昭和28年にテレビジョン放送が開始されて以来、郵政省では辺地難視聴地域の解消と受信チャンネル数増加の政策を進めてきた。その結果、85%近くの世帯でNHK2波、民放4波以上が受信可能となった。これらは、中継放送局のきめ細かな置局によって実現したものである。しかし、地上テレビジョン放送に割当てられた62チャンネルを使って15,000局以上が放送している現状では、これ以上の置局を行なうことが次第に困難になってきている。そこで、テレビジョン放送用周波数の有効利用を図る新しい方法として、隣接する中継局がまったく同じ周波数で放送するというテレビジョン同期放送方式の検討が開始された。テレビジョン同期放送の概要を図1に示す。 本研究は、まず同期放送を実現するための問題点について明らかにし、同期放送の可能性を検討した。次に、同期放送を実現するうえで最も重要である周波数の安定化の方式について検討した。また、同期放送による中継局を置局するための方法も検討した。さらに、同期放送を行なった場合に起こる可能性のあるゴースト障害の軽減法についても検討した。最後に、今後進むであろう放送のディジタル化において、同期放送の技術が利用できる単一周波数ネットワークについて検討した。なお、本研究の成果は、ITU-R(旧CCIR)の寄与文書として提出されReport AR/11に反映されている。 図1 テレビジョン同期放送の概要 本論文は、全部で8章からなり、各章の概要は以下の通りである。 第1章は序論であり、テレビジョン放送の現状と、同期放送の研究が開始された経緯について述べている。 第2章では、同期放送の実現可能性及び、実現するための放送機器の性能について検討している。同期放送を行なった場合、ゴースト障害と同じような妨害を与える可能性があるため、同期放送シミュレータを製作し、妨害画像の画質評価を行なった結果について述べている。 第3章では、放送波の周波数の安定度、アンテナの揺れ、伝搬による周波数安定度の劣化の影響について検討している。これらの測定には、ゴースト波、映像搬送波およびカラー副搬送波を用いている。また、ゴースト波とカラー副搬送波を用いたアンテナの揺れの二次元測定についても述べている。 第4章では、放送局の搬送波周波数の管理方法について検討している。ここでは、あらたに開発したハイブリッド同期方法式を提案している。また、同期放送の実験局による周波数較正や、現用放送局のルビジウム原子発振器の較正実験についても述べている。 第5章では、計算機シミュレーションによりテレビジョン電波の電界強度を推定する方法、および同期放送局の置局方法について検討している。電界強度の計算には、国土地理院の標高データを用い、また、電界強度の実測値から計算法の評価も行なっている。さらに、ディジタル音声放送とアナログTV放送の周波数共用について、電界強度の推定プログラムを用いて検討した結果も述べている。 第6章では、同期放送を行なったときに起こる可能性のあるゴースト障害の除去方式について検討している。まず、ゴースト障害のある画像の客観的な評価方法について検討している。次に、ゴースト除去のための特殊な信号(GCR)について述べている。さらに、ゴースト除去技術を応用して、テレビジョン文字多重信号の移動受信を行なった結果についても述べている。 第7章では、導入が検討されているディジタル放送における、遅延波(ゴースト)の影響について検討している。同期放送で検討された技術は、ディジタル放送における単一周波数ネットワークでの活用が期待できる。本章では、ディジタル放送の伝送方式について概説し、さらに、遅延波によるビット誤り率の劣化について、受信信号の振幅確率密度関数を求めて検討した結果について述べている。 第8章は結論であり、本論文で議論された同期放送の研究について要約したものである。また、本研究で得られた結果をもとに、運用が開始された同期放送の実用局を紹介している。 |