学位論文要旨



No 214227
著者(漢字) テクラジガヤワリ
著者(英字) Tek Raj Gyawali
著者(カナ) テクラジガヤワリ
標題(和) 重力を利用した新しい練混ぜ理論に基づいた省エネタイプ連続ミキサの開発
標題(洋) Development of Energy Less Required and Gravity Effect Continuos Mixer Based on New Mixing Theory
報告番号 214227
報告番号 乙14227
学位授与日 1999.03.17
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第14227号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 岡村,甫
 東京大学 教授 國島,正彦
 東京大学 教授 魚本,健人
 東京大学 教授 前川,宏一
 東京大学 助教授 舘石,和雄
内容要旨

 近年、材料を重ねて延ばす新しい練混ぜの原理が注目されている。この方法は、材料を重ねて延ばす操作を繰り返すことで練混ぜを行う、いわゆるうどん練りと言われているものである。すなわち、材料を半分にして重ねて元の厚さまで圧延する操作をn回繰り返すと、材料は2n個の層に分散されると同時に圧延時には材料に圧縮力とセン断力が作用する。これらの作用力によって、バインダとなる液体が粉体等の材料の表面にコーテングされ、練混ぜが進行する。これが2n層原理と呼ばれている練混ぜ方法である。

 この新しい原理の有効性を実証するために一連の実験が行われ、次のような結論が得られている。

 (1)この原理でコンクリートを練り混ぜた場合,10回の練混ぜで練り上がったコンクリートの品質は、従来のミキサで練り混ぜたものとほぼ同等である。

 (2)この原理は,特に従来ミキサでは練り混ぜ難い材料、例えば比重差の大きな材料(EPSコンクリートや重量コンクリート),粘性が大きい材料(粘土)および貧配合(RCDコンクリート)などの練混ぜに適している。

 この練混ぜ原理を忠実に再現した実用機である連続ミキサ"MY-BOX"が開発された。MY-BOXの練混ぜの概念を図-1に示す。この図のように、材料はMY-BOXの各ユニットを移動する時に重ねと圧延の作用を受け、n個のユニットから排出される時点で2n層に分散され練り混ぜられる。この方法の練混ぜ性能は、水平に据え付けたMY-BOX中に浚渫土のように粘性の大きい材料などを圧入して連続で練混ぜる実験によって確認された。

図-1 重ねて延ばす2n層原理をもとにして開発された連続ミキサMY-BOXの練り混ぜ方法

 しかしながら、MY-BOXを粒子の大きな材料(例えばコンクリート)の練混ぜに適用する場合に大きな問題が生じることが、明らかとなったのもまた事実である。本研究は、第一段階で2n層原理に改良を加え、MY-BOXで粒子の大きな材料の練混ぜも可能であること実証した。すなわち、2n層原理の圧延機構の代わりに、MY-BOXを縦で使う場合に発生する粒子と粒子の間の衝突と、粒子とMY-BOX内壁間の衝撃に着目して、そのメカニズムの解明を試みて,2n層原理に改良を加えた。改良された新しいメカニズムとその考え方を図-2に示す。縦に据え付けたMY-BOXで粒子の大きな材料の練混ぜを行い、このメカニズムの効果を確認するための実験を行った。その結果,縦型MY-BOXに先練りモルタルと砂利を同時にベルトコンベヤで投入することによって、普通コンクリートの他に、ダムコンクリートやRCD用のコンクリートのように骨材寸法の大きい材料が、重力による落下によって練り混ぜられることが証明された。さらに,普通コンクリートとRCD用コンクリートの場合,所要の品質を確保するために必要なMY-BOXの個数は、それぞれ6個と4個であったことから、提案した改良原理が非常に有効であることが明らかとなった。

 このミキサは、従来のドラムや攪拌羽を動力で回すタイプのミキサとは異なり、位置エネルギのみで練り混ぜることから、練混ぜ時にエネルギを必要としない重力を利用した省エネタイプミキサであることから、LERGEミキサと称することとした。

図-2 改良した新しいメカニズム

 研究の第2段階では,LERGEミキサの有効性を確認することを目的として、ファイバコンクリートへの適用を試みた。従来のミキサでファイバコンクリートを練り混ぜる場合、ファイバの混入率は体積で約2%が限界となっていた。本ミキサにおいても、前述の練混ぜ方法に準拠した方法、すなわち先練りしたコンクリートにファイバを混入する方法では、SFRCの練混ぜは不可能であることが明らかになった。この問題を解決するために、さらに新しい練混ぜ方法である"プレミックス"方式を開発した。この方式は,先に砂利とファイバをLERGEミキサで分散させるドライミックスが基本となっている。その後,プレミックスした材料にモルタルやペーストを供給して、ファイバコンクリートの練混ぜを行う新しい方法である。この新しい方式を採用することによって,ファイバ混入率が4%(体積)の練混ぜも可能となること同時に、通常の混入率においても瞬時に練混ぜができることからこの方法の有効性が実証された。このことは、この方法をさらに発展させることによって、様々なファイバ(例えばグラスファイバ,カーボンファイバ,メタリックファイバ等)を使用したファイバコンクリートの製造が可能となり、軽量で耐震性に優れた材料の開発に寄与できることを示唆しているものと考えることができる。

 次に、この方法の粉体混合への適用性も確認された。最後に、本方式のコンクリートの練混ぜへの適用方法について検討を加えた。水以外の材料を先にプレッミックスした後、さらに水と同時にLERGEミキサに投入することで、先練りしたモルタルを使わずにコンクリートが練り混ぜられることが新たに確認された。今日までの実験の結果では、LERGEミキサで練り混ぜたコンクリートの強度は従来ミキサのそれに比べて90%程度となっている。水の供給方法に問題があると考えられため、水の供給を制御するシステムを導入することでLERGEミキサの練混ぜ性能は、従来のミキサの性能まで向上するものと考えている。この手法をさらに発展させることによって、近い将来コンクリートプラントの簡略化と大きな省エネ化に資するものと考えられる。

 今後は,LERGEミキサの練混ぜ効率の向上を図るため、LERGEミキサのミキシングメカニズムの解析やシュミレーション行うことが極めて大切である考えている。LERGEミキサの練り混ぜ効率は、材料の供給量と大きな関係があることから,供給量と練混ぜ効率の関係についてある解析モデルを提案した。このモデルは,LERGEミキサの形状とコンクリートの特性を表す2つのパラメータから構成されている。。提案した新しい解析モデルの研究を進めることでMY-BOXのメカニズムが明らかとなり、LERGEミキサの練混ぜの効率を向上させることが可能になるものと考えている。

 本研究では、新たに開発されたMY-BOXに対して、2n層原理を発展させた新たなメカニズムとプレミックス方式を提案し、従来のミキサで練混ぜが不可能とされていた領域まで本手法が適用可能であることを示すことによって、位置エネルギを利用したLERGEミキサの有効性について明らかにした。その結果、本ミキサは、省エネ型のミキサとして従来方法と比較して優れた性能を有しているものと結論される。

審査要旨

 論文提出者等のグループは,材料を重ねて延ばすという原理に基づいた練混ぜ方法を次々と開発してきている。材料の半分を重ねて元の厚さまで圧延する操作をn回繰り返すと、材料は2n個の層に分散されると同時に,圧延時には材料に圧縮力とせん断力が作用することによって,バインダとなる液体が材料の表面にコーテングされ,混ぜる効果と同時に練る効果も容易に得られるのである。

 本論文は,この練混ぜ原理を忠実に再現しかつ省エネルギーを革新的に実現した全く新しいタイプの連続ミキサを開発した結果を述べたものである。材料はミキサ内の各ユニットを落下する時に,重ねと圧延の作用を受け,n個のユニットから排出される時点で,2n層に分散され練り混ぜられるものである。このミキサは,従来のドラムや攪拌羽を動力で回すタイプのミキサとは異なり,位置エネルギのみによって練り混ぜ可能であるので,大きな省エネルギーが図れる利点がある。

 このミキサに先練りモルタルと砂利とを同時に投入することによって,普通コンクリートは勿論,ダムコンクリートやRCD用のコンクリートのように骨材寸法の大きい材料を,重力による落下によって容易に練り混ぜられることを立証している。これに必要なユニットの数は,わずかに4〜6個である。

 従来のミキサではファイバコンクリートの練り混ぜは極めて困難であり,練り混ぜ可能なファイバの混入率も約2%が限界であった。この新型ミキサを巧妙に使って,ファイバ混入率4%の練混ぜを可能とすると共に,通常の混入率では瞬時に練混ぜ可能であることを実証した。すなわち,砂利とファイバとを同時にこのミキサに通してファイバを分散させたのち,このプレミックスした材料にモルタルあるいはペーストを供給して練混ぜるのである。

 この新型ミキサの練混ぜ効率が材料の供給量によって大きな影響を受けることを明らかにすると共に,両者の関係を示す解析モデルを提案している。この解析モデルは,ミキサの形状とコンクリートの特性を表す2つのパラメータから構成されており,練り混ぜ効率の一層の改善が,シミュレーション結果に基づいて導かれることも示している。

 本研究は,新たに開発されたミキサに対して,2n層原理を発展させた新たなメカニズムとプレミックス方式を提案して,従来のミキサで練混ぜが不可能とされていた領域まで練り混ぜ可能であることを示した。位置エネルギを利用したこのミキサは,省エネ型のミキサとして,従来方法よりも格段に優れた特性を有しており,コンクリートのみならず各種材料への適用も可能な発展性の高いものであって,今後の材料練り混ぜ分野にもたらされる影響は計り知れない。よって,本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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