対象と方法 (1)cDNAのスクリーニングと単離;永渕らの単離したマウス
-カテニンクローンをプローブとして5x105クローンのヒト胎児の脳cDNA libraryのスクリーニングを行った。
(2)DNAの調製とシークエンス;得られたファージクローンはin vivo excision法にてプラスミドに転換し、超遠心法にてDNAを回収した。シークエンスはdideoxy termination法にて行った。
(3)Rapid amplification of cDNA end(RACE); 5’側のcDNAの塩基配列を決定するために大脳、小脳、肺、肝臓から得られたtotal RNAを鋳型にしてRACEライブラリーを作成し、それぞれから4クローンづつ回収してシークエンスを行った。
(4)genomic cloneの単離とエクソン・イントロン境界の決定;ヒト末梢血リンパ球より抽出したgenomic DNAより1.2x106クローンのcosmid libraryを作成し、ヒト
-カテニンのcDNAクローンをプローブとしてスクリーニングを行った。コスミドクローンで得られなかった部分は、7ハプロタイプ相当のYAC libraryをスクリーニングしてクローンを得た。エクソン・イントロン境界はこれらのDNAをシークエンスしてcDNAの塩基配列と比較することにより決定した。
(5)Fluorescent in situ hybridization(FISH);ヒト染色体標本を作成しヒト
-カテニンはFITCで、また染色体5q21-22にマップされた遺伝子APCはrhodamineで検出するtwo-color FISH法を行った。
(6)RT-PCR;ヒトの大脳、小脳、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸、肝臓、腎臓、膵臓、脾臓、副腎、甲状腺、子宮、卵巣、心臓、骨格筋よりRNAを抽出し、dT17プライマーを用いてcDNAを合成し、ヒト
-カテニンと
-アクチン特異的なプライマーでPCRを行い発現量を比較した。
結果および考察 (1)cDNAクローンの単離とヒト
-カテニン遺伝子の塩基配列の決定。
ヒト胎児の脳のcDNA libraryより得られた6つのクローンをシークエンスし塩基配列を決めたところ、これらは同一の遺伝子の一部で相同性の検索よりヒト
-カテニンであることが確かめられた。さらに5’側のcDNAの配列を決定するために5’RACE法を行い、cDNAの全塩基配列を決定した。それは3433塩基の転写産物で、open reading frameを調べたところ、第92-94番塩基のATGがKozakの報告で頻度の高い開始コドンで、906アミノ酸をコードすることが予想された。
(2)他の生物の
-カテニンとの相同性の検討
ヒト
-カテニン遺伝子のマウス
-カテニンに対する相同性は塩基配列で87.6%の一致であり、アミノ酸でも99.2%と極めて高いことが判明した。また他の種の
-カテニンとの相同性はアミノ酸でアフリカツメガエルと89%、ショウジョウバエと59%、ウニと62%であり、種をこえて保存されていた。また相同性を示す領域はN末端からC末端まで全ての領域に広がっており、いずれの領域も重要であることが推察された。
(3)ヒト・ビンキュリンとの相同性の検討
ヒト
-カテニンとヒト・ビンキュリンと相同性を調べたところ、アミノ酸で26%の一致を認め、コドン20から220,330から590,700から860までの3ヵ所で高く、それぞれ27%、31%、34%で、これらの領域は重要な機能を有していると推測された。ビンキュリンの第1番目の領域はタリンと結合し、
-カテニンのこの領域が
-カテニンと結合すること、ビンキュリンも
-カテニンも第3番目の領域が細胞骨格に結合する
-アクチニンやF-アクチンに結合することから、共に似た働きをしていることが示唆された。
(4)genomic DNAの単離とエクソン・イントロン境界の決定
genomic libraryより12個のコスミドクローンと1個のYACクローンを得た。これらのシークエンス結果よりヒト
-カテニン遺伝子は16コーディングエクソンから成ることが明かとなった。
(5)chromosomal localizationの検索
APC遺伝子を指標としたtwo-color FISHにより、ヒト
-カテニンは染色体上の5q31に位置することが明らかとなった。この場所は卵巣癌、肝癌、食道癌、子宮癌、腎癌、胃癌、肺癌、頭頚部癌でも高頻度にLOHの存在する場所であり、
-カテニンがこれらの癌の進展にかかわっている可能性が示唆された。
(6)臓器でのヒト
-カテニンの発現
RT-PCRによりヒト
-カテニンは調べたすべての臓器で発現し、コントロールの
-アクチンの発現と比べてほぼ一様であった。このことから
-カテニンが臓器特異的でなく、すべての臓器で普遍的な働きを行っていることが示唆された。