.0001)増加していた。一方再生不良性貧血および肝硬変症例では肝癌非合併、合併いずれの症例においても正常人と比較して有意差は認められなかった。 5.平均網血小板絶対数は、骨髄における血小板産生の低下を反映して再生不良性貧血では正常人と比較して有意差をもって(P=0.0001)減少していた。高度な血小板減少を伴う特発性血小板減少性紫斑病(末梢血血小板数が20x109/l以下の症例)においては、網血小板も脾臓における破壊の対象になるため、網血小板絶対数の低下が必ずしも骨髄における血小板産生の低下を反映しないので、結果の解釈には注意する必要がある。興味深いことに肝硬変症例において平均網血小板絶対数は再生不良性貧血と同様、正常人と比較して有意差をもって(P=0.0001)減少していた。これらの結果より肝硬変症例においては、骨髄における血小板産生の低下が示唆された。 6.血清TPO値は、再生不良性貧血においては、有意差をもって著明に上昇していたが(P=0.0001)、特発性血小板減少性紫斑病および肝硬変においては有意な増加はみられなかった。血清TPO濃度が再生不良性貧血において特発性血小板減少性紫斑病と比較して著明に上昇していたことから、血小板減少症において(高度な血小板減少を伴うimmune thrombocytopenia(ITP)を除く)血清TPO濃度の上昇は、体内血小板総量(mass)と網血小板絶対数の低下により誘導されるのではないかと考えられる。網血小板絶対数の低下は骨髄における血小板造血の低下、すなわち巨核球massの低下を反映していることによるためと考えられるが、網血小板数の低下それ自体も血清TPO濃度の一つの調節因子である可能性もあり非常に興味深い。肝硬変においては、脾臓における血小板プールの増大により血小板減少症が生じると思われるが、肝機能低下にともない肝臓におけるTPO産生が増加しないことも関与している可能性が示唆された。 7.本研究における肝癌非合併、合併肝硬変症例の検討結果から肝癌合併症例において血清TPO値の増加は認められず、肝癌によるTPO産生の可能性は否定的である。 以上、本論文は血小板減少症の各疾患において、末梢血網血小板数と血清トロンボポエチン値の同時測定による解析から、血小板減少症の病態を明らかにした。特に肝硬変の血小板減少症において、肝機能低下にともない肝臓におけるTPO産生が増加しないことも関与している可能性が示唆されたことは興味深い。本研究により血小板減少症の病態解明に網血小板数および血清トロンボポエチン値の同時測定が重要な貢献をなすことが示され、学位の授与に値するものと考えられる。 |