学位論文要旨



No 214070
著者(漢字) 金田,有史
著者(英字)
著者(カナ) カネダ,ユウシ
標題(和) 外部共振器を用いた二重共振型和周波混合による高効率連続波レーザ光源
標題(洋) Efficient continuous-wave laser sources by doubly-resonant sum-frequency mixing in external resonators
報告番号 214070
報告番号 乙14070
学位授与日 1998.12.11
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第14070号
研究科 工学系研究科
専攻 物理工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 伊藤,良一
 東京大学 教授 黒田,和男
 東京大学 教授 渡部,俊太郎
 東京大学 教授 五神,真
 東京大学 助教授 三尾,典克
内容要旨

 近年の半導体レーザ励起による全固体レーザの発達と普及にはめざましいものがある。さらに非線形光学の応用により、光第二高調波発生を用い、短波長光源も実現された。しかしながら、これらは簡便に得られる基本波の周波数の2逓倍に限られ、効率よく得ることの出来る連続波光源の波長領域を限定していた。その一方で光ディスクのマスタリングや光造形といった応用の立場からは効率のよい連続波の波長350nm帯の紫外線レーザ光源が望まれていた。和周波混合はこの制限を克服する技術として注目されている。本研究では効率のよい連続波の和周波混合デバイスの研究と開発、さらに応用を目的とした。

 一組のミラーで構成され、非線形結晶-BaB2O4を含む光共振器に波長1064nmのレーザ光と波長532nmのレーザ光を同時に共振させることで、和周波混合過程により波長355nmの紫外レーザ光が効率よく得られる。0.55Wの1064nm光と0.82Wの532nm光を用いて最大0.66Wの355nm光が得られた。変換効率は48%であった。これらは連続波和周波混合での出力、効率として最大の値である。

 二重共振型和周波混合デバイスの特性を理解するために、共振器の損失、入力結合を二つの異なる波長毎に考慮し、さらに非線形減衰率を光子バランスを考慮に入れた理論を構築した。この理論では非線形過程に非減衰近似を用いたが、この近似は非線形結合が典型的に10-4W-1のオーダーであることを考えると正当な近似である。数値計算により実際的なデバイスの特性を予測する事、またデバイスの最適化を行うことが可能になった。

 理想的にインピーダンス整合の満たされたデバイスからは

 

 なる最大出力が得られる。ここに、SFMは非線形結合、12は光子バランス項で、12を各々入力項の周波数とし、

 

 と与えられる。12では各々の周波数での共振器の光学損失、R1、R2は入力結合強の反射率、Pin,1、Pin,2は各波長での入力パワーである。共振器の無損失の極限では

 

 となり、Pin,1/1が各々の入力光の光子数に比例することを考えると、バランスされた入力(2波長で同じ光子数の入力)で、完全な変換が達成されることが分かる。実際のデバイスにおいては光学損失は有限であり、また入力も一般にバランスされていないので、数値計算によりその挙動を予想する。構築した理論は実験結果とのよい一致をみる。

 コンパクトで、効率のよい波長355nmの紫外レーザ光源の試作機を製作し、信頼性の確認を行うと共に、二重共振を保つための新しい制御方法を提案した。共振器の制御が外乱による影響を受けたときの信頼性の向上を確認した。試作機は480mWの1064nm光と160mWの532nm光の入力から100mWの355nmを出力し、この出力での1000時間以上の連続動作を行い、目立った出力の劣化がなく、信頼性の高い光源であることを確認した。

 試作機レーザ光源を既存の光ディスク原盤記録装置に搭載し、原盤露光実験を行った。記録装置は351nmアルゴンレーザ用に設計され、光学系もすべて351nm用のものである。DVDフォーマットのトラックピッチのむらが有意に(30%)改善された。試作機はその高い効率のために水冷を必要とせず、光学系やレーザヘッド自体に振動を与えない。従って出力ビームの安定性が増し、ピッチむらの改善に繋がったと考えられる。信号特性は351nmアルゴンレーザを用いた場合と同様であり、高開口の光学系の互換性が確認された。

図1 トラックピッチのヒストグラム。試作固体レーザを用いた場合(左)とガスレーザを用いた場合(右)。

 本研究の成果は上記355nmレーザ光源の実現と応用にとどまらず、高効率な二重共振型和周波混合デバイスの理論を完成したことで簡便に得られる波長領域を広げることも含まれる。

審査要旨

 本論文は「Efficient continuous-wave laser sources by doubly-resonant sum-frequency mixing in external resonators(外部共振器を用いた二重共振型和周波混合による高効率レーザ光源)」と題し、光ディスクの原盤記録装置や光造形装置に用いる発振波長350nm帯の連続波高効率固体レーザ光源を実現することを目的として行われた研究についてまとめたものである。

 発振波長350nm帯の連続波高効率固体レーザとしては1050nm帯光源の第二高調波と基本波の和周波光源がもっとも有望である。この光源の高効率化をはかるために和周波混合過程における非線形変換効率を増強する事が必須となる。和周波混合においては入力の2波長に増強が必要である。したがって、光共振器は二つの入力波長で低損失でなければならず、かつ2波長ともに共振点に保たれなければならない。また、その特性の理解のためには2波長別々に共振器パラメータを取り扱う必要がある。このように、高効率連続波和周波混合デバイスを実現するためには数々の課題を解決する必要がある。本論文はこれらの課題を解決することにより、連続波和周波混合デバイスの特性を理解し、また高効率の350nm帯の固体レーザ光源を実現し、同時にこれを光ディスクの原盤記録プロセスへ応用することを目的としている。

 本論文は6Chaptersから構成されている。

 Chapter1は「Introduction」であり、本研究の背景と目的、および本論文の構成について述べている。

 Chapter2では「Theoretical Treatment of Doubly-Resonant Sum-Frequency Mixing」と題し、二重共振型和周波混合デバイスの特性の理解と、最適設計手法の確立を目的とした理論的なモデルが記述されている。理論モデルは二つの入力波長の光子バランス項に注目し、共振器損失に非線形変換の寄与を含めている。その結果、二重共振型和周波混合デバイスの挙動を正確に予測することが可能になっている。この理論が従来の共振型第二高調波デバイスの理論と一貫性のあることが述べられている。また、無損失で、インピーダンス整合のとれた共振型デバイスとバランスされた入力により、100%の変換効率が可能であることが述べられている。さらに、数値シミュレーションにより与えられた共振器パラメータに対し、入力結合あるいは非線形結合の最適化の手順が記述されている。ここで示された理論は一般の波長に適用可能であり、類似の構成によるレーザ光源の開発指針となるものである。

 Chapter3では「Doubly-Resonant Sum-Frequency Mixing Experiments」と題し、波長1064nmおよび532nmの入力と、BBO結晶を用いた二重共振型和周波混合による連続波の355nm光発生実験に関して述べている。355nmあるいはこの帯域の波長で固体レーザ光源を用いた連続波の発生はこれまでに例がない。共振器損失を低減することで変換効率の向上が可能になっている。この結果、0.66Wの和周波出力と、48%の変換効率を得ているが、これらはいずれも、連続波の和周波混合としてはこれまでで最大のものである。さらに、周波数変動の小さい532nmレーザ光源を用いることで二重共振の制御はその安定性が飛躍的に向上している。二重共振型和周波混合により効率のよい波長変換が可能であることが証明され、他の波長への応用が可能であることを示している。

 Chapter4では「Prototype Laser Head,Its Characteristics and Reliability」と題し、コンパクトで実用的な試作レーザヘッドについて述べられている。光-光変換効率は20%以上であり、水冷を必要としない構成で140mW以上の紫外光出力を得ている。出力光の特性に関して、入力以上の強度雑音を含まず、出力ビームがほぼ回折限界であることが述べられている。また、二重共振を保つための制御方法として、新たに交叉同期法を提案し、外乱により共振器の同期を失った際の高速復帰の信頼性の向上を図っている。さらに、約100mWで1000時間以上の連続動作を行い、共振器の構成部品、BBO結晶を含むレーザヘッド全体の信頼性の確認実験が記述されている。本結果は二重共振和周波混合によるレーザ光源が実用上十分以上の性能と信頼性を有することを示しており、高効率レーザ光源の開発指針となるものである。

 Chapter5では「Disk Mastering Experiment」と題し、二重共振和周波混合による試作レーザヘッドを用いた光ディスクの原盤記録実験に関して述べている。試作レーザヘッドは水冷を用いず、振動を光学系や駆動系に与えることがない。この結果、351nmのアルゴンガスレーザ用の光学系を用いた原盤記録装置で、アルゴンガスレーザを用いた場合に対して30%のトラックピッチむらの向上を確認した事が述べられている。また、アルゴンレーザの場合と同様の信号特性を得、光学系が355nmでも利用可能であることを示し、351nmのガスレーザを置換可能であることが述べられている。本結果は固体レーザのガスレーザに対する原盤記録用光源としての優位性を示し、原盤記録装置の開発指針となるものである。

 Chapter6では「Conclusion and Future Prospect」と題し、本論文の内容を簡潔にまとめている。

 Appendix Aでは「Diode-Pumped Solid-State Laser Technologies」と題し、本研究の前提となる半導体レーザ励起固体レーザ技術に関し現状技術を紹介している。

 以上のように、本研究では、高効率連続波和周波混合光源を実現するために、二重共振型和周波混合デバイスの開発を行い、新しい理論モデルを確立した。この結果、デバイスの挙動を正確に予測することが出来るようになり最適設計が可能になった。和周波混合光源を試作,実証し、さらにこの技術が実用的であることを示すことが出来た。また原盤記録用光源として、ガスレーザに対する優位性を示した。これらの成果は固体レーザ、非線形光学へのインパクトが大きく、したがって、物理工学への貢献が大きい。よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク