都市開発において構築すべき都市基盤施設は、「水系・廃棄物系・エネルギー系・情報系」の4分野に道路等の「交通・輸送系」を加えた5分野から構成される。道路整備が都市開発の目的そのものとされるのに対し、前者の4分野の施設は通常「供給処理等施設」として一括され、二次的な段階で計画されてきた。しかし、水・資源・エネルギー面から都市の代謝的活動に直接にかかわる施設であり、環境面の制約条件がきびしくなるこれからの時代には、これら施設を都市計画の新しい枠組みの下で計画することが重要な課題となる。そのためには公と民との役割分担のもとで、都市代謝構造の転換を図れるような、循環型の新しい都市の代謝系施設の施設計画が求められている。 本論文は、「都市開発における代謝系施設の構築過程と公民分担体制に関する研究」と題し、序章および6つの章より構成されている。 序章は、研究内容とその構成についての概要である。 第1章は、「代謝系施設の基本特性と都市開発における構築体制」についてである。代謝系施設の基本特性について、システム構成や計画領域、事業の体系、社会資本ストック等からみた分析をおこない、公共事業としての性格が強い「水系,廃棄物系」と公益事業としての性格が強い「エネルギー系,情報系」の2つのグループに代謝系施設を分類することが妥当であることを明らかにしている。 第2章は「都市開発における代謝系施設の構築過程と構築特性」であり、代謝系施設の特性比較のため、構築過程を分析し、(1)昭和30-40年代の事業整備では「水系,廃棄物」グループが「エネルギー系,情報系」グループに遅れ、10年程度の時間的なずれが生じたこと、(2)資本ストック形成面でも同様の時間的なずれが生じたこと、(3)このため「水系,廃棄物系」グループでは都市化過程での新規施設需要に対しより広域的な施設計画が必要となったこと(「エネルギー系,情報系」グループではその必要性がなかったこと)、の3点を見出している。 また、都市開発における代謝系施設の構築過程の分析から、とくに「水系,廃棄物系」グループにおいて、都市化過程で顕在化した地方公共団体の財政赤字問題に対し、都市開発者が対応措置を講じる必要が生じたことを明らかにし、その主たる原因が都市開発の大規模化や遠隔化に伴う施設整備量の増大と開発地区における施設の先行整備の必要性であったことを明らかにしている。 第3章は、「開発者による補完システムの導入過程と代謝系施設の構築特性」についてまとめている。第2章で見出した地方公共団体の財政赤字問題への都市開発者の対応措置を、事業の推進を「補完する」という意味から、「補完システム」と命名しその概念の規定をしている。この補完システムの適用と有効性について考察し、(1)「水系,廃棄物系」グループでは、広域化した新規施設需要への個別事業者の対応には限界があること、(2)「エネルギー系,情報系」グループでは、新規施設需要への事業者の対応が相対的に容易であり、「補完システム」機能の必要性が小さかったこと、の2点を明らかにしている。 さらに、都市施設構築の特性を類型化し、「水系,廃棄物系」グループを(1)規制型:流出抑制対策を通し一貫して都市開発に規制的な対応をとってきた河川事業と、(2)認知型:開発者負担として財源的補完措置の適用を条件に調整を図る対応をとってきた水道事業,下水道事業,清掃事業、の2つに区分しうることを、また「エネルギー系,情報系」グループは、(3)内包型:事業の費用負担において新旧市街地間の差を設けず全国一律の原則を適用する形で都市開発を内包する形の対応をとってきた電気事業,ガス事業,電気通信事業、に区分しうることを示している。 第4章「開発者による補完システムの運用実態と公民分担体制の定着過程」では、以上の研究成果をふまえ、首都圏域における既存の都市開発地区を全数(総計69地区)抽出し、都市開発者による補完システムの長期間運用の実態に関する分析をおこない、補完システムの適用性についての事例検証をおこなっている。さらに、先導地区としての多摩ニュータウンについて、実際の事業過程の詳細な解析をおこない、(1)地元市の財政赤字が顕在化した時期に「水系,廃棄物系」グループにおいて補完システムへの要請が高まったこと、(2)補完システムの適用を通して高い水準の公民分担が図られたこと、の2点を事例検証から明らかにしている。 第5章「都市開発における循環システムの導入過程と公民分担体制」において、昭和50年代に始まる循環システムの導入過程を取上げ、(1)対象地区も対象エリアも導入が容易なシステム(水循環再生システムが該当)、(2)対象地区と対象エリアが限定されるシステム(地域冷暖房システムが該当)、(3)対象地区も対象エリアも導入の範囲が限定されるシステム(中水道システムと厨芥類緑地還元システム)、の3つのタイプに類型化できることを示している。 つぎに、多摩ニュータウンを例として、循環システムの事業化過程に関する解析をおこない、(1)循環を支えるべき「民」側の循環設備の導入における難易度がシステム毎におおきな差があること、(2)「水循環再生システム」は、河川事業との関係が深いことから地域の受容性も高く、受益者負担の誘導が最も容易であったこと、(3)他の循環システムでは地域の受容性が未成熟であり、事業化の制度面と技術面でさらに整備が必要であることを明らかにしている。 第6章では、研究の成果をとりまとめている。また、将来わが国の都市に課せられる環境面の制約のもとで、都市の代謝構造の体系転換を想定し、公民の役割分担をもとに確立すべき新たな施設計画の枠組みやその推進方策を提案している。 このように本論文は、都市開発における代謝系施設の構築過程を詳細に検証し、今後の代謝系施設の計画・建設・運用・管理のための新しい仕組みを提案しており、都市工学の学術分野の発展に大きく貢献している。 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |