審査要旨 | | 本論文は安全性と信頼性の向上が図れ,かつ大容量の貯蔵が可能となる新しい概念に基づく液化天然ガス貯槽(PCLNG貯槽)の開発について行った一連の研究成果を取りまとめたものである。マイナス160℃の可燃性液化ガスを大量に貯液する容器構造にプレストレストコンクリート(PC)構造を適用するための材料・構造・設計に関する技術を確立し,その成果として,世界最大18万キロリットルの貯液能力を持つ貯槽の実現が可能となったのである。 第1章は序論で,高い安全性と信頼性をもつ大容量の貯槽の開発が必要なことを述べ,その要求に応えうる貯槽型式として,新形式のPCLNG貯槽を選定した経緯およびこれを実現するために必要な研究課題を明確にしている。 第2章では,約50年間のLNGの歴史におけるLNG技術の発展や低温液化ガス貯槽の運転経験等により,その構造が変遷してきているばかりでなく,設置される国や地域の社会情勢や立地条件,監督官庁の意向,貯槽所有者の考えなどの相違によって種々の型式が採用されてきたことを詳細に述べ,わが国では敷地の効率的利用を図れる形式および大容量化が重要な開発課題であると述べている。 第3章では,PCLNG貯槽に関する安全かつ経済的な設計を実現するために行った十数年間にわたる研究開発の概要を述べている。PCLNG貯槽は,従来の地上式金属二重殻貯槽とPC製防液堤を一体化させたものであるので,本質的に安全であり,防液堤スペースが不要であることから大容量化と敷地の利用効率の向上が容易であると共に,構造合理性による経済化も図れるという大きな特長を有する。実構造物の建設を通して,必要な個別技術の開発とその実証に当たると共に,PCLNG貯槽の設計コンセプトを完成し,我が国最初のPCLNG貯槽を世界最大の14万KL容量で実現した。さらに,最新の18万KL PCLNG貯槽に,コスト低減と工程短縮を目的として高強度の自己充填コンクリートを用いる合理化技術を開発し,経済的なPCLNG貯槽に途を開いたのである。 第4章では,PCLNG貯槽を構成するPC鋼材,定着具,それを組み合わせたPCテンドンシステム,PC部材,及び貯槽構造系での外槽ライナ,貯槽システムについて,その安全性と信頼性を評価する新たに確立した方法を述べている。貯槽の基本となるPC構造を極低温構造物に適用する場合の安全性確認に関わる試験を実施し,PC構造が極低温構造物に適用できることを明らかにし,要求される貯液性,耐震性および耐久性を保証する設計技術を確立したのである。 第5章では、PCLNG貯槽に用いるPC構造物の施工技術と品質管理技術を確立し,我が国初の貯槽に適用した経緯を述べている。 第6章では,高強度の自己充填コンクリートを採用することによって,大規模PCLNG貯槽の建設費および工期の短縮を図る合理化技術について述べている。コンクリートを従来の1.5倍に高強度化し,自己充填コンクリートとして施工することによって,18万KL容量のPCLNG貯槽の実施工においてコスト低減と工程短縮の目的を達成したのである。 第7章は結論であり,都市ガスの長期安定供給と需要の増大に応えられる高い安全性・信頼性を有するPCLNG貯槽の構造及び建設技術に関する本論文の研究成果を整理している。本研究の成果として,大容量化及び構造の合理化によってコストダウンを図ると共に,敷地の大幅な有効利用を達成した。また,PC構造の極低温構造物という新しい分野への適用の道を拓き,限界状態設計法を適用した合理的な設計技術も確立した。 本研究は,PCLNG貯槽に関する新しい設計思想と建設技術の確立を達成し,実構造物の建設を通してその成果を実証したものである。これらは,エネルギー施設の信頼性向上と建設コストの縮減に貢献するところが大きく,一般の土木構造物の安全性や施工の合理化にも寄与する一般性を有するものである。よって,本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |