本研究では、CBAマウスで発見された突然変異遺伝子lprcg遺伝子の機能発現における胸腺の役割とlprcg自己免疫病に対する背景遺伝子の効果を解明し、自己免疫病の病体モデルを確立することを目的とし、下記の点を明らかにした。 1.胸腺を欠損し、lprcgをホモ接合状態でもつlprcgnudeマウスを作出し、無胸腺下ではlprcgはリンパ節腫脹や自己免疫症状を誘発できないことを確かめた。 2.lprcgnudeマウスに胸腺移植すると、リンパ節腫脹や自己免疫症状が起こることから、lprcgによる免疫異常の誘発に胸腺が必須であることが判明した。 3.lprcgnudeマウスに野生型(正常)胸腺とlprcg胸腺のいずれを移植してもリンパ節腫脹と自己免疫症状が誘発された。既報の骨髄移植実験の結果と合わせると、lprcgの異常は骨髄細胞に発現されていると考えられる。 4.lprcg遺伝子をMRLマウスに導入し、CBA背景に比べてMRL背景で遥かに重症な糸球体腎炎と血管炎が起こることを確かめた。既に報告されている第7及び12染色体上のlpr腎炎増悪遺伝子が関係していると考えられる。 5.IgMからIgGへのクラス転換がMRL背景で促進された。 6.糸球体への免疫反応物質の沈着量が糸球体腎炎の重症度と相関することから、MRL背景遺伝子が腎臓の局所的な環境を修飾し糸球体腎炎を起こす可能性がある。 7.MRL背景ではlprcgは不完全優性遺伝子として振舞い、ヘテロ接合状態で重症な自己免疫病と軽度のリンパ節腫脹を起こすことが判明した。 8.ヘテロ接合状態で腫脹したリンパ節はほぼ正常な表面マーカーをもつリンパ球から成ることから、自己抗体産生とそれによる糸球体腎炎誘発に異常なDN T細胞が関与していない可能性が考えられる。 9.本研究で樹立したMRL-lprcg/lprcgコンジェニックマウスはMRL-lpr/lprマウスと共に有用な自己免疫病の病態モデルを提供する。 以上、本論文は、FAS-FAS-Lを介するアポトーシス異常による自己免疫誘導のモデルとなるlprcg遺伝子に関し、其の自己免疫誘発における胸腺の役割及び同遺伝子に対する背景遺伝子の影響を明らかにした。本研究は、ヒトの全身性エリテマトーデスをはじめとする膠原病や自己免疫異常に関する研究にも重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |