No | 214117 | |
著者(漢字) | 松田,圭二 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | マツダ,ケイジ | |
標題(和) | 潰瘍性大腸炎に随伴したdysplasiaの形態学的遺伝子学的解析 : 腺腫との比較 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 214117 | |
報告番号 | 乙14117 | |
学位授与日 | 1999.01.27 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 第14117号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 生検でdysplasiaを伴う潰瘍性大腸炎(UC)の切除材料に大腸癌の合併が認められることが珍しくない.すなわち,dysplasiaは,他の部位に癌が存在することを示唆する有力な指標であると考えられている.しかし,dysplasia,特にlow-grade dysplasia(LGD)と非腫瘍性の再生性腺管の組織学的鑑別は往々にして困難であり,Riddell分類でもindefinite for dysplasiaとして判定を保留せざるを得ない病変が存在することを認めている.一方,UC大腸粘膜にも通常の大腸粘膜同様に腺腫が発生する.この腺腫は加齢とともに合併しやすく,切除茎部に異型性を認めない.しかし,有茎性の腺腫は診断に苦慮しないが,無茎性・扁平型・平坦型の腺腫の場合,dysplasiaとの鑑別が困難なことがある.腺腫であれば摘除のみで治療として十分であるが,dysplasiaであれば大腸全摘が必要となる.このように腺腫とdysplasiaでは組織発生の相違のみならず,治療面でも取り扱いが全く異なってくるのでその鑑別がきわめて重要である. 本研究では,臨床の場で再生性腺管や腺腫とdysplasiaを鑑別するための方法を検討することを目的とした. 外科切除されたUC大腸7例にみられた大腸腫瘍27個(癌は5例中6個,dysplasiaは患者6例中21個),腺腫37個と,外科切除された腫瘍非合併のUC大腸10例,対照として,炎症性腸疾患を合併していない82症例の正常粘膜を検索対象とし,渡辺の分類を用いてdysplasiaと腺腫を分類した.Pit patternの観察には実体顕微鏡(model SMZ-U,Nikon)を用いた.メチレンブルー染色し,3.75〜37.5倍に拡大して観察した.同部を組織学的に検討した. (1)抗p53蛋白モノクローナル抗体PAb1801(Oncogene Science),抗Ki-67モノクローナル抗体MIB-1(Immunotech)を用いた.ホルマリン固定のパラフィンブロックすべてから,3m厚の連続切片を5枚作成し,自然乾燥後,micro-wave処理し,SAB法にて上述した2種の免疫染色を行った.巣状集簇性およびびまん性にp53陽性のものをp53蛋白過剰発現とした. (2)K-ras(コドン12)の点突然変異は,nested PCR-RFLP法によって分析した.APC遺伝子は,RNase protection法にて分析した. Dysplasiaは,I型が2病変(10%),IIa型が7病変(33%),IIb型が12病変(57%)であった.腺腫との鑑別上特に問題になるLGDに限れば,I型はなく,IIa型が3病変(20%),IIb型が12病変(80%)とIIb型が圧倒的に多かった.一方,UC合併腺腫は,I型が7病変(19%),IIa型が28病変(76%),IIb型が2病変(5%)であった.腺腫のうちp53が巣状集簇性に染まった2例は,50mmのIs型と12mmのIp型であった.UC合併腺腫の肉眼型は,通常の腺腫(10mm以下ではI型22%,IIa型73%,IIb型5%)と近似していた.大きさは,dysplasiaが22.7±18.9mm(5〜85),腺腫が5.0±7.4mm(1.5〜50)と差がみられた(p<0.01). Dysplasia合併症例が43.5±16.7歳,腺腫合併症例が59.5±12.9歳と,dysplasia合併症例の方が若かった(p<0.05).また,腺腫合併症例は,通常の腺腫患者(57.7〜57.9歳)と近似していた. 実体顕微鏡によるdysplasia表面のpit patternは4病変(44%)が楕円〜長楕円形,2病変(22%)が樹枝状,3病変(33%)が乳頭状突起の集簇からなるものであった.これは,通常の腺管腺腫や腺管絨毛腺腫にみられるものと同様のpit patternであった. UC腫瘍病変のp53染色パターンをみると,びまん性陽性が浸潤癌で100%(6/6),HGDで100%(6/6),LGDで73%(11/15)にみられた.腺腫では,p53蛋白過剰発現は5%(2/37)で,そのp53染色パターンは巣状集簇性であった.UCのregenerative mucosaは3642腺管で,非UCの正常腺管では17892腺管で,いずれもp53蛋白過剰発現はみられなかった. Dysplasiaと腺腫,ならびにUC非腫瘍性腺管・正常粘膜との間では,p53蛋白過剰発現率および発現様式に差がみられた(p<0.001). K-ras変異はLGDで13%(1/8),HGDで0%(0/6)であり,UC随伴大腸癌・dysplasiaでは5%(1/20)であった.これに対し,UCに随伴した腺腫ではK-ras変異が20%(4/20)にみられた.APC遺伝子変異はUC随伴浸潤癌で33%(2/6),HGDで50%(1/2),LGDで43%(3/7),腺腫で56%(4/7)で,病変間でAPC遺伝子の変異率に差は認められなかった.Ki-67indexはLGD44.5±15.1%,腺腫53.9±9.1%で有意差はなかった. 