本研究は前立腺癌におけるアンドログン感受性の低下、腫瘍増殖能、及び抗癌剤耐性にアポトーシスが関与しているのかを明確にするために、前立腺癌細胞株にアポトーシス抑制遺伝子であるbcl-2を導入して種々の条件下での細胞増殖能を検討し、下記の結果を得ている。 1.in vitroにおいて3種の前立腺癌細胞株のうち、アンドロゲン感受性株LNCaP細胞のみが、無栄養培地にてアポトーシスが誘導された。しかし、この細胞株にbcl-2を遺伝子導入すると(LNCaP/bcl-2細胞)、アンドロゲン非感受性となり、また無栄養培地でのアポトーシスも回避した。bcl-2がアンドロゲンの非感受性化に関与していることが示された。 2.ヌードマウスにLNCaP/bcl-2細胞を背側皮下に移植した場合、その生着率はコントロール細胞に比べ、上昇する傾向にあった。また生着腫瘍の増殖速度は、はじめの21日間では、有意にLNCaP/bcl-2細胞がコントロール細胞を上回っていた。また去勢後でも、LNCaP/bcl-2細胞は縮小傾向を示さなかった。このことはin vivoでのアポトーシスの回避が腫瘍の生着、増殖およびアンドロゲン非感受性化に影響を与えていることを示した。 3.LNCaP/bcl-2細胞の細胞内グルタチオン濃度は、コントロール細胞に比べ有意に上昇していた。またin vitroでのシスプラチン感受性も低下していた。抗癌剤感受性の低下もbcl-2が関与していることが示された。 4.D-L-buthionine-(S,R)-sulfoximine(BSO)と2-oxothiazolidine-4-carboxylic acid(OTZ)を用いて、コントロール細胞のみならず、LNCaP/bcl-2細胞の細胞内グルタチオン濃度も調節することができた。コントロール細胞では細胞グルタチオン濃度の低下に伴い、シスプラチン感受性を高めたが、LNCaP/bcl-2細胞の場合は、シスプラチン感受性を高めることはできなかった。bcl-2の抗癌剤耐性化はグルタチオン以外の関与があると示唆された。 以上、本論文はLNCaP細胞にbcl-2遺伝子を導入したLNCaP/bcl-2細胞を用いて、アンドロゲン感受性や抗癌剤耐性等に対するアポトーシスとbcl-2の働きを明らかにした。本研究はこれまで未知に等しかった、前立腺癌の生着、増殖、治療抵抗性とアポトーシスの関係の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |