学位論文要旨



No 214072
著者(漢字) 山中,章裕
著者(英字)
著者(カナ) ヤマナカ,アキヒロ
標題(和) 鋼の連続鋳造における内部割れとセンターキャビティ低減に関する研究
標題(洋)
報告番号 214072
報告番号 乙14072
学位授与日 1998.12.11
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第14072号
研究科 工学系研究科
専攻 金属工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 梅田,高照
 東京大学 教授 柴田,浩司
 東京大学 教授 鈴木,俊夫
 東京大学 教授 相澤,龍彦
 東京大学 教授 前田,正史
内容要旨

 連続鋳造における近年の高速化志向、ニアーネットシェイプ化志向において、鋳片の内部欠陥が、冷却と変形の様相の変化にともなう新たな問題として表面化しつつある。内部割れにおいては、その基本的な発生条件が明確になっておらず、新たな連続鋳造機の設計と操業条件の設定上、指針となるものがほとんど無いに等しいというのが現状である。また、センターキャビティも連続鋳造法に限らず、造塊法が盛んな頃からの代表的な内部欠陥の一つであるが、連続鋳造のニアーネットシェイプ化において、さらに厳しく抜本的な解決策を見出すべき課題として注目されつつある。本研究では、内部割れとセンターキャビティに焦点をあて、これら欠陥と連続鋳造鋳片の冷却と凝固、変形との関わりを明確にし、かつその低減法について検討した。

 まず内部割れの低減に関する研究において、既存の内部割れ発生限界歪と連続鋳造鋳片で発生すると考えられる歪の推定値との差が大きいという事実に鑑み、内部割れ発生限界評価の再構築化を目的として、内部割れ発生の基本実験を行った。未凝固鋳塊の一軸の引張り試験機を用いて一定の凝固条件のもとで変形量、変形速度を変化させ、内部割れの発生形態および内部割れ発生限界歪への影響を調査した。さらに連続鋳造鋳片のロール毎の変形を想定して、引張り-停止の繰り返し実験を行い、内部割れ発生限界に及ぼす鋳片変形の履歴の影響を検討した。その結果、内部割れは固液共存相内のZST〜ZDTの間で発生し、内部割れ発生に影響を与える歪は、ZST〜ZDT間の温度範囲で与えられた歪(e)であり、このeが材料に特有な限界値をこえている限り凝固の進行にともなって、内部割れは成長することが明らかとなった。さらに、引張り-停止の繰り返し実験の結果から、内部割れは連続的または間欠的変形によらず、凝固シェルがZST〜ZDT間の温度範囲において受ける歪量の総和が、一回変形と同じ限界歪を越えることにより発生することを明らかにした。その結果から、内部割れ発生限界歪みは、ZST〜ZDTの間に与えられる歪の総和(積算歪)で評価できることを指摘した。

 続いて、実機での内部割れ発生機構の解明と内部割れ防止法の検討を行った。実機鋳片への内部割れ発生限界歪の適用展開を図るために、先ず未凝固鋳塊の引張り試験により種々の鋼種の内部割れ発生限界歪を求めた。さらに連続鋳造機における人為的な内部割れ発生試験と積算歪による解析から、実機において問題となる長い内部割れの発生条件について考察し、内部割れ防止のための鋳造条件の設定、連続鋳造機の設計について検討した。その結果、鋼種によらず、内部割れ発生模擬試験結果で指摘した通り、連続鋳造鋳片においても、内部割れの発生範囲は、固液共存相内のZST〜ZDTの間であり、凝固の進行にともなって、この間で受けた総積算歪が内部割れ発生限界歪を越え続けることにより内部割れは成長することを明らかにした。凝固シェルの進展がほとんど無い条件で、大きな歪を与えても、内部割れは短く、内部割れの長さは、単に変形の大きさを示すものではないことを指摘した。長い内部割れは連続鋳造中に鋳片が、各ロールから長時間にわたる変形を受けた結果生じたものであり、積算歪の解析から内部割れ発生限界歪、発生域と内部割れ長さの関係を良く説明できることを示した。内部割れを防止するためには、個々の歪を小さくするのみならず、歪積算範囲を小さくすることと、歪積算範囲を考慮した総積算歪を低減できる鋳造条件の選定、ロールレイアウト設計が重要であることを示した。特に、鋳造速度5m/minを越えるような超高速鋳造を図るためには、バルジング歪の抑制が重要であることを指摘した。

 次ぎに、センターキャビティの低減法に関する研究において、まずCr成分のセンターキャビティ発生への影響を調査した。Cr含有鋼は、従来からブルーム連続鋳造、ビレット連続鋳造よって鋳造されているが、他のCrを含有しない鋼種に較べ、センターキャビティが大きくなりやすい。センターポロシティ、中心割れのそれぞれの可能性から、その考え得る支配因子を調査した。密度測定により凝固収縮へのCr濃度の影響を調査し、次に溶融凝固引張り試験から高温強度に及ぼすCr成分の影響を調査した。最後にこれらの結果を総合し、Cr濃度増加のセンターキャビティ発生傾向への影響について考察した。その結果、凝固時の密度変化は、Cr濃度が5%までは、Crを含有しない場合と変わらず、13%Cr鋼において、これらの値の約1.8倍の大きさとなることを明らかにした。次に、高温引張り強度については、Cr濃度の増大にともなって、の割合が増し、+の2相域の範囲が広くなるに従い引張り強度が低下し、中心割れが発生し易くなる傾向にあることを示した。以上の結果を総合して、Cr濃度増加とともに、5%Cr鋼までは中心割れ発生傾向が増大し、13%Cr鋼においては、中心割れとセンターポロシティが、共に増大し易くなる可能性を指摘した。

 次に、丸ビレット連続鋳造鋳片の未凝固圧下によるセンターキャビティの低減の効果と、凝固シェルの変形挙動を明らかにすることを目的として、13%Cr鋼の263mmの静止鋳片で未凝固圧下の実験を行った。鋳片の中心部が凝固を開始し出した時点から、ほぼ完全凝固となる一定の期間を圧下量を種々変更して圧下し、圧下量とセンターキャビティの低減の程度と鋳片の変形状況を調査した。また、剛塑性変形解析により、丸ビレット鋳片凝固シェルの圧下による変形挙動について考察し、センターキャビティ低減機構を検討するとともに圧下方式の影響についても検討した。その結果、径で約2mmの圧下で、センターキャビティはほぼ消滅できることを明らかにした。3.6mm以上の圧下を加えると、圧下部周辺に溶鋼の絞り出し跡らしいマクロな偏析帯が生じることが判明した。変形解析から、径で3mmの圧下で未凝固部の体積減少量は、ほぼ凝固収縮量に見合う圧下となっていると推定された。圧下量が3mmを越えると未凝固部の体積減少率は凝固収縮量を超え、過圧下状態になると考えられる。これらの解析結果と実験結果から3mmの圧下はセンターキャビティ消滅のための臨界圧下量にほぼ等しいと推定された。これは、従来報告されているブルーム連続鋳造鋳片の圧下量に較べ極めて小さい値であり、丸鋳片では内部圧下浸透性が、角鋳片よりかなり高いものと考えられる。従って、センターキャビティの低減については、丸鋳片からの未凝固圧下が、効果的であることを指摘した。また、圧下方式について、最も単純な平板面による圧下では、中心部近傍での引張り応力の発生によるセンターキャビティの拡大が懸念され、また充分にセンターキャビティを低減させるためには圧下量をかなり大きくとらなければならず真円度の確保という面で問題がある可能性も明らかにした。

 最後に、水平連続鋳造でセンターキャビティの増大し易い、Ti、Nbを含有するステンレス鋼を対象とし、従来に無い強攪拌の凝固末期電磁攪拌を含む、組み合わせ電磁攪拌の可能性について調査検討を行った。その結果、センターキャビティの抑制と凝固組織への影響について以下の知見が得られた。すなわち、センターキャビティの抑制については、M-EMS+S-EMS+F-EMSの3段の組み合せ電磁攪拌が最も効果的で、どれを欠いてもセンターキャビティ抑制効果が低減することが判明した。また、S-EMSはM-EMSで生成した等軸晶のさらなる増殖と、水平連続鋳造において凝固末期まで等軸晶を沈降させずに液相中に分散させる効果があることが明らかになった。これは水平連続鋳造において、電磁攪拌によりセンターキャビティを低減しようとする場合、特有の問題と考えられるが、鋳型内電磁攪拌と凝固末期電磁攪拌の間に、少なくとも、もう一つの電磁攪拌が必要であることを指摘した。最後に、3段の電磁攪拌において、F-EMSの印加時期を固相線温度基準の未凝固径で40〜80mmの位置となるようにするのが最も効果的であることを明らかにした。F-EMSは、結晶粒径等、凝固組織にはほとんど影響を与えないが、未凝固径40〜80mmの凝固末期においても、15Hzという強い攪拌能力付与により高固相率の凝固末期まで固液共存相内の流動性を確保をさせることができると考えられる。これは、水平連続鋳造に限らず、他の型式の連続鋳造においても適用され得るものであると指摘できる。電磁攪拌は、既にほぼ確立された技術であるとの認識があるが、本研究で示したように、今後、攪拌力増大の可能性にともない、センターキャビティの大幅な低減の可能性を持った新たな選択肢として認識する必要がある。

審査要旨

 鋼の連続鋳造において高速化志向・ニアーネットシャイプ化志向に伴い鋳片の内部欠陥特に内部割れとセンターキャビティが,改めて問題化しつつある。本研究は内部割れとセンターキャビティの欠陥と連続鋳造鋳片の冷却と凝固,変形との関わりを明確にし,かつその低減法について検討したもので,6章よりなる。

 第1章は序論である。本研究の背景,目的と構成について述べた。

 第2章では,既応の内部割れ発生限界ひずみと応力解析によるひずみの推定値とのギャップが大きく,未凝固鋳塊の単軸の引張り試験機を用いて連続鋳片の内部割れ発生の実験を行った。その結果,内部割れは固液共存相内の強度発現温度(ZST)〜延性発現温度(ZDT)の間で発生し,内部割れ発生に影響を与えるひずみはZST〜ZDT間に与えられたひずみであり,このひずみが材料に特有な限界値をこえると、凝固の進行にともない内部割れは成長することを示した。さらに,引張り〜停止の繰り返し実験から,内部割れは連続的または間欠的変形によらず,凝固シェルがZST〜ZDT間の温度範囲において受けるひずみ量の総和が,一回変形と同じ限界ひずみを越えることにより発生し,内部割れ発生限界ひずみは,ZST〜ZDTの間に与えられるひずみの総和(積算ひずみ)で評価できることを指摘した。

 第3章では,未凝固鋳塊の引張り試験により種々の鋼種の内部割れ発生限界ひずみを求め,連鋳機の人為的な内部割れ発生試験と積算ひずみによる解析から,実機における長い内部割れの発生条件について検討した。その結果,鋼種によらず前章で指摘した通り,内部割れの発生範囲は,固液共存相内のZST〜ZDTの間であり,凝固の進行よりこの間での総積算ひずみが内部割れ発生限界ひずみを越えることにより内部割れは成長することを明らかにした。また,凝固シェルの進展がほとんど無い条件で大きなひずみを与えても,内部割れは短く,内部割れの長さは変形の大きさを示すのではなく,長い内部割れは,連続的に長時間にわたる変形を受けた結果であり,積算ひずみの解析から内部割れ発生限界ひずみ,発生域と内部割れ長さの関係を良く説明できた。内部割れを防止するには,個々のひずみを小さくするのみならず,ひずみ積算範囲を小さくすること,ひずみ積算範囲を考慮した総積算ひずみを低減できる鋳造条件の選定,ロールレイアウト設計が重要であることを示した。特に,鋳造速度5m/minを越えるような超高速鋳造を図るためには,鋳型直下の凝固シェルでのひずみの増大が問題となることを指摘した。

 第4章では,センターキャビティが大きくなりやすいCr含有鋼のCr量のセンターキャビティ発生への影響を調べた。次に,凝固時の密度変化は,Cr濃度が5%までCrを含まない場合と変わらず,13%Cr鋼において,これらの価の約1.8倍の大きさとなる。次に,凝固時の引張り強度については,Cr濃度の増大にともなって,の割合が増し,+の2相域の範囲が広くなるに従い引張り強度が低下し,中心割れが発生し易くなる傾向にある。以上の結果を総合して,Cr濃度増加とともに,5%Cr鋼までは中心割れ発生傾向が増大し易くなる可能性を指摘した。次に,13%Cr鋼の263mm直径ビレット連鋳鋳片の未凝固圧下ならびに剛塑性解析によるセンターキャビティの低減の効果と凝固シェルの変形挙動を明らかにした。解析結果から実験ならびに3mmの圧下は、センターキャビティ消滅のための臨界圧下にほぼ等しいことがわかった。これは,従来報告されているブルーム連鋳鋳片の圧下量に較べ極めて小さい値であり,丸鋳片では内部圧下浸透性が,角鋳片より高く,センターキャビティの低減については,丸鋳片からの未凝固圧下が,効果的であることを指摘した。

 第5章では,Ti,Nbを含有するステンレス鋼を対象に,水平連続鋳造凝固末期での従来に無い強攪拌を含む,組み合わせ電磁攪拌のセンターキャビティの抑制と凝固組織への影響について検討した。センターキャビティの抑制については,鋳型内攪拌(M-EMS)+中間攪拌(S-EMS)+凝固末期攪拌(F-EMS)の3段の組み合わせ電磁攪拌が最も効果的で,どれを欠いてもセンターキャビティ抑制効果が低減した。また,S-EMSはM-EMSで生成した等軸晶のさらなる増殖と,水平連続鋳造において凝固末期まで等軸晶を沈降させずに液相中に分散させ,鋳型内攪拌と凝固末期の間に,少なくとも,もう一つの電磁攪拌が必要であることを指摘した。F-EMSは,結晶粒径等,凝固組織にはほとんど影響を与えないが,強い攪拌能力付与により高固相率の凝固末期まで固液共存相内の流動性を確保できた。

 第6章は本論文の結論である。鋼の連続鋳造における内部欠陥制御の新たな展開を示したもので金属工学に寄与するところが大きい。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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