学位論文要旨



No 214119
著者(漢字) 高橋,秀則
著者(英字)
著者(カナ) タカハシ,ヒデノリ
標題(和) モルモット心筋細胞のカルシウムチャネル電流に対する静脈麻酔薬の影響
標題(洋) The effects of intravenous anaesthetics on calcium channel currents of guinea-pig ventricular myocytes
報告番号 214119
報告番号 乙14119
学位授与日 1999.01.27
学位種別 論文博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 第14119号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 花岡,一雄
 東京大学 教授 前川,和彦
 東京大学 助教授 河西,春郎
 東京大学 助教授 田上,惠
 東京大学 講師 真鍋,俊也
内容要旨

 1.この論文には3種の全身静脈麻酔薬(チオペンタール、エトミデート、プロポフォール)についての研究結果を掲載した。研究の目的は、これらの薬物の持つ負の変力作用の作用機序を、心筋細胞レベルで解明することである。そのために、活動電位や興奮-収縮連関に重要な役割を果たすL型のカルシウムチャネルに焦点を当てて研究を行った。

 2.チオペンタール、エトミデート、プロポフォールはモルモットの心筋単離細胞から得られるL型カルシウムチャネル電流を容量依存性に抑制した。このことは、これらの薬剤の心筋収縮抑制作用のメカニズムの少なくとも一端を担っていると考えられた。どの薬剤も電流-電圧曲線に影響を与えなかった。臨床麻酔で使用される濃度では、カルシウム電流抑制作用はチオペンタールがもっとも強く、エトミデートがもっとも弱かった。この作用は脱分極刺激が存在しなくても認められた。これらの麻酔薬はチャネルの不活性化および再活性化を遅らせるが、この作用はカルシウム電流抑制の程度に依存した。これらの結果から細胞膜あるいはチャネル壁の中での、麻酔薬の脂溶性通過経路の存在が示唆された。

 3.これら3種の静脈麻酔薬及び揮発性麻酔薬エンフルランのL型カルシウムチャネル単イオン電流に対する影響を調べた。カルシウム単イオン電流は細胞密着式パッチクランプ法によって記録した(ピペット溶液にBaCl2 110mM及びBayK 8644 5Mを含む)。プロポフォール及びエンフルランは脱分極刺激で得られるL型カルシウムチャネル単イオン電流の開口確率を減少させ、チャネルのコンダクタンスには影響を与えなかった。開口確率の減少は、チャネルが開口状態から閉鎖状態へ向かう様にkineticsが変化するためと思われた。エトミデートもチャネルのコンダクタンスには影響を与えずに開口確率を減少させたが、これは主にチャネルのモード0の状態が増加するための結果と考えられた。この実験条件の下ではチオペンタールはカルシウムチャネルのkineticsに影響を与えなかった。

 4.チオペンタールはL型カルシウムチャネル電流を抑制するが、この作用はBayK 8644の有無や荷電イオンの種類、濃度に影響された。ピペット溶液にBaCl2 40mM及びBayK 8644 5Mを含む実験条件下で、チオペンタールはカルシウム単イオン電流の平均開口時間を短縮し、平均閉鎖時間を延長することによって開口確率を減少させた。チャネルのコンダクタンスは変化しなかった。これら結果は、チャネルの中でのチオペンタールと荷電イオンの相互作用を示唆するが、受容体を介する薬埋作用も否定はできないと考えられた。

審査要旨

 本研究の目的は、静脈麻酔薬に認められる負の変力作用の作用機序を細胞レベルで解明することである。そのためにパッチクランプ法によって導出された心筋細胞のL型カルシウムチャネル電流が用いられ、これに対する3種の静脈麻酔薬チオペンタール、エトミデート、プロポフォールの及ぼす影響が検討されており、次の結果を得ている。

 1.チオペンタール、エトミデート、プロポフォールはモルモットの心筋単離細胞から得られるL型カルシウムチャネル電流を容量依存性に抑制した。このことはこれら薬剤による、心筋収縮抑制メカニズムの少なくとも一端を担っていると考えられた。どの薬剤も電流-電圧曲線に影響を与えなかった。臨床麻酔で使用される濃度では、カルシウム電流抑制作用はチオペンタールがもっとも強く、エトミデートがもっとも弱かった。この作用は脱分極刺激が存在しなくても認められた。これらの麻酔薬はチャネルの不活性化及び再活性化を遅らせるが、この作用はカルシウム電流抑制の程度に依存した。これらの結果から、細胞膜あるいはチャネル壁の中での、麻酔薬の脂溶性通過経路の存在が示唆された。

 2.これら3種の静脈麻酔薬及び揮発性麻酔薬エンフルランの、L型カルシウムチャネル単イオン電流に対する影響を調べた。カルシウム単イオン電流は細胞密着式パッチクランプ法によって記録した(ピペット溶液にBaCl2 110mM及びBayK 8644 5Mを含む)。プロポフォール及びエンフルランは脱分極刺激で得られるL型カルシウムチャネル単イオン電流の開口確立を減少させ、チャネルのコンダクタンスには影響を与えなかった。開口確率の減少はチャネルが開口状態から閉鎖状態へ向かう様にkineticsが変化するためと思われた。エトミデートもチャネルのコンダクタンスには影響を与えずに開口確率を減少させたが、これは主にチャネルのモード0の状態が増加するための結果と考えられた。この実験条件下では、チオペンタールはカルシウムチャネルのkineticsに影響を与えなかった。

 3.チオペンタールはL型カルシウムチャネル電流を抑制するが、この作用はBayK 8644の有無や荷電イオンの種類、濃度に影響された。ピペット溶液にBaCl2 40mM及びBayK 8644 5Mを含む実験条件下では、チオペンタールはカルシウム単イオン電流の平均開口時間を短縮し、平均閉鎖時間を延長することによって、開口確率を減少させた。チャネルのコンダクタンスは変化しなかった。これらの結果は、チャネルの中でのチオペンタールと荷電イオンの相互作用を示唆するが、受容体を介する薬理作用も否定できないと考えられた。

UTokyo Repositoryリンク