乗用田植機の利点を生かし、高能率な田植作業を行うことを目的として、高速田植機を開発した。予備試験の結果から、クランク式植付機構の振動が植付速度を制限する要因となっていると判断されたので、回転式の新植付機構を開発し、植付部の低振動化を図ることを主体として研究を行った。 開発した回転式植付機構は、太陽歯車と遊星歯車の間に中間歯車をもった遊星歯車機構を基本として、さらに不等速歯車(偏心歯車)の使用により、遊星歯車に取り付けられた植付爪の先端に適切な植付軌跡を描かせるようにしたものである。 回転式植付機構によりマット苗の植付けを行うためには、植付爪は早戻り揺動をしつつ駆動軸の周りを公転する必要がある。そこで、早戻り揺動運動と公転運動を同時に実現するため、楕円歯車と偏心歯車の挙動を解析した。その結果両者の本質的な違いは車心間距離の変動にあり、これを無視できるならば等価であることを明らかにした。さらに楕円(偏心)遊星歯車機構の挙動を明らかにし、植付機構として使用する可能性を見い出した。 そこでコンピュータシミュレーションにより機構の諸元を決定し、試作機の植付爪軌跡を実測して妥当性を確認した。また車心間距離の変動による植付爪のガタの存在を示し、対策を施した。 この植付機構は回転運動を基調とし、対称に配置された2個の植付爪が交互に植付けを行うため、バランスの良い構造となり、駆動軸の回転数もクランク式の半分になった。この結果振動が低減し、高速での植付作業に適していることが室内試験で確認された。 回転式植付機構 植付部にこの植付機構を用い、走行部を従来の1.5倍に増速した高速田植機を試作した。農機研附属農場において、作業能率、作業精度、適応性などを確認した結果、試作高速田植機は、従来の乗用田植機に比べて、作業精度の低下なしに約30%の作業能率の向上がみられた。また、圃場および苗に対する適応性も、従来機に比べて劣るところがなく、現地圃場での試験においても実用性が確認された。 本研究の成果を民間企業へ技術移転した結果、昭和61年には製品の第1号機が市販されるに至った。また昭和63年に実施されたアンケート調査によると、使用者の半数以上が3割以上の能率向上を認めている。 現在では回転式植付機構は一般的な技術として、各メーカーの乗用田植機に採用されるところとなり、この機構を用いた高速田植機が乗用田植機総出荷台数の85%以上を占め、全国の水田で使用されている。 本研究の結果、わが国の乗用田植機の最高作業速度は研究開始前の約1.5倍になった。 次に一組で千鳥植えを行う植付機構を開発した。この植付機構は、高速田植機の回転式植付機構を基本として、2つの植付爪が揺動する軸を、公転する軸とそれぞれ非平行に配置することによって、独自に立体的な軌跡を描くようにし、共通の回転ケースに取付けて構成した。その結果掻取り口を共通にし、左右交互に振り分けて植付けることにより千鳥植えを行うものである。 回転ケース内には非円形歯車の組合せと、円錐歯車の組合せを装備して、非平行な植付軸への伝動を行った。設計に必要なパラメータを明らかにするとともに、植付爪の挙動を時々刻々表示するシミュレータをワークステーション上に作成し、これを用いて植付機構の設計を行った。 シミュレーションの結果、植付爪軸の角度の正負によって性格が大別されることが判ったので2種類の性格の違う立体軌跡植付機構を設計・試作した。圃場で実験したところ、千鳥植えの可能性が見いだされた。そこで立体軌跡植付機構による千鳥植えの可能性を実証するため、AB2種類の千鳥植え田植機を試作した。 試作A型機は植付機構を45cm間隔に配置して、作業幅の拡大を目的としたもので、4組の植付機構で通常の6条植えの作業幅を得ることができる。千鳥植えのの振れ幅は15cmを目標にした。植付試験の結果、植付姿勢修正装置の働きで苗の姿勢を修正することにより、ほぼ目的の栽植様式が得られた。 試作B型機は18cmの触れ幅を持つ植付機構を36cm間隔で配置し、株と株の間隔を18cm確保したまま、10a当たり3万株程度の密植千鳥植えを行う田植機とした。圃場試験の結果、田植機による密植の千鳥植えが可能となった。 さらに、密植と千鳥植えの効果について手植えにより植付けを行い、栽培試験を行ったところ、10%程度の増収効果が確認された。 一連の成果は、生物系特定産業技術研究推進機構の高性能農業機械等緊急開発事業において「密植式田植機」として採用され、実用化のための研究に引き継がれた。 本研究の結果、機械移植水稲の栽植様式は多様化に向けて一歩前進した。 |