本研究は表皮における抗原提示細胞として最も重要であるランゲルハンス細胞が神経に及ぼす影響と、逆に表皮神経がランゲルハンス細胞の機能を制御しているメカニズムを解明するため、ランゲルハンス細胞による神経栄養因子の産生及び神経ペプチド受容体の発現を解析し、さらにランゲルハンス細胞類似の細胞株であるXS52細胞及び腹腔マクロファージを用いて、神経ペプチドの一つであるcalcitonin gene-related peptide(CGRP)によるサイトカイン産生の制御を検討したものであり、下記の結果を得ている。 1.ランゲルハンス細胞及びXS52細胞の培養上清中にはPC12細胞を交感神経細胞様に分化誘導する神経栄養因子が含まれており、実際ランゲルハンス細胞及びXS52細胞はIL-6、神経成長因子及び塩基性線維芽細胞成長因子の遺伝子発現及び蛋白産生を行っていることが証明された。 2.上記の3種類の神経栄養因子の中でも特にIL-6は最も多量に産生されており、事実PC12細胞分化誘導因子として最も重要であることが生物学的活性の定量解析にて示された。 3.ランゲルハンス細胞及びXS52細胞はpituitary adenylate cyclase activating polypeptide(PACAP)受容体typeII及びtypeIIIさらにはgastrin releasing peptide受容体を発現していることがRT-PCRにて明かにされた。 4.CGRPはXS52細胞及び腹腔マクロファージにおけるIL-10の遺伝子発現及び蛋白産生を促進させ、逆にIL-1及びIL-12 p40については抑制することが証明された。 5.CGRPによるXS52細胞及び腹腔マクロファージにおけるB7-2発現の抑制や腫瘍関連抗原を用いた遅延型過敏反応の抑制は、いずれもIL-10に対する抗体をCGRPと同時に作用させることにより阻害された。 以上本論文はランゲルハンス細胞がIL-6をはじめとして、神経成長因子、塩基性線維芽細胞成長因子等の神経栄養因子を産生すると同時に、幾つかの神経ペプチド受容体を発現していることを明かにし、さらにCGRPによるランゲルハンス細胞の抗原提示抑制作用が、主にIL-10をその仲介として発現されていることを示唆した。本研究はランゲルハンス細胞と表皮神経との間に機能的な相互作用が存在することを強く示唆するものであり、皮膚における免疫系と神経系との機能的関連の解明に重要な貢献をなすものと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |