円筒面は回転体の摺動部として使用されることが多く、その寸法精度と表面粗さが重要とされる。金属回転体の場合、塑性加工素材に切削加工を加え、その上平滑化のため研磨加工を付加して仕上げられる。この仕上げ工程を高能率に行う手段として、磨かれたローラを押しつけて微細な凹凸を平坦化するローラバニシング法があり広く活用されている。しかしながら、このローラバニシング法では被加工材を保持して加工するため適用範囲に大きな制約があり、せっかくの優れた特徴をもつローラバニシング仕上げが適用できない部品が多かった。 本研究はこの問題を解決するため、被加工材の保持を不要とするセンタレスローラバニシング法を新たに考案すると共に、加工法確立のために加工技術と加工条件の把握を行い、実用レベルまで発展させたものである。 本論文は「センタレスローラバニシング法の研究」と題し、序論と総括を含め全10章より構成されている。 第1章の序論では、ローラバニシング法を概説すると共に、本法の適用範囲拡大のため、センタレス法の必要性を述べ、本研究の背景と目標を明らかにしている。 第2章では、本研究者が提案する遊星ローラ式センタレスローラバニシング法の基本原理を示すと共に、必要とされる諸機能を具体化した装置を試作し、被加工材を保持しなくてもバニシング仕上げが実施できることを明らかとしている。 第3章では、センタレスローラバニシング法における平坦化機構を有限要素解析によって調べ、極く限られた表面層が効率的に平坦化される状況を明らかとしている。またバニシングに必要とされる加工動力は、極めて少ない効率的な加工であるとしている。 第4章では、センタレスローラバニシング法の加工特性を実験的に調査し、高精度に仕上がることを確認すると共に、適切な加工条件を明らかとし、またバニシング加工で寸法精度の劣化がないことや表面層の改質効果があることを明らかとしている。 第5章以降は、開発した遊星ローラ式センタレスローラバニシング法を改良発展させることにより、更に多くの機械部品への適用範囲の拡大を図っている。 すなわち第5章では、送り力とバランスさせた推力を付加させる自動制御機構を考え、定バニシ圧制御を実現することにより、不揃いな前加工寸法部品にも対応できるようにしている。 また第6章では、薄肉中空材への適用をはかるためには、変形を起きないように多数の小径ローラを採用すればよいことを明らかにしている。 第7章は、ヘッドとフレームを同一方向に強制回転させ、長尺材やコイル材を保持しなくても、非回転のままバニシングを行う機構を研究したものである。 第8章は、フィードアングルを利用した正逆回転による往復送りによって、段付き材をバニシングできるようにしたものである。 これらの各章の装置開発は、いずれも独創的かつ極めて理にかなった方法を新たに考案したもので、さらにいずれの方法についても試作機により正常にバニシングできることを実証している。 第9章では、開発した各種の方法について実用レベルでの適用実験を試みたもので、精度、生産性、経済性の点で実用上申し分のないものであることを確認している。同時に本法に対する多くの実用例も示している。 以上要するに、本研究は円筒表面の仕上げ法として極めて効率的とされるローラバニシング法において、被加工材を保持せずセンタレス条件でも加工できる方法を新たに考案すると共に、その加工機構を明らかとし、さらに広範囲に応用できる独自の機構を研究開発し、産業界に広く活用できることを実証したもので、精密機械産業における生産加工技術、生産工学に貢献するところが大きい。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |