本研究は、空間恐怖を伴うPanic Disorderの症例を空間恐怖の重症度経過により2群に分け、パニック発作重症度の推移との関係を中心とした検討を行い考察したものである。 我が国では、Panic Disorderの認識は浅く、臨床研究において遡及的研究が多いため、特にcomorbidityとして頻度の高い空間恐怖(Agoraphobia)の成立要因の検討は十分とは言えない。DSM-III-Rでは、空間恐怖はパニック発作の続発症であるという基本的理念がある。一方ICD-10DCRでは、空間恐怖は恐怖症の一部でありパニック発作は挿入的なものであるという概念が基礎にある。 これらの見解の相違を検討する意味においても、本論文は対象となる空間恐怖を伴うPanic Disorderの症例を一定の治療を施行したうえで当該科初診後6カ月の時点における空間恐怖の改善度により改善群と不変群に分別した。この分別された2群は、パニック発作の重症度の推移、発作症状項目、症状発現順序、発症状況、状況依存性の有無、予期不安の程度などと群間比較で臨床統計的に検討され、群別ではパニック発作・空間恐怖の重症度の推移が比較され、その結果、下記の知見を得ている。 1.パニック発作の重症度の変化は、2群間の比較において各時期(極期、初診時、初診後6カ月)いずれも有意の差がなかった。 一方空間恐怖の重症度と2群間の比較では、不変群は初診時において高い結果となった。 またパニック発作の症状数・項目や発作症状出現順序の2群間での比較では有意の差が認められなかった。 2.パニック発作、空間恐怖の重症度変化の差を群別で検討した結果、改善群は、パニック発作の重症度と空間恐怖の重症度の変化がほぼ平行に推移していることが示された。 一方不変群は、パニック発作が軽減していく経過を辿るにもかかわらず空間恐怖の改善が乏しい結果となった。 3.不変群では、改善群に比し発症時に恐怖源状況でパニック発作が生じやすい傾向がみられ、状況依存性が有意に高い結果が得られた。 また初診後6カ月において不変群は、改善群に比し自覚的に予期不安、状況恐怖度が強く、社会的機能は低下していた。 以上のことから空間恐怖改善群は、パニック発作の改善とともに空間恐怖が軽快を示した。これはパニック発作の優位性を示す一つの根拠となった。 一方不変群は、群間でパニック発作重症度の推移に差がなく、群別の経過においてもパニック発作が改善しているにもかかわらず空間恐怖が改善を示していない。 このことはパニック発作と空間恐怖の関係が強くないことが示唆された。 また不変群では、状況依存性の高いことや予期不安・状況恐怖度の強さが残存していることから恐怖症的要因の優位性が示唆された。 このように本論文は、空間恐怖を伴うPanic Disorderの臨床経過を考える際、パニック発作と空間恐怖の関係を明らかにしたという貢献をなした。これは我が国では十分に論じられていない事である。そして空間恐怖の経過に影響を与える要因についての解明に貢献をなしたと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |