内容要旨 | | 本論文は,金型部品等の製作において,大幅な高精度,かつ高能率効果が期待できる切削加工技術として注目されている高速ミーリングにおいて,最も重要な課題であるボールエンドミルの工具寿命に関するものである. 従来の金型製作は切削加工と放電加工とみがき作業と組立調整の工程を経ており,加工工程の複雑化とリードタイムが長くなるなどの問題を抱えていた.このような金型製作上の問題点を解決するには,放電加工で行っていた高硬度鋼の複雑な曲面形状などを高速に切削できる技術,いわゆる高速ミーリング導入への期待が集まっている.そこで金型の高速・高精度化を実現するための高速ミーリングにおけるボールエンドミル切削技術を究明し,ボールエンドミルの高速ミーリング加工に関して必要とされる工具技術を集大成し,金型加工の高速ミーリング技術を確立する上での基盤的な研究を行った.本論文の主眼点は, (1)超硬合金ボールエンドミル特有の高速切削特性および摩耗特性を把握する. (2)実切削に多いボールエンドミル曲面切削における工具摩耗と加工誤差の関係を明らかにする. (3)cBN焼結体ボールエンドミルの工具摩耗と工具材種,および形状について,各種切削実験を行って調査し最適な工具設計の提案を行う. (4)金型部品に適用している高硬度鋼を,cBN焼結体ボールエンドミルによる高速切削を行って,その有効性を調査する. (5)鋳鉄のcBN焼結体を切れ刃とした正面フライスの高速切削特性、および摩耗特性を把握する. ことにあり,金型材用のボールエンドミルについて工具摩耗の進行状況を明らかにするとともに,cBN工具の可能性の追求を行ったものである。 本論文は,序論および総括を含めて全7章から構成されている. 第1章の"序論"では,まず高速ミーリングについて,技術的背景と課題について述べている.すなわち,高速ミーリングは,高速型マシニングセンタ,切削工具,および高速ミーリング用プログラミングなどで構成されており,いずれの分野でも発展途上であるが,特に切削工具の開発は急務とされていることを述べている. 第2章の"超硬ボールエンドミルの高速ミーリング切削特性"では,最も多く用いられている市販されている標準品の超硬合金のボールエンドミルについて,高速ミーリングにおけるボールエンドミルの切削特性と工具摩耗の特徴および寿命判定について行った検討結果について述べている.すなわち,ボールエンドミル加工は,旋削加工に比べると熱的工具損傷に対して優れており,高速ミーリングに適した加工法である.また,HRC45以下の金型用鋼材では,高硬度の方が工具摩耗は少なく刃先が熱的に劣化しない限りできるだけ高速で切削することが工具摩耗の上で有利なことを述べている.さらに,切削速度が15000rpm以上の回転数でほぼ一定で良好な仕上げ面粗さ精度を示すが,より高速切削の方が有利であることを述べている.注目すべき結果としてボールエンドミルの切削速度と工具摩耗の関係において,低速域では切削速度が高まるほど工具摩耗が少なく、中速域では安定した摩耗状態を示し,高速域ではテーラー式通りの切削速度の増加によって摩耗が進行するU字形状の工具寿命曲線となることを確認したことである.また,さらに高硬度なHRC55の焼入れ鋼の切削では工具寿命が短くなり,HRC60ではさらに短寿命になるが適当な加工条件の選択により,HRC55程度の金型用鋼材ならば超硬合金ボールエンドミルでも十分適用ができることを検討結果として述べている. 第3章の"曲面のボールエンドミル切削および形状精度"では,ボールエンドミルの主要な用途である曲面切削において工具摩耗が加工精度に及ぼす影響について検討した結果を述べている.すなわち、切れ刃の摩耗の進行とともに切削抵抗が増すため,切削長とともに形状誤差は増える.さらに,高速ミーリングで摩耗が少ないといわれている浅切り込み高送りの切削条件では、初期の形状誤差は劣っても,長時間切削を行っても摩耗が少ないため良好な形状精度が得られている.切削速度が曲面加工精度に及ぼす影響についても検討し,速度を高速化するほど形状精度は向上し,また工具摩耗が少ないことを確認した実験結果から,高速ミーリングが加工精度の面でも有利であることを述べている. 第4章の"cBNボールエンドミルの工具材種と工具形状"では,cBN焼結体のボールエンドミルについてcBN焼結体の種類,およびそれぞれの工具摩耗特性について検討した結果について述べている.すなわち,切削速度が800m/min.を越える高速切削において低含有率cBN焼結体工具ではすくい面側にも摩耗が発生し工具寿命が短く,高含有率cBN焼結体工具の方が耐摩耗特性は高い結果を得た.さらに,cBN焼結体のボールエンドミルの刃先形状についても検討し,刃先に負のすくい角をつけることによりチッピング発生はある程度抑制でき、負のすくい角による切削性の劣化は切削速度の高速化により償える実験結果について述べている.それらの結果から負のすくい角と切削性の良好な中心刃を有し再研削の容易な小径ボールエンドミルを提案したことを述べている.さらに新しく設計したcBN焼結体ボールエンドミルによる切削実験で,仕上げ面粗さが改善された結果について述べている. 第5章の"cBN焼結体ボールエンドミルの高速切削特性"では,cBN焼結体と超硬合金ボールエンドミルについて切削速度と工具寿命に関して比較検討を行いcBN焼結本の優れた工具摩耗特性を確認した結果について述べている.さらに高含有率cBN焼結体のボールエンドミルによるプレハードン鋼切削における実切削速度と逃げ面最大摩耗幅の関係は,極端な低速域を除いて,切削速度の増大に伴い摩耗も増加する傾向を示したが,反面切削面の粗さは,549〜1292m/min.の実切削速度の範囲で安定しており低速域では悪いとした検討結果について述べている.高含有率cBN焼結体ボールエンドミルによる焼入れ鋼切削では最初は低速域でも高速域でも比較的大きな摩耗幅を呈したが,工具摩耗形態の観察で早期なチッピングが発生が見受けられ,刃先にかかる負担を減少させるため切り込み量とピックフィード量を減少させた切削条件の切削で,高速切削速度ほど摩耗が少ない結果を得たことを述べている. 第6章の"cBN焼結体による鋳鉄の高速正面フライス"では,鋳鉄切削におけるcBN焼結体の高速ミーリング特性を把握する目的で,高速切削用フェースミルを設計し,それによる切削特性と摩耗形態について検討した結果について述べている.さらにフェースミルで鋳鉄を高含有量cBN焼結体を工具材種に用いた切削では,1500m/min.〜2000m/min.の切削速度範囲において摩耗が他の条件に対して少なく,効率的な加工ができる興味深い実験結果について述べている.さらに、刃先処理が工具寿命に及ぼすことについても切削実験結果の検討について述べている. 第7章は,以上述べてきた内容について総括した本論文の結論である. 以上要約すると本研究では,ボールエンドミルの高速ミーリングについて工具摩耗を究明しU字型の工具摩耗曲線になることを明らかにした.更にcBNボールエンドミルの高速ミーリングについて検討を行い工具材種と工具形状の新しい提案を行うなど,金型加工法を革新する有効な手段であるボールエンドミルの高速ミーリング技術が今後進展してゆくための基本的な技術指針を明らかにするなどの成果を得た. |