学位論文要旨



No 214238
著者(漢字) 岡島,英昭
著者(英字)
著者(カナ) オカジマ,ヒデアキ
標題(和) センタレス・ローラバニシング法の研究
標題(洋)
報告番号 214238
報告番号 乙14238
学位授与日 1999.03.17
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第14238号
研究科 工学系研究科
専攻 精密機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 中川,威雄
 東京大学 教授 鯉淵,興二
 東京大学 教授 増沢,隆久
 東京大学 教授 谷,泰弘
 東京大学 助教授 柳本,潤
内容要旨

 ローラバニシングは平滑なローラを金属表面に圧縮回転接触させ表面に微小な塑性変形を生じさせて仕上げるもので、表面粗さが向上すると同時に表面が加工硬化し、さらに圧縮の残留応力が生じるため高精度で耐久性に優れた仕上がり面となる利点がある。しかし従来法では被加工物を確実に保持することが条件であり仕上がり精度や加工能率の面でも限界がある等、解決すべき課題が存在する。本研究では特に軸外面の精密仕上げに限定して従来の外面仕上げ用ローラバニシング工具の課題および既存の3点ロール式バニシ転造の問題点を解決する手段として、新たに遊星ローラ式のセンタレス・ローラバニシング法を検討提案し、その効果を考察してこの方法が現在考え得る最良の方法であることを示した。さらに本法に求められるセンタレス機能、自己推進機能、バニシ圧の負荷機能を検討具体化し、実用的なセンタレス・ローラバニシング装置を開発した。遊星ローラ式のセンタレス機構とフィードアングルよる自己推進機構は理論通り機能し、本法が保持部のない軸外面の精密高速仕上げに適した加工法となりうることを示した。

図1 開発した遊星ローラ式のセンタレス・ローラバニシング法

 開発したセンタレス・ローラバニシング法における表面の平坦変形機構を明らかにするためFEM解析を行い、主たる塑性変形域は表面層に限られ、凸部の平坦変形により凹部が盛り上がって全体として平坦化することを明らかにした。また被加工物および工具の塑性変形および弾性変形の定量解析からバニシ量とバニシ圧の関係を導き、加工動力を実験的に評価してローラの転がり摩擦係数は0.01〜0.03と極めて小さく、バニシ圧に対して小さな加工動力で効率的に平坦化を実現していることを示した。

図2 平坦変形のシュミレーション(2次元FEM解析)

 センタレス・ローラバニシング法における適正条件を得るために、仕上がり加工特性を実験的に評価した。バニシ量や回転数等の加工条件や被加工物条件、工具設定が仕上がり表面粗さおよび外径変化量に及ぼす影響を定性、定量的に得た。仕上がりに影響を及ぼす最大の要因はバニシ量でありバニシ量の増加と共に表面粗さは向上し同時に外径は縮小する。ローラバニシングは表面近傍に限定した塑性加工であることから外径変化量は前加工の表面形状によって限界が定まり、また形状精度は前加工精度が維持されることを示した。加工部品は表面硬度が上昇し強化される。

図3 バニシ量と表面粗さおよび外径変化量の関係

 応用技術として外径が不揃いの素材や薄肉中空材、長尺材、コイル材、段付き材等に対応する独自の機構を開発しその機能を実証した。

 外径寸法が不揃いの部品には定バニシ圧制御法を必要とするが、各種の自動制御方式を考案し性能およびコストを比較検討して、フィードアングルの送り力とシリンダの推力をバランスさせる方法が適していることを示した。提案した自動制御機構を具体化して定バニシ圧制御機構を備えた装置を開発し、シリンダの推力はバニシ量と相関関係があり仕上がり表面粗さはシリンダの推力で制御できることを実験的に確認した。定バニシ圧制御センタレス・ローラバニシング法であれば被加工物の外径寸法に追従してツール径が変動するため、前加工寸法精度が緩和できる。

 円筒部品は軽量化を目指し薄肉化しているが、これらはバニシ量に対する変形が大きく表面の凹凸の平坦化に要するバニシ圧が発生せず良好な表面粗さが得られない。そこで薄肉中空材のFEM解析を行いHertzの接触理論の考察から、小径ローラを円周上に多数配置すれば少ないバニシ量で大きな接触荷重が生じ表面粗さが向上できることを示し、実際に薄肉中空材専用の工具を試作して従来法との比較を行いその効果を実証した。遊星ローラ式の工具は構造的に小径ローラを多数配置することが可能で薄肉中空材の加工に有利である。

 長尺材やコイル材等を加工するには被加工物は非回転とする必要があるが、ヘッドおよびフレームを所定の比率で強制回転し被加工物が非回転とする機構を検討提案した。被加工物が非回転の条件は次式で表すことができる。

 

 非回転における被加工物の自己推進速度Vzは次式で表すことができる。

 

 提案した機構を具体化して実用的な装置を開発した。被加工物の非回転機構が正確に機能し、フィードアングルを利用した自己推進機構は理論通りに動作し、被加工物非回転で連続加工できることを実験的に得た。非回転では被加工物に遠心力が作用しないため曲がりが防止され、従来法では加工困難であった細径長尺材やコイル材の高速鏡面仕上げできる。

 保持やセンタリングが不要となることから段付き材もセンタレス・ローラバニシング法は効果がある。そこでフィードアングルを利用した正逆回転による往復送り機構を検討提案し、この機構を具体化して実用的な往復送り機構を持つ装置を開発した。圧縮スプリングを利用したツール径拡大機構により通常の往復送りで発生する後退時の螺旋傷は解消され、段差の間際まで良好な表面仕上げが得られることを実験的に示し、段付き材の高速外面仕上げに往復送り機構を持つセンタレス・ローラバニシング法が有効であることを実証した。

 本研究で開発した遊星ローラ式のセンタレス・ローラバニシング法は、各種精密部品の外面の最終仕上げに応用され、品質の向上とコストダウンに効果を発揮している。

審査要旨

 円筒面は回転体の摺動部として使用されることが多く、その寸法精度と表面粗さが重要とされる。金属回転体の場合、塑性加工素材に切削加工を加え、その上平滑化のため研磨加工を付加して仕上げられる。この仕上げ工程を高能率に行う手段として、磨かれたローラを押しつけて微細な凹凸を平坦化するローラバニシング法があり広く活用されている。しかしながら、このローラバニシング法では被加工材を保持して加工するため適用範囲に大きな制約があり、せっかくの優れた特徴をもつローラバニシング仕上げが適用できない部品が多かった。

 本研究はこの問題を解決するため、被加工材の保持を不要とするセンタレスローラバニシング法を新たに考案すると共に、加工法確立のために加工技術と加工条件の把握を行い、実用レベルまで発展させたものである。

 本論文は「センタレスローラバニシング法の研究」と題し、序論と総括を含め全10章より構成されている。

 第1章の序論では、ローラバニシング法を概説すると共に、本法の適用範囲拡大のため、センタレス法の必要性を述べ、本研究の背景と目標を明らかにしている。

 第2章では、本研究者が提案する遊星ローラ式センタレスローラバニシング法の基本原理を示すと共に、必要とされる諸機能を具体化した装置を試作し、被加工材を保持しなくてもバニシング仕上げが実施できることを明らかとしている。

 第3章では、センタレスローラバニシング法における平坦化機構を有限要素解析によって調べ、極く限られた表面層が効率的に平坦化される状況を明らかとしている。またバニシングに必要とされる加工動力は、極めて少ない効率的な加工であるとしている。

 第4章では、センタレスローラバニシング法の加工特性を実験的に調査し、高精度に仕上がることを確認すると共に、適切な加工条件を明らかとし、またバニシング加工で寸法精度の劣化がないことや表面層の改質効果があることを明らかとしている。

 第5章以降は、開発した遊星ローラ式センタレスローラバニシング法を改良発展させることにより、更に多くの機械部品への適用範囲の拡大を図っている。

 すなわち第5章では、送り力とバランスさせた推力を付加させる自動制御機構を考え、定バニシ圧制御を実現することにより、不揃いな前加工寸法部品にも対応できるようにしている。

 また第6章では、薄肉中空材への適用をはかるためには、変形を起きないように多数の小径ローラを採用すればよいことを明らかにしている。

 第7章は、ヘッドとフレームを同一方向に強制回転させ、長尺材やコイル材を保持しなくても、非回転のままバニシングを行う機構を研究したものである。

 第8章は、フィードアングルを利用した正逆回転による往復送りによって、段付き材をバニシングできるようにしたものである。

 これらの各章の装置開発は、いずれも独創的かつ極めて理にかなった方法を新たに考案したもので、さらにいずれの方法についても試作機により正常にバニシングできることを実証している。

 第9章では、開発した各種の方法について実用レベルでの適用実験を試みたもので、精度、生産性、経済性の点で実用上申し分のないものであることを確認している。同時に本法に対する多くの実用例も示している。

 以上要するに、本研究は円筒表面の仕上げ法として極めて効率的とされるローラバニシング法において、被加工材を保持せずセンタレス条件でも加工できる方法を新たに考案すると共に、その加工機構を明らかとし、さらに広範囲に応用できる独自の機構を研究開発し、産業界に広く活用できることを実証したもので、精密機械産業における生産加工技術、生産工学に貢献するところが大きい。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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