審査要旨 | | 本論文は,Prediction of Noise Emitted by Inverter-fed Induction Motor and PWM Strategies for Its Reduction(インバータ・誘導電動機システムの電磁騒音予測と低騒音PWM制御法)と題し,まえがき(謝辞,目次を含む),本文6章及び付録4章からなる。 まえがき及び第1章Introductionでは研究の背景として,モータの騒音問題を正弦波電源駆動でも発生するものと非正弦波駆動に伴うものとに分けて論じてこれまでの研究内容を紹介するとともに,この論文の目的を,非正弦波電源で駆動されるものについての時間高調波磁束による騒音をインバータの波形改善によって低減することに置き,そのための手法の流れを示している。 第2章はAcoustic Magnetic Noise Caused by Flux Time Harmonicsと題し,非正弦波駆動によって発生する電磁騒音の主な発生メカニズムを磁束の時間高調波によってモータ枠がモード2の振動を起こすことと捉え,電圧型のインバータに含まれる高調波電圧と音の原因となる高調波電流との関係はモータの動作状態には依存せず,モータに固有の高調波インピーダンスのみによって決まることを示している。 前章の結果を受けて電磁騒音の予測法を確立したのが第3章Prediction of Acoustic Magnetic Noiseで,実験的に比較的容易に測定可能なモータ電流から電磁音への応答の周波数特性としてのNHCC関数を定義し,これに基づく新たな電磁騒音の予測法を提案している。 第4章Reduction of Acoustic Magnetic Noise by Harmonic Current RMS Value Minimized PWM Method and Multi-Level Inverterでは,低電磁騒音化の一つとして,高調波電流を最小化するPWM制御法を磁束ベクトル軌跡に基づいて合理的に生成する方法を提案し、実験によってこの方法がGTOサイリスタのような低速スイッチング素子を用いたインバータドライブには有効で、従来の方法に比して2-9dBの電磁騒音低減効果が得られることを示している。また,騒音問題が論じられている鉄道車両への応用に際して,同期変調方式のインバータのモード切替方法を論じ,機械的な騒音の原因と考えられているトルクリプルを制限しながらモードの切り替えを行う方法を磁束ベクトル奇跡を用いる方法の応用として提案している。 更に2レベルインバータと3レベルインバータとを比較して,3レベルインバータではキャリア周波数に関わらず変調率のみで高調波実効値が決まることを示し,変調率が0.5以上の領域では3レベルインバータが,同一変調周波数・同一動作状態の下で10-15dB騒音レベルを低減できることを示した。 第5章は,Reduction of Acoustic Magnetic Noise by PWM Carrier Frequency Sinusoidally Modulated PWM Methodと題し,高速スイッチング素子を用いたインバータを対象に,変調周波数自体を正弦波的に変調することによって,モータ駆動電圧の周波数スペクトラムを拡散する方式について論じ,モータに固有の機械的特性などによって共振に近い現象に伴う騒音の増加を軽減する実用的方法になることを実験的に示している。この方法による効果は当然モータに固有の共振特性に依存するから,平均変調周波数によって異なり,実験例では3-8dBの効果が得られている。 本章でも鉄道車両への応用として,非同期PWM変調から直接1パルスモードへの合理的な切り替え法を提案し,低騒音化への期待が持てることを示している。 第6章には前章までに得られた結論を要約して示すとともに,今後の課題も示している。付録には,実験システム,式の導出,3レベルインバータのPWM波形生成法,著者の発表論文・特許リストが収録されている。 以上これを要するに,本論文はインバータで駆動される誘導電動機からの電磁騒音の発生機構からその軽減策に至る一連の手法を提案し,インバータ側でのPWM波形生成に関して理論的に優れた方法を,低速スイッチング素子を用いたインバータ,高速スイッチング素子を用いたインバータのそれぞれについて発案し,実験によってその効果を確認したものであって,電気工学上貢献するところが少なくない。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |