学位論文要旨



No 214226
著者(漢字) 内田,明
著者(英字)
著者(カナ) ウチダ,アキラ
標題(和) コンクリートの連続製造システムの実用化に関する研究
標題(洋)
報告番号 214226
報告番号 乙14226
学位授与日 1999.03.17
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第14226号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 岡村,甫
 東京大学 教授 國島,正彦
 東京大学 教授 魚本,健人
 東京大学 教授 前川,宏一
 東京大学 助教授 野城,智也
内容要旨

 コンクリートを練混ぜる連続ミキサは,機能性に富みかつ潜在的に製造速度の大きなシステムであると考えられるが,品質管理など従来のバッチミキサに比べると多くの問題を有しているため,その適用範囲は極めて限られたものであった。一方,コンクリートダムの建設工事においては、近年特に環境負荷低減型の工法の確立が急がれている。施工の合理化と省エネ化を図る上で,コンクリートの連続製造システムを含む連続施工工法は極めて有力な施工法として注目されてはいるものの,その開発には多くの困難が伴っている。

 本研究は,このような観点に立って,従来の連続ミキサの考え方を発展させ,ダムコンクリートのような大量連続施工をその視野に入れた,全く新しいタイプのコンクリートの連続製造システムの実用化を図ることを目的として実施した。

 本研究において提案した新しいシステムは,材料の練混ぜに重力を利用する省エネ型のミキサ(MY-BOX)を用いるなど,多くの特長を有している。

 従来の連続ミキサは,

 (1)材料の計量が容積法であり,質量計量が基本の現在の練混ぜ方法に適合しない。

 (2)骨材の最大寸法は40mmが限界である。

 (3)大量のコンクリートを練混ぜる設備を備えていない。

 等の機構上の問題点に加えて,

 (4)練混ぜ中の材料の供給状況を把握することが困難である。

 など,品質保証の面でも大きな問題を内蔵している。

 本研究では,単一の配合を大量に製造する場合にその特長が最も発揮される連続ミキサの優位性に着目して,一回当たり数百から数千m3規模のコンクリートを打設するダムコンクリートを主たる対象として,新しいシステムの開発研究に着手した。

 図1に,本システムの概要を示す。本システムは,バッチミキサと同等の性能でコンクリートを練り混ぜかつ品質保証を行うことを基本として,先の連続ミキサの問題点を以下の方法によって解決している。すなわち,本システムは,

 (1)最大80mmまでの骨材をサイズごとに,定量に切出すベルトフィーダと振動フィーダからなる骨材供給装置

 (2)ポンプの回転数を制御して,配合上必要な量のモルタルを供給する装置

 (3)モルタルと粗骨材を練り混ぜる練混ぜ装置

 (4)材料を練混ぜ装置まで搬送すると共に,材料を質量で計測記録するためのベルトコンベヤとコンベヤスケールからなる計測システム

 等から構成されている。

図-1 本プラントの概要

 このように,本システムは鉛直に据え付けた練混ぜ装置に,上から連続して計量かつ供給された粗骨材とモルタルを投入することだけで練混ぜが進行する,全く新しいタイプのコンクリート製造システムである。また,先練りしたモルタルを使うことから,一種の2段練り方式のシステムであると言うこともできる。

 次に,本システムの性能と練混ぜられたコンクリートの品質について,種々の観点から実験的な検討を行なった。

 図2は,粗骨材の供給状況をモニタした結果を示したものである。コンクリートの製造中,材料の供給量が質量でリアルタイムに表示される。また,故意に骨材の供給異常を生じさせると,図中に示すような形で,直ちにその異常を感知することができる。

図-2 粗骨材供給状況モニタ結果

 表1は,ミキサの練混ぜ性能試験に準じて行った本システムの練混ぜ性能試験の結果を示したものである。試験は,20,40および80mmの最大寸法のコンクリートに対して,繰り返しを含め5回実施した。一回あたりの練混ぜ量は約4m3で,連続的に製造されるコンクリートの流れの始めと終わりの部分から試料を採取してその品質の差を分析した。

表-1 練混ぜ性能試験結果

 その結果をJIS A1119とJIS A8603の基準とともに表1に示したが,本プラントは,JISの定めるミキサの性能を十分満足しているものと判断される。

 一方,図3から5は上記の試験と併せて行った,従来のバッチミキサ(試験用の2軸強制ミキサ)との性能比較実験の結果を表したものである。スランプ,空気量および圧縮強度とも本システムの結果と小型ミキサのそれは良く一致している。

図-3 本プラントと従来型ミキサのスランプの比較図-4 本プラントと従来型ミキサの空気量の比較図-5 本プラントと従来型ミキサの圧縮強度の比較

 これらの結果より,本システムはバッチミキサと同等の性能でコンクリートの練混ぜが行えることが明らかとなった。

 最後に,本システムの経済性と省エネ特性について評価した。100m3/hr程度で,80mmの骨材寸法のコンクリートを製造するこのとのできる本システムと同程度の能力を有する従来のバッチミキサのプラントを試設計して,システムの建設費と運転時に必要とされる動力の大きさについて比較検討した。

 その結果,本システムは,従来のシステムと比較して、建設費で約15%が縮減される。さらに,運転時の動力では,45%減と極めて大きな省エネ効果を期待することができることが示された。特に,従来のバッチミキサでは,ダムコンクリートの場合,通常のレデーミクストの1.5倍の動力が必要になることから,練混ぜ装置の動力が0と言う本システムの特長が遺憾なく発揮されたものと考えられる。

審査要旨

 社会基盤施設の主要建設材料であるコンクリートの製造は,個々の構成材料の計量を行った後に,ミキサーに一括投入し,練り混ぜ工程を経て運搬システムに引き渡される,いわゆるバッチ処理によって行われている。製造されるコンクリートの品質をバッチごとに保証できるシステムである。コンクリート工事は,バッチ型製造を前提としたアジテーター車両やクレーンバケットによる運搬を前提として,その打設工程が組まれている。

 本研究は,コンクリートの製造を継続的に連続して行うシステムを新たに考案し,これを実用化することに成功したものである。コンクリートの製造が連続的に行われることは,従来の施工システムそのものを変革することも可能となり,より安全で経済的となる対象も少なくない。特に,ダムなどの長期に渡って同一品質のコンクリートを大量に製造する場合では,経済性や環境負荷の観点から大きな利点が得られるものと期待されている。過去にも連続ミキサーが考案され,実工事に適用されたこともあるが,品質のばらつきが大きくなる不安はぬぐえず,現実には全く利用されていない状況である。本研究による方法は,施工現場ヤード内に計量・運搬・練り混ぜ装置を系統的に配置し,統合制御系の元でこれを大規模に展開して,大容量のコンクリートを連続的に製造するものであり,従来の連続ミキサ機では達成できなかった品質管理精度と製造量をもたらすものである。

 第1章は序論であり,本研究の背景と目的について述べている。

 第2章では,連続ミキサに関する既往の研究と技術的課題について纏め,第3章では,連続ミキサの構造上の問題点および製造されるコンクリートの品質と解決すべき課題を明らかにしている。

 第4章では,新しい連続製造システムの提案に至った経緯と基本構想について述べている。コンクリートの連続製造について,従来は製造機器の視点で研究開発がなされてきてのに対して,本研究では,施工現場空間に既往の施工技術を複数展開すると共に,それらをベルトコンベアで有機的に結合する形で,施工システムの合理化と規模の拡大を図ることを開発目標としている。

 第5章では,本研究で提案したシステムの機器構成の詳細に言及し,それぞれの性能水準を明確にしている。練り混ぜ製造部分において,自由落下型の自然練り混ぜ装置を組み込んだ点に本システム実現の主たる成因がある。また,連続的に運搬される骨材を運搬途上で高精度かつ連続して重量で計量することに成功している。従来の連続ミキサでは体積計量のみが可能であったため,計量精度と製造されるコンクリートの品質変動に弱点を有していた。本システムはこの問題を解決するとともに,モルタル排出装置を重量計量結果と連動して操作制御することによって、一層品質変動の小さいコンクリートの製造を可能にしたのである。

 第6章では,施工環境に上記のシステムを構築し,それを実スケールで運転稼働させることによって,材料供給と制御システムの性能を検証している。運転中の構成機器の稼働状況を詳細に記録し,その管理データを分析することによって,構成機器ごとに要求される精度を見極めること,必要にして十分な運転管理モニター項目の絞り込み,システム異常を検知する方法の考案に成功し,その適用性を実証している。

 第7章において,本システムによって最終的に製造されるコンクリートの品質および品質変動について論じている。コンシステンシー,空気量などのフレッシュコンクリートの特性,および強度その他の硬化後のコンクリート品質およびその変動が,既往のバッチミキサーによるコンクリートと同等であることを確認している。

 第8章では,提案されたシステムと従来のコンクリート製造システムとの経済比較を行っており,特にダムのような大型コンクリート構造の建設において高いエネルギー効率が達成されることを示している。

 第9章は結論であって,本研究で得られた成果を概括し,新しい連続製造システムによって施工の合理化が一層推進できることを強調している。

 本研究で開発されたコンクリートの連続製造システムは,既往の技術を施工空間の中で有機的に展開することによって,新たな価値を創造したものである。これを実施工環境において構築して,有用性を実証し,社会基盤施設の建設に対して新たな展開を可能にしたものである。一層の施工の省力化,信頼性向上,環境負荷低減に結びつく技術の提示は,土木工学の発展に寄与すること大である。よって,本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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