密度の異なる流体が重力下で小開口部を介して上下の位置交換する流れを浮力駆動置換流と呼ぶ。浮力駆動置換流は、顕著な流体の動きが開口部とその近傍に限定されるのでその部分だけに絞ったモデル化による流量等の定量的評価がある程度可能であること、しかし自然対流であることから密度変化と流動の相互作用が強く数値解析等による正確な評価は難しいこと、特に小開口部近傍の形状等の境界条件依存性が強く現象を一般化して扱うことが困難なこと、といった特徴を有している。本論文は、近接した2つのダクトからなる開口部を介した浮力駆動型置換流を対象とし、そこに現れる多様な流動様式について調べ、それを踏まえて置換流量の評価方法を提案したものである。 第1章は序論であり、浮力駆動置換流が問題となる工業上の諸問題をレビューするとともに、既往研究についてまとめている。 第2章では作動流体としてヘリウムと空気、水と塩水を用いた基本的実験で得られた結果について述べている。大きな容器と外界ないし2つの大きな容器間を中央仕切りのある矩形ダクトでつなぐと、仕切りの両側で逆方向の流れが生じる。ヘリウム-空気実験において流量が初期条件により2通りの値となることを見出し、可視化によりこれはダクト端部で流出入する両流体が引き寄せ合う場合、離れる場合の2つの安定な流動様式に対応していることを明らかとしている。水-塩水実験ではさらに詳しい可視化観察を行い、ダクト端部から流入する流体に流出する流体が連行される巻き込み現象、流出側の流路にその空間の流体が局所的に入り込む潜り込み現象を見出して考察を加えている。 これらの知見を基に、第3章では置換流量の評価方法を提案している。気体の置換流では巻き込み現象の存在が流量評価に大きな影響を与えることから、巻き込み率というものを定義し、ダクトに強制的にヘリウムと空気を流すことでこれを測定している。その上で、この巻き込み率を用いた評価結果が従来手法による誤差を大きく減少させることを示している。 第4章はこの流れに対するダクト断面の縦横比の影響について述べている。接する2流路を偏平にしていくと両方向の流れの境界は仕切りではなくなり、1偏平流路内に両方向の流れが共存するようになる。断面形状の変化により、前述のダクト端部での両流体の挙動も含め種々の流動様式が現れること、この流動様式が置換流量に大きく影響することを示している。 第5章は巻き込みや潜り込みなど浮力駆動置換流の構造について定性的に考察するために実施した二次元層流コードによる数値解析結果について述べている。定性的な模擬はほぼ可能となっているが、実験では生じていないと考えられる大きな循環流が数値解析では容器内に現れ、これがダクト部の流れにも影響するなどの問題点も明らかにして考察を加えている。さらに定量的模擬まで可能とするための改良必要項目を示し、改良方法の提案などを行っている。 第6章は結論で、本研究の成果をまとめている。 以上のように、本論文は近接した2つのダクトを介した置換流を対象とし、そこに現れる多様な流動様式を整理するとともに、ダクト端部などでの流れの詳細構造まで考慮した流量評価手法を提案したもので、工学の進展に寄与するところが少なくない。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |