本研究はInterventional MRIの手法を用いて血管奇形の硬化療法を行うことが技術的に可能であることを示し、さらにInterventional MRIによる硬化療法が従来のX線透視下の硬化療法と比べて有用であることを示すための検討を行ったものである。Interventional MRIの穿刺針と注入薬剤の画像表示能力および病変の体積測定の方法の精度に関してファントムを用いて基礎的検討を行い、引き続き臨床例でこれらの画像表示能力と病変体積測定による治療効果の評価に関して検討しており、下記の結果を得ている。 1.低磁場MRI装置でファントムを用いた穿刺針の撮像実験で、MRI透視用のグラディエントエコー法では開発中の低磁場MRI用穿刺針と市販のMRI対応型穿刺針の比較で低磁場MRI用穿刺針の方がコントラスト良好であることが示された。この低磁場MRI用穿刺針はSUS-305を素材とするステンレス針であり、低磁場MRI装置でのMRI透視下穿刺のための穿刺針として有望であることが示唆された。 2.ファントムを用いた造影剤Gd-DTPAのコントラストの撮像実験では、スピンエコー法T1強調画像で造影剤のT1短縮効果による信号増強の変化のコントラストと比べて、高速スピンエコー法T2強調画像で造影剤のT2短縮効果による信号減弱の変化のコントラストの方が良好であり、さらに良好なコントラストが得られる造影剤濃度の範囲が広いことが示された。造影剤の短時間内の濃度変化がある場合にはT2短縮効果によるコントラストを利用した方が安定した視認性が得られることが示された。 3.ethanolamine oleate(EO)は1%濃度まで血管内皮障害作用を示すことが知られているが、ボランティア静脈血を用いた撮像実験では高速スピンエコー法T2強調画像で8%Gd-DTPA-5%EO溶液が4倍希釈(1.25%EO)までは無信号で8倍希釈(0.63%EO)から信号が出現することが示された。EOが血管内皮障害作用を示す有効濃度の臨界点の前後で信号強度の明瞭な変化が出現する硬化剤と造影剤の混合溶液および撮像法の組み合わせを用いれば、病変内に注入した混合溶液の信号変化によってEOの濃度をMRIで非侵襲的にモニターすることが可能であることが示された。 4.病変のファントムを用いた実験で、撮像条件による測定体積の違いを検討したところ、信号強度補正を行った高速スピンエコー法5mm厚スライスによる撮像が誤差の大きさの平均が7.6%で最も誤差が小さかった。臨床で一般に使用されるスライス厚5mmで撮像しても信号強度による補正を行えば、必要十分な測定精度が得られることが示された。 5.患者に対する臨床応用で、低磁場MRI用の穿刺針を使用した場合にはMRI透視下に十分な針の描出が得られたが、市販のMRI対応型穿刺針では十分な描出が得られなかった。また造影剤のコントラストに関しては、MRI透視下ではGd-DTPAのT1短縮によるT1強調画像での高信号のコントラストとT2*短縮によるT2強調画像での低信号のコントラストのどちらでも利用可能な程度のコントラストが得られ、血管奇形の同一部位に対して試験注入と硬化剤注入という連続2回の薬剤注入をした場合でもどちらも良好なコントラストが得られた。試験注入をしてから実際の硬化剤注入を行う安全な硬化療法の方法が示された。 6.硬化療法前後のT2強調画像で高信号を示す病変の血管腔の体積の評価では、1回の硬化療法による体積減少量は-6.3〜+88mlで平均+11mlであり、元の体積に対する縮小率は-17.2%〜+100%で平均38%であった。体積測定による評価は外見所見による評価と比較的良く一致しており、病変全体の体積変化に対して鋭敏であった。画像データを元に体積測定にかかる時間は1症例あたり5分程度で可能であり、臨床の場でも十分利用可能な方法として示された。 以上、本論文はInterventional MRIの方法が血流の遅い血管奇形の硬化療法を行う上では十分な機能があり、さらに従来のX線透視を中心とする方法よりも安全に行うことが可能であることを示した。また硬化療法の治療効果の判断においてはMRIによる病変の体積測定をあわせて利用することが、外見や一般的な画像所見だけから判断するよりもさらに精度の高い評価方法となる可能性を示した。本研究は、血管奇形の硬化療法に対してInterventional MRIを応用することが、X線透視を中心とする従来のIVRよりも有望な治療方法であることを明らかにし、Interventional MRIという新しい治療法の可能性を示すとともに血管奇形の治療の安全性や有効性に関して重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |