本論文は「高エネルギー固体推進薬の燃焼機構に関する研究」と題し、高エネルギーバインダーとして分子内にアジド基を含有するアジドメチルメチルオキセタン(AMMO)を用いた推進薬の、燃焼特性および燃焼機構を明らかにするとともに、その燃焼速度を制御する方法を確立することにより、固体推進薬の高エネルギー化の可能性を見いだすことを目的として行った研究の成果をまとめたもので、6章からなる。 第1章は序論であり、本論文の研究の背景と既往の研究について概説し、本論文の目的と方針を明らかにしている。 第2章は、AMMO単体の基本性能である熱分解特性および燃焼特性について検討した結果をまとめている。AMMOの熱分解は2段階の熱分解過程を経て進行し、第1段階はアジド基から窒素ガスが放出する発熱反応であることを明らかにしている。また、AMMOは、酸素が存在しない不活性ガス中においても燃焼を持続することを見いだすとともに、燃焼波構造の解析結果から、燃焼表面近傍の凝縮相における反応熱の燃焼表面へのフィードバックが燃焼を支配しており、この反応はアジド基の発熱分解反応に起因するとしている。 第3章は、固体推進薬における高エネルギーバインダーとしてのAMMOの特性を明らかにするため、AMMOおよび比較のため他の各種のバインダーを用いた過塩素酸アンモニウム(AP)系コンポジット推進薬についてそれらの燃焼特性を比較検討している。その結果、AP/AMMO系推進薬は、現在最もよく用いられている、末端ヒドロキシポリブタジエン(HTPB)をバインダーとするAP/HTPB系推進薬に比べて優れた燃焼特性を示し、高エネルギー化の達成が可能であることを見いだしている。次に、AP/AMMO系推進薬の燃焼機構について検討した結果、AP/AMMO系推進薬の場合は、燃焼時にAMMOの融解相が燃焼表面に形成されること、また、AP系推進薬の燃焼の理論モデルとして知られている粒状拡散モデルを適用した解析結果から、AP/AMMO系推進薬は、低圧では化学反応律速となり、高圧では拡散律速となることを見いだしている。さらに、AP/AMMO系推進薬はAP/HTPB系推進薬よりも低圧では化学反応が促進される可能性があることを示唆している。 第4章は、バインダーとしてAMMO/ポリプロピレングリコール(PPG)混合物を用いたAP系コンポジット推進薬の、燃焼に及ぼすバインダー中のAMMOの含有量の影響について検討した結果を述べている。バインダー中のAMMOの含有量が増加するにしたがい燃焼速度は増大するが、これは気相あるいは凝縮相におけるAMMOの発熱分解が、燃焼速度に影響を及ぼすためと推定している。 第5章は、AP/AMMO系推進薬の燃焼速度を燃焼触媒により制御することの可能性について検討している。燃焼触媒として一般的に使用されている酸化鉄(Fe2O3)の効果を検討した結果、酸化鉄は、酸化剤であるAPだけではなく、AMMOの熱分解も促進することを示している。さらに、酸化鉄を添加することにより、燃焼速度は増大し、燃焼も安定化することを見いだしており、酸化鉄触媒を用いることによりAP/AMMO系推進薬の燃焼速度の制御が可能となり、従来の推進薬と同様に使用可能であることを示している。また、燃焼機構について検討した結果、酸化鉄の添加は固相における拡散速度を増大させることを明らかにしている。 第6章は、総括であり、本論文により得られた成果をまとめている。 以上要するに、本論文は、高エネルギーバインダーとしてAMMOを使用した推進薬の燃焼特性および燃焼機構を明らかにするとともに、これによる固体推進薬の高エネルギー化の可能性を明らかにしたものであり、エネルギー物質化学および化学システム工学の発展に寄与するところが少なくない。 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |