学位論文要旨



No 214246
著者(漢字) 都竹,愛一郎
著者(英字)
著者(カナ) ツヅク,アイイチロウ
標題(和) テレビジョン同期放送に関する研究
標題(洋)
報告番号 214246
報告番号 乙14246
学位授与日 1999.03.17
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第14246号
研究科 工学系研究科
専攻 電子情報工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 羽鳥,光俊
 東京大学 教授 今井,秀樹
 東京大学 教授 安田,浩
 東京大学 教授 原島,博
 東京大学 教授 坂内,正夫
 東京大学 助教授 相澤,清晴
内容要旨

 昭和28年にテレビジョン放送が開始されて以来、郵政省では辺地難視聴地域の解消と受信チャンネル数増加の政策を進めてきた。その結果、85%近くの世帯でNHK2波、民放4波以上が受信可能となった。これらは、中継放送局のきめ細かな置局によって実現したものである。しかし、地上テレビジョン放送に割当てられた62チャンネルを使って15,000局以上が放送している現状では、これ以上の置局を行なうことが次第に困難になってきている。そこで、テレビジョン放送用周波数の有効利用を図る新しい方法として、隣接する中継局がまったく同じ周波数で放送するというテレビジョン同期放送方式の検討が開始された。テレビジョン同期放送の概要を図1に示す。

 本研究は、まず同期放送を実現するための問題点について明らかにし、同期放送の可能性を検討した。次に、同期放送を実現するうえで最も重要である周波数の安定化の方式について検討した。また、同期放送による中継局を置局するための方法も検討した。さらに、同期放送を行なった場合に起こる可能性のあるゴースト障害の軽減法についても検討した。最後に、今後進むであろう放送のディジタル化において、同期放送の技術が利用できる単一周波数ネットワークについて検討した。なお、本研究の成果は、ITU-R(旧CCIR)の寄与文書として提出されReport AR/11に反映されている。

図1 テレビジョン同期放送の概要

 本論文は、全部で8章からなり、各章の概要は以下の通りである。

 第1章は序論であり、テレビジョン放送の現状と、同期放送の研究が開始された経緯について述べている。

 第2章では、同期放送の実現可能性及び、実現するための放送機器の性能について検討している。同期放送を行なった場合、ゴースト障害と同じような妨害を与える可能性があるため、同期放送シミュレータを製作し、妨害画像の画質評価を行なった結果について述べている。

 第3章では、放送波の周波数の安定度、アンテナの揺れ、伝搬による周波数安定度の劣化の影響について検討している。これらの測定には、ゴースト波、映像搬送波およびカラー副搬送波を用いている。また、ゴースト波とカラー副搬送波を用いたアンテナの揺れの二次元測定についても述べている。

 第4章では、放送局の搬送波周波数の管理方法について検討している。ここでは、あらたに開発したハイブリッド同期方法式を提案している。また、同期放送の実験局による周波数較正や、現用放送局のルビジウム原子発振器の較正実験についても述べている。

 第5章では、計算機シミュレーションによりテレビジョン電波の電界強度を推定する方法、および同期放送局の置局方法について検討している。電界強度の計算には、国土地理院の標高データを用い、また、電界強度の実測値から計算法の評価も行なっている。さらに、ディジタル音声放送とアナログTV放送の周波数共用について、電界強度の推定プログラムを用いて検討した結果も述べている。

 第6章では、同期放送を行なったときに起こる可能性のあるゴースト障害の除去方式について検討している。まず、ゴースト障害のある画像の客観的な評価方法について検討している。次に、ゴースト除去のための特殊な信号(GCR)について述べている。さらに、ゴースト除去技術を応用して、テレビジョン文字多重信号の移動受信を行なった結果についても述べている。

 第7章では、導入が検討されているディジタル放送における、遅延波(ゴースト)の影響について検討している。同期放送で検討された技術は、ディジタル放送における単一周波数ネットワークでの活用が期待できる。本章では、ディジタル放送の伝送方式について概説し、さらに、遅延波によるビット誤り率の劣化について、受信信号の振幅確率密度関数を求めて検討した結果について述べている。

 第8章は結論であり、本論文で議論された同期放送の研究について要約したものである。また、本研究で得られた結果をもとに、運用が開始された同期放送の実用局を紹介している。

審査要旨

 本論文は、「テレビジョン同期放送に関する研究」と題し、地上テレビジョン放送用周波数の割り当て手法であるテレビジョン同期放送の開発を目的とし、放送波の周波数安定度の把握と周波数の安定化、および同期放送のサービスエリアの推定と干渉地域のゴースト障害の軽減など、放送用周波数の有効利用を図ることができるテレビジョン同期放送の研究・開発についてまとめたものであり、8章から成る。

 第1章では、テレビジョン放送用周波数の使用状況と、同期放送の研究が開始された経緯、および本研究の目的について述べている。

 第2章では、同期放送の実現可能性及び、実現するための放送機器の性能について検討している。同期放送を行なった場合、ゴースト障害と同様の妨害を与える可能性があるため、妨害を再現するための同期放送シミュレータを製作している。このシミュレータを用いて妨害画像の画質評価を行ない、同期放送を実現するための周波数偏差および安定度を明らかにしている。

 第3章では、放送波の周波数安定度、アンテナの揺れ、伝搬による周波数安定度の劣化が同期放送にどのような影響を与えるかについて検討している。測定には、新たに開発したゴースト波測定器、および映像搬送波・カラー副搬送波の位相測定器を用いている。この測定の結果、伝搬による周波数安定度の劣化の影響は小さいことを示している。また、ゴースト波とカラー副搬送波を同時に測定し、送信アンテナの揺れを二次元的に測定した結果についても述べている。

 第4章では、放送局の搬送波周波数の管理方法について検討している。ここでは、新たに開発したハイブリッド同期方法式について、安定度の理論的な解析と実験結果を示している。また、同期放送の実験局による周波数較正実験や、現用放送局のルビジウム原子発振器の較正実験についても述べている。

 第5章では、計算機シミュレーションによりテレビジョン電波の電界強度を推定する方法、および同期放送局の置局方法について検討している。電界強度の計算には、国土地理院の標高データを用いている。また、屋外での電界強度の実測値と推定値を比較検討し、計算法の評価も行なっている。さらに、ディジタル音声放送とアナログTV放送の周波数共用について、電界強度の推定プログラムを用いて検討した結果も示している。

 第6章では、同期放送を行なったときに起こる可能性のあるゴースト障害の除去方式について検討している。まず、ゴースト障害のある画像の客観的な評価方法について論じている。次に、ゴースト除去のための特殊な信号(GCR)の提案およびその有効性について述べている。さらに、ゴースト除去技術を応用して、テレビジョン文字多重信号の移動受信を行なった結果についても示している。

 第7章では、導入が検討されているディジタル放送における、遅延波(ゴースト)の影響について検討している。同期放送で検討された技術は、ディジタル放送における単一周波数ネットワークでの活用が期待できるが、この章では、遅延波によるビット誤り率の劣化について、受信信号の振幅確率密度関数を求めて検討した結果について述べている。

 第8章では、本研究で得られた結果とその意義を総括して論じている。また、本研究の成果を基に、運用が開始された同期放送の実用局を紹介している。

 以上これを要するに、本論文は、テレビジョン同期放送に関し、同期放送シミュレータを試作し、干渉によるひずみの許容限、検知限等を明らかにし、その実現可能性を示し、放送波の周波数安定度の劣化に影響する送信アンテナの揺れを測定し、許容される揺れの範囲を示し、放送局の搬送波周波数を管理する方法として、新たにハイブリッド同期方式を提案し、ルビジウム原子発振器の較正法についても明らかにしている。さらに、同期放送局の置局方法を明らかにし、ゴースト障害を自動的に除去するための基準信号(GCR)、ゴースト除去技術の研究を行い、近年、導入が予定されている地上ディジタル放送の単一周波数ネットワークに、同期放送の技術が活用できると論じている。これらの成果は、電子情報工学、なかんずく、放送工学上貢献するところが少なくない。

 よって本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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