学位論文要旨



No 214191
著者(漢字) 菊池,昭彦
著者(英字)
著者(カナ) キクチ,アキヒコ
標題(和) 高周波細径プローブを用いた子宮内超音波法の臨床的有用性に関する検討
標題(洋)
報告番号 214191
報告番号 乙14191
学位授与日 1999.02.24
学位種別 論文博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 第14191号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 川名,尚
 東京大学 教授 橋都,浩平
 東京大学 教授 大友,邦
 東京大学 助教授 馬場,一憲
 東京大学 講師 吉栖,正生
内容要旨

 近年婦人科疾患の画像診断学は著しい進歩を遂げてきたが、特に経膣超音波法は子宮・卵巣を至近距離から観察するため超音波の減衰による画像の劣化をきたしにくく、5-7.5MHzといった比較的高い周波数の超音波により高解像度の画像が得られ、現在では婦人科領域で最も汎用されている画像診断法となった。このような体腔内超音波の特徴をさらに推し進めたものが子宮内超音波法であり、子宮内腔に挿入可能な高周波細径プローブを用いた本法が実用化されれば、従来の方法では満足すべき結果が得られていない子宮悪性腫瘍病変の局所進展度の術前診断においても利用できる可能性がある。今回、血管内超音波用に開発された高周波細径プローブ(2mm,15-20MHz)を用いて、子宮体癌及び子宮頚癌における子宮内超音波法の有用性につき検討を行った。

1)子宮体癌(1)体部筋層浸潤度診断

 子宮体癌の予後と治療方針は主に組織学的分化度、体部筋層浸潤度、リンパ節転移の有無、の3つの因子によって決まる。そのうち、筋層浸潤の深さは骨盤内及び傍大動脈リンパ節転移の頻度と相関があり、最も重要な因子の1つとされている。従来経膣超音波、CT、MRIなどを用いて浸潤度の評価がなされているが、病変部の像及びその境界は鮮明ではなく、体癌の筋層浸潤の深さをより正確に診断し得る画像診断法が望まれている。

 子宮体癌の診断で子宮摘出術を施行予定の15例(38〜76歳)に対して、入院後にinformed consentを得たのち子宮内超音波法を施行し、癌病巣の体部筋層浸潤度につき子宮内超音波所見と摘出子宮の病理組織学的所見とを比較した。超音波診断装置はアロカ社製SSD-550で、方形振動子を先端に有する直径約2mmのプローブ(MP-PN15-08MまたはMP-PN20-08M)を用いた。超音波周波数は15または20MHzで、走査方式はメカニカルラジアルスキャンである。子宮内超音波法を施行し得た13例中11例(85%)では病変部が明瞭に描出され、特に微小浸潤病巣の検出にすぐれていた。一方、筋層浸潤が子宮底部に限局していた2例では、本法により病変部を描出することができなかった。筋層浸潤なし、1/2以下、1/2をこえる、に分けると、術前子宮内超音波法による診断と摘出子宮の病理組織学的所見との一致率は10/11(91%)であった(表1)。なお、本法施行に伴う合併症は認められなかった。

表1 子宮体癌症例における子宮内超音波と病理組織診による体部筋層浸潤度診断の比較
(2)頚部浸潤度診断

 腫瘍の分化度、組織型、筋層浸潤度に加え、頚部浸潤度も体癌の予後に影響する重要な因子である。FIGOの術後進行期分類ではこれをIIa:頚管腺のみの進展、IIb:頚管間質浸潤、と細分類しているが、fractional curettage、子宮鏡、経膣超音波、CT、MRIといった従来の方法ではIIa期とIIb期を鑑別することは困難である。そこで頚部浸潤度診断における子宮内超音波の有用性について検討した。

 本研究に先立ち、頚部病変を認めないvolunteerの32例の婦人(20〜51歳)に対して、informed consentを得たのち経膣超音波法と子宮内超音波法を行い、正常頚部が両走査法にて各々どのように描出されるかを検討し、それに基づき超音波画像による体癌の頚部浸潤度の診断基準を作成した。経膣超音波では32例全例に、頚管腺領域と考えられている舟状の低輝度領域が頚管の周囲に認められた。子宮内超音波ではこの頚管腺領域は周囲の頚部間質領域に比べ19例(59%)で低輝度に、13例(41%)で高輝度に描出されたが、いずれの場合も頚管腺領域のtextureは細かく、間質領域のそれは粗く表示されたため、両領域の鑑別は容易であった。以上の観察をもとに、超音波画像による体癌の頚部浸潤度の診断基準を以下のように作成した。すなわち、体部の腫瘍エコー像に連続して不整なエコー輝度を持つ腫瘍像が頚部に存在する場合、頚部浸潤(+)と診断する。その場合、腫瘍が頚部間質に認められれば頚部間質浸潤(+)、頚管内か頚管腺領域にとどまっていれば頚管腺のみの進展と診断した。

 体癌32例(46〜75歳)に対し、術前にinformed consentを得たのち経膣超音波法(5-7.5MHz:モチダ社製ソノビスタ-CS,または-if)と子宮内超音波法を施行し、両走査法により診断した頚部浸潤度と摘出子宮の病理組織学的診断とを比較した。子宮内超音波法が可能であった32例中30例につき検討を行った。経膣超音波では23例(77%)で正診され2例(7%)で過小診断、5例(17%)で過大診断されたが、子宮内超音波では26例(87%)で正診、1例(3%)で過小診断、3例(10%)で過大診断された(表2)。病理組織診にて頚管腺のみの進展であった3例はすべて子宮内超音波で正診されたのに対し、経膣超音波では誤診された。

表2 超音波による子宮体癌頚部浸潤度診断と病理組織所見との比較

 子宮内超音波法と経膣超音波法の、頚部間質浸潤の有無についての診断成績を表3に示す。子宮内超音波のspecificityとpositive predictive valueはいずれも100%で、経膣法のそれより高かった。

表3 子宮内超音波と経膣超音波の各々による、子宮体癌頚部間質浸潤の有無の診断
2)子宮頚癌の浸潤度診断

 クスコ診にて直視可能な子宮膣部に存在する子宮頚癌の局所進展度診断はコルポスコピーとpunch biopsyによって行われているが、頚管内の病変は直視できず組織診も困難な場合があり、術前の正確な診断に苦慮することが多い。また経膣超音波法、CT、MRIといった従来の画像診断法では、微小浸潤病巣の描出は困難である。比較的早期の頚癌においては、頚部浸潤の深さにより至適術式が異なるために、微小浸潤病巣を描出し得る画像診断法の開発は臨床的に重要である。

 子宮頚癌48例(23〜68歳)を対象としてinformed consentを得た後、術前経膣超音波法と頚管内超音波法を施行し、両走査法による病変部の浸潤度診断と術中所見または切除標本の病理組織学的所見とを比較した。有意差検定はMcNemar testにて行い、p<0.05を統計学的有意差とした。上皮内癌病巣は両走査法のいずれによっても描出されなかった。頚管内超音波法により、深さ5mm以下の微小浸潤病巣を持つ16例(表4)中8例(50%)で病変部が描出可能であったが、経膣法ではいずれの症例においても病変部を描出することはできなかった(P=0.013)。基靭帯浸潤がなく5mmより深い浸潤癌11例全例で頚管内超音波法により病変部が描出されたが、経膣法で描出可能であったのは6例(55%)のみであった(P=0.074)。基靭帯浸潤癌では8例全例で両走査法により腫瘍が描出された。

表4 深さ5mm以下の微小浸潤病巣を持つ子宮頚癌症例
結論

 子宮内超音波法による子宮体癌及び子宮頚癌浸潤度診断の有用性について検討し、本法は癌病巣の描出に優れており、特に微小浸潤病巣の検出(子宮体癌微小筋層浸潤の検出、子宮体癌頚管腺浸潤と頚部間質浸潤との鑑別、子宮頚癌微小浸潤の検出)において極めて有用であることを明らかとした。

 本研究により子宮内超音波法は子宮内腔の組織のcharacterizationに関し詳細な情報を提供することが示され、婦人科画像診断学の新たなbreakthroughとなりうることが示唆された。

審査要旨

 本研究では血管内超音波用に開発された高周波細径プローブ(2mm,15-20MHz)を用いて、子宮体癌及び子宮頚癌における子宮内超音波法の有用性につき検討を行っており、下記の結果を得ている。

 1.本法は子宮体癌の体部筋層浸潤度診断に有用であり、特に軽度浸潤病巣の描出にすぐれていた。

 2.子宮体癌の頚部浸潤度診断に有用であり、特に頚管腺領域への進展病巣の描出と、頚部間質への浸潤の有無の診断において、経膣超音波よりすぐれている傾向にあった。

 3.子宮頚癌の浸潤度診断に有用であり、5mm以下の微小浸潤病巣の検出において経膣超音波と比較し有意差が認められた。

 以上本研究により、子宮内超音波法は子宮内腔の組織のcharacterizationに関し経膣法よりも詳細な情報を提供することが示され、婦人科画像診断学の新たなbreakthroughとなりうることが示唆された。したがって、本論文は学位の授与に値するものと考えられる。

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