今回の成績から,渡辺の分類に従って診断したUCに随伴する「腺腫」は年齢,肉眼形態や通常の組織所見ばかりでなく,p53免疫染色によるp53蛋白発現パターンやK-ras変異の頻度も,通常の腺腫と極めて近似していた.逆にdysplasiaはUC随伴腺腫と前述の諸点で異なっていた.従って,UCに随伴する腺腫は独立した通常の「腺腫」として,dysplasiaと別に取り扱われるべきである. 筆者らの成績ではp53過剰発現が癌で100%(6/6),HGDで100%(6/6),LGDで73%(11/15),と高率であった.文献的にも,p53蛋白過剰発現はLGDで11〜50%,HGDで46〜83%とされ,p53変異は,それぞれ,48〜67%,48〜100%,p53LOHは,それぞれ,33〜47%,44〜100%と報告されている. 一方,K-ras変異は,UC随伴大腸癌やdysplasiaでは,通常の癌に比べて,一般に低い傾向にある.K-ras変異は,LGDの1例にのみK-ras変異がみられ,腺腫を除くUC随伴腫瘍全体では5%(1/20)であった.UC腺腫のK-ras変異率は20%(4/20)であった.APC変異に関しては,癌,dysplasia,腺腫の間で変異率に差がなかった.以上の成績から,UCに随伴する癌やdysplasiaの発生にはK-ras変異の関与がほとんどなく,UC随伴腺腫の発生には通常の腺腫と同様にK-ras変異が関与すると考えられる. Dysplasiaと腺腫の鑑別は,無茎性病変・扁平隆起・平坦病変などの時,組織学的に判定が困難である.Pit patternに関しても,dysplasiaのpit patternは腺管腺腫や腺管絨毛腺腫と似ており,pit patternからはdysplasiaと腺腫との鑑別は困難であった. すなわち,本研究結果から,鑑別に最も有用な指標はp53免疫染色であり,過剰発現陽性のうち,びまん性に染まるものはdysplasiaであり,巣状集簇性に染まるものは腺腫と考えられた.しかし,p53過剰発現(-)の場合には,dysplasiaと腺腫の鑑別が難しく,他の指標を見い出すことが必要であろう. 本研究から,UCに随伴するdysplasiaと腺腫の鑑別が肉眼像や組織像で困難な時は,p53免疫染色が客観的なマーカーとして有用である,と考えられた. | |
審査要旨 | 潰瘍性大腸炎(UC)にみられるdysplasiaは,他の部位に癌が存在することを示唆する有力な指標であると考えられている.一方,UC大腸粘膜にも通常の大腸粘膜同様に腺腫が発生する.この腺腫は加齢とともに合併しやすく,切除茎部に異型性を認めない.腺腫とdysplasiaでは組織発生の相違のみならず,治療面でも取り扱いが全く異なってくるのでその鑑別がきわめて重要である.本研究では,臨床の場で再生性腺管や腺腫とdysplasiaを鑑別するための方法を検討することを試み,下記の結果を得ている. Dysplasiaは,I型が2病変(10%),IIa型が7病変(33%),IIb型が12病変(57%)であった.一方,UC合併腺腫は,I型が7病変(19%),IIa型が28病変(76%),IIb型が2病変(5%)であり,通常の腺腫(10mm以下ではI型22%,IIa型73%,IIb型5%)と近似していた. Dysplasia合併症例が43.5±16.7歳,腺腫合併症例が59.5±12.9歳と,dysplasia合併症例の方が若かった(P<0.05). 実体顕微鏡によるdysplasia表面のpit patternは4病変(44%)が楕円〜長楕円形,2病変(22%)が樹枝状,3病変(33%)が乳頭状突起の集簇からなるものであった.これは,通常の腺管腺腫や腺管絨毛腺腫にみられるものと同様のpit patternであった. UC腫瘍病変のp53染色パターンをみると,びまん性陽性が浸潤癌で100%(6/6),HGDで100%(6/6),LGDで73%(11/15)にみられた.腺腫では,p53蛋白過剰発現は5%(2/37)で,そのp53染色パターンは巣状集簇性であった.UCのregenerative mucosaは3642腺管で,非UCの正常腺管では17892腺管で,いずれもp53蛋白過剰発現はみられなかった.Dysplasiaと腺腫,ならびにUC非腫瘍性腺管・正常粘膜との間では,p53蛋白過剰発現率および発現様式に差がみられた(P<0.001). K-ras変異はLGDで13%(1/8),HGDで0%(0/6)であり,UC随伴大腸癌・dysplasiaでは5%(1/20)であった.これに対し,UCに随伴した腺腫ではK-ras変異が20%(4/20)にみられた.APC遺伝子変異はUC随伴浸潤癌で33%(2/6),HGDで50%(1/2),LGDで43%(3/7),腺腫で56%(4/7)で,病変間でAPC遺伝子の変異率に差は認められなかった.Ki-67 indexはLGD44.5±15.1%,腺腫53.9±9.1%で有意差はなかった. 以上,本論文は,dysplasiaと腺腫では年齢,肉眼形態ばかりでなく,p53免疫染色によるp53蛋白発現パターンやK-ras変異の頻度も異なっていたことを明らかにした.とくに,dysplasiaと腺腫の鑑別が肉眼像や組織像で困難な時は,p53免疫染色が客観的なマーカーとして有用であることを発見し,これは臨床面で重要な貢献をなすと考えられ,学位の授与に値するものと考えられる. | |
UTokyo Repositoryリンク | http://hdl.handle.net/2261/51103 |