内容要旨 | | ダイアブロ山地パチェコ峠地域のフランシスカンコンプレックスの温度圧力構造はほぼ水平で,構造的中央部が最高変成度である。採集した700個以上の変成グレイワッケ砂岩に加え,深さ約1200フィートのボーリングコアの変成グレイワッケ砂岩38試料の鉱物組み合わせを調べた。さらに約100個の変成グレイワッケ砂岩のモード測定と,約80個の変成グレイワッケ砂岩について2600点以上のマイクロプローブ分析をおこなった。ヒスイ輝石帯はヒスイ輝石+石英±曹長石+ローソン石±アルカリ角閃石±アラレ石の組み合わせで定義される。この帯は構造的中央部に出現し,ほぼ水平なヒスイ輝石が出現しない曹長石帯に挟まれている。漸移帯はヒスイ輝石帯の上下,曹長石帯との間に出現する。ヒスイ輝石帯は20km以上の分布幅で出現するが厚さは400m以下である。これらの鉱物帯のほぼ水平な境界はいくつかの2次的な高角正断層によって乱されている。単斜輝石+石英+曹長石の組み合わせにバッファーされた単斜輝石の固溶体組成は,ほぼ一定なXJd値(0.75〜1.0)を持つのに対して,曹長石を含まない岩石中の単斜輝石は,よりヒスイ輝石成分に乏しい(XJd=0.6〜0.95)。不規則な累帯構造や砂時計構造のような非平衡組織は報告されているものの,これらの組成幅の違いはヒスイ輝石帯の岩石がほぼ平衡に達していることを示している。漸移帯のモードの単斜輝石/(単斜輝石+曹長石)比は0から0.95へと構造的中央部に向かって増加するがヒスイ輝石帯では0.95から1の間でほぼ一定である。フランシスカンコンプレックスの変成グレイワッケ砂岩では,モード比が変成度に最も敏感な指標である。 フランシスカンコンプレックスの中央帯全体,特にメランジュのマトリックスが低温高圧型の変成作用を被ったか否かの論争がある。北部及び中央カリフォルニアにおいて,Friedman(1959)による染色法を用いてアラレ石の広域的な分布を調べ,アラレ石の産出地点を新たに300カ所以上発見した。アラレ石は変成グレイワッケ砂岩とマトリックス頁岩の両方に編状脈や塊として出現し,その縁は方解石によって部分的に置き換えられている。アラレ石はフランシスカンコンプレックスの海岸線と中央帯の境界部から中央帯の構造的最上部までの中央帯全域で安定であり,中央帯のメランジュのマトリックスを構成している頁岩と高変成度の異質岩塊の両者も同様に低温高圧型の変成作用を被っていることが明らかになった。アラレ石の染色法を用いることによって,北部カリフォルニア地域における海岸帯と中央帯の正確な境界を明らかにすることができた。その結果,海岸帯と中央帯の境界は緩やかに東に傾斜した衝上断層であり,中央帯が構造的上位に位置する。ローソン石-濁沸石-アラレ石-石英の共生関係から両帯の間には約2.5キロバール以上の変成条件の圧力差があることが明らかになった。 本研究で明らかになったフランシスカンコンプレックスの温度圧力構造は沈み込み帯深部における初生的な熱構造を保存してはおらず,むしろ中央帯の上昇過程において再編されたものである。 |
審査要旨 | | 本論文は6章から構成される。第一章で世界の高圧型変成帯についての概説とフランシスカン変成帯の研究史とその意義を紹介している。第2章ではフランシスカン変成帯の地質学的な事実について紹介し、それが、1,北米大陸西岸にできた白亜紀から第3紀にかけての沈み込みプレート境界の付加体であること、2,沈み込み境界で約30-50km程度の深度までスラブによって引きずり込まれ、変成作用を受けた複合体であること、3,変成作用は低温度帯から高温度帯にかけてゼオライト相から藍閃石片岩相およびエクロジャイト相へと変化していること、4,様々な変形を受けた岩体が混合していることなどを示している。また、フランシスカン変成帯は典型的な沈み込み型造山帯であり、プレート境界における力学プロセスを明らかにする上で重要な地域であることを述べている。 第3章で本研究の主要な部分である岩石を構成する変成鉱物の化学組成、空間的な変化、その熱力学的解析について詳述している。この中で、著者は岩石思料700点以上に加えて、38個のボーリングコアサンプルについて鉱物組み合わせを明らかにし、さらに100以上について鉱物の体積比を測定、また80個の岩石サンプルの鉱物の化学組成を2600以上測定した。 変成帯は3つに分けられる。低温度から高温度にかけて、ひすい石帯、遷移帯、および曹長石帯である。それぞれはフランシスカン帯のなかで、地表面にほぼ水平に分布しており、3次元的には上下に曹長石帯が分布し内部は遷移帯を通過して翡翠石帯となっていることを初めて明らかにした。この地質学的関係と鉱物とくに翡翠石の粒径、体積比、および化学組成は強い相関があり、翡翠石と長石の体積比は翡翠石帯から遷移帯に変化するにつれて急激に減少する。また、化学組成も遷移帯かけて、翡翠石のひすい輝石成分は平均的に0.9から0.75程度に変化する。 変成岩の岩石の平均化学組成はあまり大きく変化していない。また、ひすい石、曹長石、石英はほぼ化学平衡状態であったと推定されるので、平衡温度圧力は約200C、6-7kbと推定される。さらにひすい石帯から曹長石帯にかけて、温度が200Cから300C程度まで上昇していることが推定される。 第5章ではフランシスカン帯が大きく海岸帯と中央帯に識別されること、両者は大きな変位を持つ水平逆断層で接していることを地質学的に明らかにされた。この関係はより定量的には岩石学的に鉱物共生関係を正確に明らかにすることで示される。著者は今回初めて、中央帯で広範にアラゴナイトが出現することを発見した。一方海岸帯には全くアラゴナイトがなく、また、ゼオライトとプレーナイトが普遍的に出現することを示した。この結果中央帯は明らかに曹長石帯でも7kb以上であり、一方海岸帯は2-3kb程度であることが示される。すなわち、深さにして20km以上の差があることが初めて示された。すなわち、両者を分かつスラストは深さにして20km以上、移動距離では200-400km以上であることが議論される。 第5章では結論として、フランシスカン変成帯が沈み込み帯での大規模な堆積物の沈み込みを経験し、その後約25km程度の深部から再平衡に達せずに急速に上昇したものであり、その上昇の様式はウェッジイクストルージョンというプロセス、つまり、変形しながら、沈み込んだ堆積帯がプレート境界の間を押し上ってくる運動により海底に上昇したものであると結論した。 6章ではこれらの結論をまとめている。 以上のように論文提出者は北米大陸西岸地域の変成帯について詳細な岩石学的研究を行い、きわめて重要なオリジナリティの高い研究を行っている。また、その結果はすでに重要な国際誌で発表されている。これらの点で、氏が博士(理学)の学位を受けるに十分であると結論した。 なお3章と4章は丸山茂徳氏およびリュウ氏との共同研究であるが、論文提出者が主体となって分析と解析を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断される。 したがって、博士(理学)を授与できると認める。 |