審査要旨 | | 鋼の連続鋳造において高速化志向・ニアーネットシャイプ化志向に伴い鋳片の内部欠陥特に内部割れとセンターキャビティが,改めて問題化しつつある。本研究は内部割れとセンターキャビティの欠陥と連続鋳造鋳片の冷却と凝固,変形との関わりを明確にし,かつその低減法について検討したもので,6章よりなる。 第1章は序論である。本研究の背景,目的と構成について述べた。 第2章では,既応の内部割れ発生限界ひずみと応力解析によるひずみの推定値とのギャップが大きく,未凝固鋳塊の単軸の引張り試験機を用いて連続鋳片の内部割れ発生の実験を行った。その結果,内部割れは固液共存相内の強度発現温度(ZST)〜延性発現温度(ZDT)の間で発生し,内部割れ発生に影響を与えるひずみはZST〜ZDT間に与えられたひずみであり,このひずみが材料に特有な限界値をこえると、凝固の進行にともない内部割れは成長することを示した。さらに,引張り〜停止の繰り返し実験から,内部割れは連続的または間欠的変形によらず,凝固シェルがZST〜ZDT間の温度範囲において受けるひずみ量の総和が,一回変形と同じ限界ひずみを越えることにより発生し,内部割れ発生限界ひずみは,ZST〜ZDTの間に与えられるひずみの総和(積算ひずみ)で評価できることを指摘した。 第3章では,未凝固鋳塊の引張り試験により種々の鋼種の内部割れ発生限界ひずみを求め,連鋳機の人為的な内部割れ発生試験と積算ひずみによる解析から,実機における長い内部割れの発生条件について検討した。その結果,鋼種によらず前章で指摘した通り,内部割れの発生範囲は,固液共存相内のZST〜ZDTの間であり,凝固の進行よりこの間での総積算ひずみが内部割れ発生限界ひずみを越えることにより内部割れは成長することを明らかにした。また,凝固シェルの進展がほとんど無い条件で大きなひずみを与えても,内部割れは短く,内部割れの長さは変形の大きさを示すのではなく,長い内部割れは,連続的に長時間にわたる変形を受けた結果であり,積算ひずみの解析から内部割れ発生限界ひずみ,発生域と内部割れ長さの関係を良く説明できた。内部割れを防止するには,個々のひずみを小さくするのみならず,ひずみ積算範囲を小さくすること,ひずみ積算範囲を考慮した総積算ひずみを低減できる鋳造条件の選定,ロールレイアウト設計が重要であることを示した。特に,鋳造速度5m/minを越えるような超高速鋳造を図るためには,鋳型直下の凝固シェルでのひずみの増大が問題となることを指摘した。 第4章では,センターキャビティが大きくなりやすいCr含有鋼のCr量のセンターキャビティ発生への影響を調べた。次に,凝固時の密度変化は,Cr濃度が5%までCrを含まない場合と変わらず,13%Cr鋼において,これらの価の約1.8倍の大きさとなる。次に,凝固時の引張り強度については,Cr濃度の増大にともなって,の割合が増し,+の2相域の範囲が広くなるに従い引張り強度が低下し,中心割れが発生し易くなる傾向にある。以上の結果を総合して,Cr濃度増加とともに,5%Cr鋼までは中心割れ発生傾向が増大し易くなる可能性を指摘した。次に,13%Cr鋼の263mm直径ビレット連鋳鋳片の未凝固圧下ならびに剛塑性解析によるセンターキャビティの低減の効果と凝固シェルの変形挙動を明らかにした。解析結果から実験ならびに3mmの圧下は、センターキャビティ消滅のための臨界圧下にほぼ等しいことがわかった。これは,従来報告されているブルーム連鋳鋳片の圧下量に較べ極めて小さい値であり,丸鋳片では内部圧下浸透性が,角鋳片より高く,センターキャビティの低減については,丸鋳片からの未凝固圧下が,効果的であることを指摘した。 第5章では,Ti,Nbを含有するステンレス鋼を対象に,水平連続鋳造凝固末期での従来に無い強攪拌を含む,組み合わせ電磁攪拌のセンターキャビティの抑制と凝固組織への影響について検討した。センターキャビティの抑制については,鋳型内攪拌(M-EMS)+中間攪拌(S-EMS)+凝固末期攪拌(F-EMS)の3段の組み合わせ電磁攪拌が最も効果的で,どれを欠いてもセンターキャビティ抑制効果が低減した。また,S-EMSはM-EMSで生成した等軸晶のさらなる増殖と,水平連続鋳造において凝固末期まで等軸晶を沈降させずに液相中に分散させ,鋳型内攪拌と凝固末期の間に,少なくとも,もう一つの電磁攪拌が必要であることを指摘した。F-EMSは,結晶粒径等,凝固組織にはほとんど影響を与えないが,強い攪拌能力付与により高固相率の凝固末期まで固液共存相内の流動性を確保できた。 第6章は本論文の結論である。鋼の連続鋳造における内部欠陥制御の新たな展開を示したもので金属工学に寄与するところが大きい。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |