【目的】 核磁気共鳴血管造影(Nuclear Magnetic Resonance Angiography;以下MRA)には種々の撮像法があるが、どの血管にも適用できる一定の方法はなく、種々のシークエンスがそれぞれの条件で用いられている。臨床上血管造影像には、高分解能と立体的位置関係の把握が要求されている。三次元タイムオブフライト法を用いた核磁気共鳴血管造影(3D-Time-of-Flight Magnetic Resonance Angiography;以下3D-TOF-MRA)は空間分解能が高く、アーチファクトの影響が少ないという特徴がある。3D-TOF-MRAの問題点は飽和効果による信号低下である。飽和効果をさけるため細胞外液性のガドリニウムキレート製剤(gadolinium chelates;以下Gd)を用いた造影MRAが臨床上施行され、その有用性が認められてきている。
本研究で用いた造影剤は、MRI造影剤である超常磁性酸化鉄粒子(Superparamagnetic iron oxide、以下SPIO)のうちの径の小さいもの(Ultrasmall superparamagnetic iron oxide、以下USPIO)の一つであるAMI-227である。AMI-227は高い造影効果と長い血中半減期のためMRA用造影剤として期待されている。
USPIOを用いた流体ファントム実験は本研究がはじめてである。臨床上使われる造影剤は半減期が短く、生体内でMRA撮像法の比較の研究は施行できない。MRAの信号に影響を及ぼす因子には、呼吸性移動・心拍動などが考えられるため生体内での検討は必要である。最終的には、本研究ではフローコントラストによる信号が主である非造影MRAとは異なる、高い緩和率効果をもつ造影剤を利用したフローコントラストを用いない条件下での造影MRA撮像を目指した。
【考察】 AMI-227を用いることにより、流量依存性のない造影剤濃度で高画質のMRA画像がえられた。流量依存性がないMRA画像は,従来法のようなスライス方向での制約がなく,臨床目的に合わせて任意に撮像できる点、フローに無関係に均一な画像が得られる点で血管造影像として適した画像が得られることが判明した。USPIOであるAMI-227はGdより緩和率効果が高い点で、この目的に合致するものと考えられた。
3D-TOF-MRA法では、フローの信号強度は、静止時の信号強度と、フローコントラストの和である。静止時の信号強度に対する、造影剤とシークエンスパラメータの影響は、3D-TOF-MRA法で用いられるグラジエントエコー法の信号強度の性質を反映する。その信号強度とシークエンスパラメータの関係は、最適FA(エルンスト角)では信号強度は最大であるが、それ以外の角度では信号強度は低下する。AMI-227の信号強度増強効果は、Gd同様、造影剤高濃度では高FA、低濃度では低FAよりに信号強度のピークがみられ、造影効果の理論に合致した。
造影剤とシークエンスパラメーターの影響は、理論上、フリップ角増大・高い造影剤濃度はフローコントラストを低下をもたらすといわれている。本研究の流体ファントム実験においても同様の効果が見られ、USPIOの一種であるAMI-227もフローコントラストに関する影響は、Gdと同様に考えて良いということが判明した。
生体内で、冠状断と体軸断の主要血管のSIRがほぼ同程度であることが判明した。冠状断はフローコントラストが殆どえられない撮像法であり、体軸断はフローコントラストが得られやすい撮像法である。緩和率効果の高い造影剤を用い、高FAを用いた場合はフローコントラストはほとんどえられず、冠状断と体軸断像での血管のSIRに差がほとんどみらず、かつ血液由来の信号が高いため良好な血管造影像がえられた。冠状断で良好なMRA像が得られることは臨床上非常に有用である。従来の体幹や下肢の非造影MRAでは体軸断像からの再構成像であるので空間分解能が悪いうえに、撮像範囲が制限されており臨床上かなり制約となっていた。血流の速度や撮像体積での位置の影響が少ない画像は、血管径を反映した画像であり、血管造影像に求められる情報である。
本来SPIOやUSPIOはT2*効果の高い陰性造影剤である。USPIOはT1時間短縮効果が高いため本研究で用いたように陽性造影剤としての効果を合せ持つ。本動物実験で施行された範囲内では、陰性効果による画像の劣化はみられなかった。静止ファントム実験の1.2
molFe/mlの濃度・流体ファントム実験の1.17
molFe/ml・動物実験の50
molFe/kg投与で陰性効果がみられた。機種の性能改善により、さらに短いTEが可能となり、T2*による陰性効果の影響を最小限にとどめることが可能であろう。
AMI-227は造影剤は本来リンパ節用の陰性造影剤として開発されており、すでに米国では臨床治験第2相が終了しており安全性がほぼ確立されている薬剤である。AMI-227を用いることにより部位やスライス面に無関係に均一な血管造影像を得ることが可能であることが判明した。AMI-227は生体内血中半減期が長いため、実際にFAと信号強度との関係を比較可能あった。体軸断と冠状断の信号強度に大きな差がなかった。近い将来臨床上この製剤が使われると思われる。その際、この特徴を生かし各症例・部位に応じた3D-TOF-MRA検査法を含めたプロトコール作成にこの実験結果が有用であると思われる。