学位論文要旨



No 214135
著者(漢字) 霍,斌
著者(英字)
著者(カナ) カク,ビン
標題(和) インバータ・誘導電動機システムの電磁騒音予測と低騒音PWM制御法
標題(洋) Prediction of Noise Emitted by Inverter-fed Induction Motor and PWM Strategies for Its Reduction
報告番号 214135
報告番号 乙14135
学位授与日 1999.01.28
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第14135号
研究科 工学系研究科
専攻 電気工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 曽根,悟
 東京大学 教授 仁田,旦三
 東京大学 助教授 堀,洋一
 東京大学 助教授 横山,明彦
 東京大学 助教授 古関,隆章
内容要旨

 最近、高効率化、省エネルギー化等の目的から,三相誘導電動機をインバータなどの歪み電源で可変速度駆動する用途が増大している。しかし,インバータの出力波形に含まれる高調波成分によって生じる誘導電動機の電磁騒音が増大している。最近,環境改善などの見地から,インバータ駆動による電磁騒音の低減策に関しての研究が盛んに行われるようになってきている。本論文はこれらの電磁騒音の発生メカニズム、電磁騒音の予測及び電磁騒音を低減するインバータのPWM制御法に関する研究成果について述べる。

第1章序論

 この章では、まず、誘導電動機の電磁騒音問題をまとめた。その中に、電気の原因に起因する電磁騒音はエアギャップ磁束高調波の発生メカニズムによって正弦波電源駆動の電磁騒音問題と非正弦波電源駆動の電磁騒音問題に分類した。

(1)正弦波電源駆動の電磁騒音問題。

 誘導電動機の巻き線の分布、スロートなどにより磁束空間高調波を生成し、これにより発生する電磁騒音は正弦波電源駆動の電磁騒音問題である。通常、誘導電動機の最適設計により電磁騒音を最小に抑制する。

(2)非正弦波電源駆動の電磁騒音問題。

 インバータの出力高調波により磁束時間高調波を生成し、これにより発生する電磁騒音は非正弦波電源駆動の電磁騒音問題である。

 更に、正弦波電源駆動の電磁騒音問題の解決策を述べた上で、非正弦波電源駆動の電磁騒音問題は本研究の対象として、低電磁騒音化のためにインバータPWM制御に工夫すべきだことを明らかにした。

第2章磁束時間高調波による電磁騒音

 この章では、インバータで誘導電動機を駆動する場合に、エアギャップ磁束時間高調波による電磁騒音の発生メカニズムについて検討した。

 (1)インバータで誘導電動機を駆動する場合に、同期PWM変調法と非同期PWM変調法において誘導電動機入力の高調波周波数分布を理論解析と実験によって明らかにした。

 (2)インバータで誘導電動機を駆動する場合に、固定子の半径方向の電磁力が入力高調波との関係を明らかにした。

 (a)磁束時間高調波により、固定子の半径方向にモードn=2の新たな電磁力波が存在する。誘導電動機の枠はモードn=2の加振力に対する剛性が最も低く、即ち、枠が変形しやすいので、より大きな電磁騒音も発生しやすくなる。

 (b)電磁騒音は誘導電動機のエアギャップ磁束の基本波成分と高調波成分との相互作用によるもである。

 (3)インバータで誘導電動機を駆動する場合に、磁束時間高調波により発生する電磁騒音の周波数fNは誘導電動機の入力の基本波周波数f1と高調波の周波数fjに依存し、fn=fj±f1であることを実験によって確認した。

第3章電磁騒音の予測法

 この章では、インバータで誘導電動機を駆動する場合に発生する電磁騒音の予測法を検討した。

 (1)従来の電磁騒音の予測法の問題点を明らかにした。

 (2)誘導電動機の入力に単一周波数の高調波成分しか存在しない場合に、単一周波数の高調波電流の振幅の変化量とこれによる電磁騒音の変化量との関係を明らかにした。

 (3)誘導電動機の電磁騒音-高調波電流特性関数、NHCC関数を定義した。誘導電動機のNHCC関数は単一周波数の高調波電流に対する誘導電動機の電磁騒音応答関数である。これに基づき新たな電磁騒音の予測法を提案した。

 (4)誘導電動機のNHCC関数を決定するとき、電流参考値I0jの選択の任意性を明らかにした。

 (5)提案する電磁騒音の予測法は誘導電動機の各運転状態に適用できることを明らかにした。

第4章高調波電流を最小にするPWM変調法による低電磁騒音化

 この章では、低速スイッチング素子により構成するインバータを対象として、高調波電流を低減する低電磁騒音化PWM法を検討した。

 (1)従来の低高調波電流PWM方法の問題点を明らかにした。

 (2)理想状態の磁束ベクトル軌跡と実際の磁束ベクトル軌跡との偏差面積が高調波電流実効値との関係を明らかにした。

 (3)磁束ベクトルPWM方法に基づいて、理想状態の磁束ベクトル軌跡と実際の磁束ベクトル軌との偏差面積を最小にする新たな低高調波電流PWM法を提案した。

 (4)磁束ベクトルPWM法に基づいて、理想状態の磁束ベクトル軌跡と実際の磁束ベクトル軌跡の偏差面積を計算することにより高調波成分の低減量を計算する新たな高調波評価法を提案した。

 (5)実験によって、提案したPWM法による2〜9dBの低電磁騒音効果を確認した。

 (6)電気鉄道応用の場合に、すべてのパルスモードに対応するトルクリプルは1パルスモードに対応するトルクリプルより小さくするパルスモード切換法を提案した。この方法を利用し、電車始動のとき、パルスモードの切換により発生する騒音を低減できると期待する。

第5章キャリア周波数変調PWM法による低電磁騒音化

 この章では、高速スイッチング素子により構成するインバータを対象として、キャリア周波数を正弦波関数で変調する低電磁騒音化PWM法を検討した。

 (1)従来のキャリア周波数変調PWM方法の問題点を明らかにした。

 (2)高調波成分の分散を評価量として、これを用いて高調波の拡散効果を表す係数HSFを定義し、評価係数HSFの最小化に基づき新たなキャリア周波波正弦波変調PWM法を提案した。

 (3)実験によって、提案するPWM法による3〜8dBの低電磁騒音効果を確認した。

 (4)電気鉄道応用の場合に、非同期PWM変調から1パルスモードへの直接1パルスモード切換法を提案した。この方法を利用し、電車始動のとき、パルスモードの切換により発生する騒音をなくすことができると期待する。

第6章まとめ

 この章では、得られた研究成果をまとめると共に、今後の課題について述べた。

審査要旨

 本論文は,Prediction of Noise Emitted by Inverter-fed Induction Motor and PWM Strategies for Its Reduction(インバータ・誘導電動機システムの電磁騒音予測と低騒音PWM制御法)と題し,まえがき(謝辞,目次を含む),本文6章及び付録4章からなる。

 まえがき及び第1章Introductionでは研究の背景として,モータの騒音問題を正弦波電源駆動でも発生するものと非正弦波駆動に伴うものとに分けて論じてこれまでの研究内容を紹介するとともに,この論文の目的を,非正弦波電源で駆動されるものについての時間高調波磁束による騒音をインバータの波形改善によって低減することに置き,そのための手法の流れを示している。

 第2章はAcoustic Magnetic Noise Caused by Flux Time Harmonicsと題し,非正弦波駆動によって発生する電磁騒音の主な発生メカニズムを磁束の時間高調波によってモータ枠がモード2の振動を起こすことと捉え,電圧型のインバータに含まれる高調波電圧と音の原因となる高調波電流との関係はモータの動作状態には依存せず,モータに固有の高調波インピーダンスのみによって決まることを示している。

 前章の結果を受けて電磁騒音の予測法を確立したのが第3章Prediction of Acoustic Magnetic Noiseで,実験的に比較的容易に測定可能なモータ電流から電磁音への応答の周波数特性としてのNHCC関数を定義し,これに基づく新たな電磁騒音の予測法を提案している。

 第4章Reduction of Acoustic Magnetic Noise by Harmonic Current RMS Value Minimized PWM Method and Multi-Level Inverterでは,低電磁騒音化の一つとして,高調波電流を最小化するPWM制御法を磁束ベクトル軌跡に基づいて合理的に生成する方法を提案し、実験によってこの方法がGTOサイリスタのような低速スイッチング素子を用いたインバータドライブには有効で、従来の方法に比して2-9dBの電磁騒音低減効果が得られることを示している。また,騒音問題が論じられている鉄道車両への応用に際して,同期変調方式のインバータのモード切替方法を論じ,機械的な騒音の原因と考えられているトルクリプルを制限しながらモードの切り替えを行う方法を磁束ベクトル奇跡を用いる方法の応用として提案している。

 更に2レベルインバータと3レベルインバータとを比較して,3レベルインバータではキャリア周波数に関わらず変調率のみで高調波実効値が決まることを示し,変調率が0.5以上の領域では3レベルインバータが,同一変調周波数・同一動作状態の下で10-15dB騒音レベルを低減できることを示した。

 第5章は,Reduction of Acoustic Magnetic Noise by PWM Carrier Frequency Sinusoidally Modulated PWM Methodと題し,高速スイッチング素子を用いたインバータを対象に,変調周波数自体を正弦波的に変調することによって,モータ駆動電圧の周波数スペクトラムを拡散する方式について論じ,モータに固有の機械的特性などによって共振に近い現象に伴う騒音の増加を軽減する実用的方法になることを実験的に示している。この方法による効果は当然モータに固有の共振特性に依存するから,平均変調周波数によって異なり,実験例では3-8dBの効果が得られている。

 本章でも鉄道車両への応用として,非同期PWM変調から直接1パルスモードへの合理的な切り替え法を提案し,低騒音化への期待が持てることを示している。

 第6章には前章までに得られた結論を要約して示すとともに,今後の課題も示している。付録には,実験システム,式の導出,3レベルインバータのPWM波形生成法,著者の発表論文・特許リストが収録されている。

 以上これを要するに,本論文はインバータで駆動される誘導電動機からの電磁騒音の発生機構からその軽減策に至る一連の手法を提案し,インバータ側でのPWM波形生成に関して理論的に優れた方法を,低速スイッチング素子を用いたインバータ,高速スイッチング素子を用いたインバータのそれぞれについて発案し,実験によってその効果を確認したものであって,電気工学上貢献するところが少なくない。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク