学位論文要旨



No 214123
著者(漢字) 芳賀,信彦
著者(英字)
著者(カナ) ハガ,ノブヒコ
標題(和) 多発性骨端異形成症のX線所見と身長との関係
標題(洋)
報告番号 214123
報告番号 乙14123
学位授与日 1999.01.27
学位種別 論文博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 第14123号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 波利井,清紀
 東京大学 教授 柳澤,正義
 東京大学 教授 高戸,毅
 東京大学 助教授 岩田,力
 東京大学 講師 岡崎,裕司
内容要旨

 多発性骨端異形成症(以下本症)は骨軟骨異形成症の一つで、成長期に管状骨の骨端部に異形成が多発するが、脊椎に明らかな異常がない疾患である。本症の病変はX線上は骨端部に限局し、骨端線すなわち成長軟骨には異常がないので、骨の長軸成長は妨げられないと考えられている。しかし本症には四肢短縮型の低身長を示す例があり、成長軟骨にも異常のある可能性がある。そこで、本症における低身長が長管骨の成長軟骨の異常により生じているか否かを知ることを目的として、以下の研究を行った。

 成長途上での1.5年以上の身長の経過、または骨成熟後の身長が得られる本症15名(男8名、女7名)を対象とした。本症の診断基準は、2組以上の左右対になる長管骨骨端部の異形成、正常または軽微な変化の脊椎、正常な知能・顔貌とした。

 研究の方法は以下のとおりである。

 (1)各症例の身長発育を日本人の標準成長曲線上にプロットし、その特徴を観察した。骨成熟後の身長は成人日本人の標準値と比較した。

 (2)膝関節正面X線像を用いて、長管骨の骨幹端部を観察した。

 (3)膝関節正面X線像を用いて、長管骨の骨端部を観察した。また骨端部の扁平化の程度を知るため、骨端部の高さと骨幹端の幅とを計測した。

 (4)左手正面X線像で示指指節骨、第2中手骨の長さを計測し、同性、同年齢の日本人の正常値と比較した。

 (5)これらの結果を用い、長管骨の骨幹端部および骨端部の異形成、指節骨および中手骨の長さと身長との間の関係を検討した。

 以下に結果を示す。

 (1)成長途上での身長の経過が判明している11名は、全体として平均より身長の低いグループを形成しており、どの年齢においても平均値+1SDを超えなかった。4歳以降の成長曲線は正常成長曲線と並行していた。(図1)。4歳以降の身長が平均値-1SDより大きいか否かで対象を正常身長群、低身長群の2群に分け四肢のX線所見を比較することとした。

図1 個々の症例の身長の変化○△□:正常身長群、●▲■:低身長群点線は正常日本人の平均値と±2SDの値を示す

 (2)大腿骨遠位および脛骨近位の骨幹端部を観察すると、骨幹端部の成長軟骨との境界線が鋸歯状で不整なもの、成長軟骨との境界線の傾斜の異常、骨幹端部の骨、端線側の骨硬化を示す症例があった。骨端線閉鎖以前の骨幹端部を観察できた10例のうち、大腿骨遠位では鋸歯状不整を5例、傾斜の異常を3例、骨硬化を5例に認めた。脛骨近位では鋸歯状不整を7例、傾斜の異常を4例、骨硬化を6例に認めた。

 (3)大腿骨遠位および脛骨近位の骨端部の関節側の輪郭を全症例で、骨端線側の輪郭を骨端線閉鎖以前のX線写真10例で観察した。大腿骨遠位では、骨端線側の鋸歯状不整を10例中7例、傾斜の異常を10例中2例、関節側の鋸歯状不整を15例中9例、傾斜の異常を15例中12例に認めた。脛骨近位では、骨端線側の鋸歯状不整を10例中6例、傾斜の異常を10例中6例、関節側の鋸歯状不整を15例中7例、傾斜の異常を15例中14例に認めた。大腿骨遠位および脛骨近位の骨端部の扁平化の程度は、ばらつきが大きかった。

 (4)末節骨は全例正常平均値より短かった。指節骨、中手骨の長さの日本人の正常値からの偏位は、近位の短管骨ほど分散が大きかった。

 (5)長管骨の骨幹端部の所見の中で、鋸歯状の不整、傾斜の異常は身長と関連せず、骨硬化の頻度は正常身長群で低く、低身長群で高かった(表1)。長管骨の骨端部の所見は身長と関連がなかった。中手骨の長さの平均値からの偏位は身長と相関した。各指節骨の大小関係も身長と関連した。

表1 大腿骨遠位および脛骨近位の骨幹端部の異形成と身長との関係

 以上の結果より、以下のことがわかった。

 (1)本症の患者を、4歳以降の身長が平均値-1SDより大きいか小さいかにより正常身長群と低身長群の2群に分けてみると、X線所見との間に以下の関係を認めた。

 (2)本症ではX線上、長管骨の骨幹端部と成長軟骨との境界に、鋸歯状不整、傾斜の異常、骨硬化を示すことがあり、骨硬化の頻度は正常身長群で低く、低身長群で高かった。すなわち本症における低身長は、長管骨の成長軟骨の異常により生じている可能性がある。

 (3)従来の骨端部の異形成と短指の有無による分類とは別に、本症を骨幹端部の骨硬化の有無、中手骨の長さ、指節骨の長さの正常平均値からの偏位の大小関係による分類してみると、これらは身長と相関する。

審査要旨

 本研究は多発性骨端異形成症の一症状である低身長に成長軟骨の異常が関与しているか否かを明らかにするため、膝関節および手のX線所見を観察し、身長との関係の分析を試みたものであり、下記の結果を得ている。

 1.大腿骨遠位および脛骨近位の骨幹端部を観察すると、骨幹端部の成長軟骨との境界線が鋸歯状で不整なもの、成長軟骨との境界線の傾斜の異常、骨幹端部の骨端線側の骨硬化を示す症例があった。このうち鋸歯状不整、傾斜の異常は身長と関連せず、骨硬化の頻度は身長が平均値-1SDより大きい群で低く、平均値-1SDより小さい群で高かった。すなわち本症における低身長は、長管骨の成長軟骨の異常により生じている可能性が考えられた。

 2.大腿骨遠位および脛骨近位の骨端部の輪郭には、鋸歯状不整、傾斜の異常を示す症例があった。これらの所見の有無は身長と関連がなかった。大腿骨遠位および脛骨近位の骨端部の扁平化の程度は、ばらつきが大きく、身長とも関連しなかった。

 3.手の指節骨、中手骨の長さを計測すると、末節骨は全例正常平均値より短かった。指節骨、中手骨の長さの日本人の正常値からの偏位は、近位の短管骨ほど分散が大きかった。中手骨の長さの平均値からの偏位は身長と相関し、身長の低い症例では中手骨が短かった。各指節骨の大小関係も身長と関連した。

 以上、本論文は膝関節および手のX線所見と身長との関係の分析から、多発性骨端異形成症を骨幹端部の骨硬化の有無、中手骨の長さ、指節骨の長さの正常平均値からの偏位の大小関係による分類してみると、これらは身長と相関することを明らかにした。これは多発性骨端異形成症の一症状である低身長に成長軟骨の異常が関与しているか可能性を示しており、従来骨端部に特異的な病変を示すと考えられていた本症の分類化と病態解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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