学位論文要旨



No 214247
著者(漢字) 木島,均
著者(英字)
著者(カナ) キジマ,ヒトシ
標題(和) 雷害と誘導防止のための接地に関する研究
標題(洋)
報告番号 214247
報告番号 乙14247
学位授与日 1999.03.17
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第14247号
研究科 工学系研究科
専攻 電子情報工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 羽鳥,光俊
 東京大学 教授 桂井,誠
 東京大学 教授 日高,邦彦
 東京大学 助教授 横山,明彦
 東京大学 助教授 相澤,清晴
内容要旨

 接地は、人体の防護、機器の動作機能用及び基準電位確保のためにある。これらの使用目的のために、接地については古くから研究が進められてきたが、これをシステム的に取り扱った系統的な研究はあまりなされていなかった。通信装置の半導体化による過電圧耐力の低下やノイズ問題の顕在化に伴って、EMCを考慮した接地システムを明らかにすることは今日重要な課題となっている。本論文は、通信設備の雷害と誘導防止のために接地に関する設計・施工・保守技術の向上のために行った研究成果に関するものであり、全体8章から構成されている。

1章、序論

 第1章は序論であり、接地に関する研究の背景、接地の現状と検討課題及び本論文の目的と構成について述べている。

2章、接地抵抗予測計の開発

 接地抵抗値を規格値以内に設計するために、専門家による接地設計が行われている。しかし、この方法は専門家のスキルに依存する点が多く、接地抵抗予測値と工事後の接地抵抗測定値が一致しないという問題があった。このため、従来専門家が手作業によって行っていた接地抵抗予測作業を全て自動化し、接地抵抗を精度良く予測できる計測器を開発した。開発のポイントは、測定誤差を推定可能な見掛抵抗率の自動測定方法、及び多層構造の抵抗率の自動解析アルゴリズムである。本計測器は、全国において既に10台以上が使用されており、その有効性が確認されている(図1)。

図1 接地抵抗予測計のフイールドでの使用状況
3章、加入者保安器接地のサージ特性の解明

 これまで避雷器の動作特性の改善については種々の研究がなされてきたものの、接地の過渡応答特性については詳細な検討がなされていなかった。このため、避雷器の動作特性と接地の過渡特性とを組み合わせたときの雷防護回路の機能を解析するには至っておらず、通信装置の耐雷設計上重要な課題となっていた。このため、宅内通信装置の耐雷設計に必要な接地の過渡特性について検討を行い、従来の加入者保安器の直下に接地電極を埋設する接地方法と、ケーブルの吊線に接地をとる吊線接地とを相互に接続した新接地構成方法の提案を行った(図2)。この新接地構成方法は、吊線接地による分布接地によって接地抵抗が低く、しかも、加入者保安器の直下の接地によって避雷器動作時の接地サージインピーダンスも低く、加入者保安器接地として有効であることを明らかにした。

図2 加入者保安器の新接地構成方法
4章、線路設備の接地と誘導対策

 送電線から通信線への電磁誘導電圧を軽減するために、これまで明らかになっていなかった、自動車トンネルの電磁遮蔽効果について検討を行った。宮城〜山形県境に位置する全長3385mの笹谷トンネルの電磁遮蔽効果を、6600Vの高圧送電線を人工地絡させ、トンネル内に敷設した通信線への誘導電圧を測定することによって求めた(図3)。この結果、鉄骨・鉄筋が分布的に接地されているトンネルの電磁遮蔽係数は0.25と良好であることが明らかになり、今後送電線から通信線への誘導対策に自動車トンネルの遮蔽効果が十分考慮できることを明らかにした。

図3 自動車トンネルの電磁遮蔽効果の測定方法と測定結果
5章、 山頂基地局の接地方法と雷防護

 通信装置のLSI化に伴ってこれらの装置の過電圧耐力が低下し、山頂基地局に新設されたばかりの通信装置が雷害を受けるという事例が増加している。このため、移動体基地局制御装置の雷害事例を取り上げ、これまで明らかにされていなかった雷害の再現実験方法と対策について検討を行った。再現実験方法としては、雷害が発生した現地の状況を実験室で再現するために、接地リード線の長さをサージインピーダンス2/mで模擬し、雷サージの侵入経路として考えられ通信線、フレーム等の全てのポートから疑似雷サージを印加した。この再現実験の結果、フレームから雷サージを印加した場合に現地での故障状況が再現した(表1)。対策として、通信装置の筺体と直流給電線のプラス導体を接続し、装置内を等電位化するすることによって装置の雷サージ耐力を約4倍にできることを明らかにした。

表1 移動体基地局制御装置の雷害再現実験結果
6章、通信センタビルの一点接地方式の開発

 従来の通信センタビルの接地構成方法は、複数の接地をそれぞれの目的に応じて設置している。しかし、この接地方法では落雷時に接地間に電位差が生じやすく、装置が過電圧によって破壊するという問題があった。またメタリック通信線の金属シースに流れる迷走電流によって、装置の誤動作を引き起こすという問題があった。このためEMCを考慮した接地方式の検討を行い、EMC特性に優れた一点接地方式の開発を行った(図5)。インタフェースAにおける一点接地化によって接地間の電位差をなくす。インタフェースBにおいて接地線を各階ごとにビルの鉄骨、鉄筋と接続することによって、人体に印加される電圧を極力小さくしている。また、異なる階に設置された通信システム間の通信線を直流的に絶縁する点をインタフェースCと定義し、迷走電流によるノイズを除去している。

図5 通信センタビルの一点接地方式
7章、 接地電極の腐食による接地抵抗上昇率の検討

 これまで、電食と自然腐食を同時に考慮した接地電極の腐食に関する検討はなかった。また、電極腐食と接地抵抗の関係を検討したものはなく、電極腐食に伴う接地抵抗の上昇率を予測することは困難であった。そこで、電食と自然腐食とを同時に考慮して電極形状の変化を求める計算式を導き出し、接地電極の寿命推定を可能にした(図6)。また、この計算式を用いて、電極腐食に伴う接地抵抗の上昇率を明らかにした。この計算式を用いることによって、電食と自然腐食が同時に進行した場合における、接地棒の接地抵抗上昇率を予測可能である。

図6 接地電極の寿命推定結果
8章、総論

 第8章では、本研究で得られた結果とその意義を総括して論じている。

審査要旨

 本論文は、「雷害と誘導防止のための接地に関する研究」と題し、通信設備の雷害と誘導防止のための接地に関する設計・施工・保守技術の向上のために行った研究成果に関するものであり、8章からなる。

 第1章は序論であり、接地に関する研究の背景、接地の現状と検討課題及び本論文の目的と構成について述べている。

 第2章は、「接地抵抗予測計の開発」と題し、接地の設計のために必要な接地抵抗予測技術について検討を行っている。従来の接地抵抗予測方法は、専門家の経験に依存する点が多く、接地抵抗予測値と工事後の接地抵抗測定値が一致しないという問題があった。本章では、接地抵抗予測作業を全て自動化し、接地抵抗を精度良く予測できる計測器の開発内容について述べている。開発のポイントは、測定誤差を推定可能な見掛抵抗率の自動測定方法、及び多層構造の抵抗率の自動解析アルゴリズムである。本計測器は、全国において既に10台以上が使用されており、その有効性が確認されている。

 第3章は、「加入者保安器接地のサージ特性の解明」と題し、通信装置の耐雷設計に必要な避雷器の接地方法について検討を行っている。従来、避雷器の接地は低周波で測定された抵抗値で規格が定められており過渡応答特性は考慮されていなかった。本章では、過渡応答特性に優れた新接地構成方法の提案を行っている。この新接地構成方法は、吊線接地による分布接地によって接地抵抗が低く、しかも、避雷器の直下の接地によって避雷器動作時の接地サージインピーダンスも低く、避雷器用接地として有効であることを明らかにしている。この新接地構成方法は、システムと呼ばれるNTTの新アクセス方式に導入が開始されている。

 第4章は、「通信線路設備の接地と誘導対策」と題し、送電線から通信線への電磁誘導電圧を軽減するために、自動車トンネルの電磁遮蔽効果について検討を行っている。宮城〜山形県境に位置する長大な自動車トンネルの電磁遮蔽効果を、高圧送電線を人工地絡させ、トンネル内に敷設した通信線への誘導電圧を測定することによって求めている。この結果、鉄筋が分布的に接地されているトンネルの電磁遮蔽係数は0.25と良好であり、今後送電線から通信線への誘導対策に自動車トンネルの遮蔽効果が十分考慮できることを明らかにしている。

 第5章は、「山頂基地局の接地と雷防護」と題し、山頂基地局の接地方法について検討を行っている。本章では、移動体基地局制御装置の最近の雷害事例を取り上げ、これまで明らかにされていなかった雷害の再現実験方法と対策について検討を行っている。再現実験方法としては、雷害が発生した現地の状況を実験室で再現するために、接地リード線のサージインピーダンスを抵抗で模擬し、雷サージの侵入経路として考えられる通信線、電源線等の全てのポートから疑似雷サージを印加している。この再現実験の結果、従来の接地方法に加えて、通信装置の筐体と直流給電線のプラス導体を接続するすることによって装置の雷サージ耐力を約4倍にできることを明らかにしている。

 第6章は、「通信センタビルの一点接地方式の開発」と題し、通信センタビルの接地方式について検討を行っている。従来の通信センタビルの接地構成方法は、複数の接地をそれぞれの目的に応じて設置しているため、落雷時に接地間の電位差によって装置の雷害が発生していた。またメタリック通信線の金属シースに流れる迷走電流によって、装置の誤動作を引き起こすという問題があった。このため本章では、EMC特性(電磁環境適合性)に優れた一点接地方式の開発を行っている。この方式は、新たに開発した大電流容量の接地端子箱を用いることによって接地間の電位差をなくすと共に、新たに開発した小型絶縁トランスを用いて迷走電流によるノイズを除去している。本新接地方式については、NTTの全通信センタビルに逐次導入されている。

 第7章は、「接地電極の腐食による消耗と接地抵抗上昇率の検討」と題し、接地電極の腐食による接地抵抗の上昇率について検討を行っている。従来、接地電極の腐食と接地抵抗の関係を検討したものはなく、電極腐食に伴う接地抵抗の上昇率を予測することは困難であった。本章では、電食と自然腐食とを同時に考慮して電極形状の変化を求める計算式を導き出しており、これにより接地電極の寿命推定を可能にしている。また、この計算式を用いることによって、電食と自然腐食が同時に進行した場合における、接地抵抗の上昇率を予測可能としており、接地設備の保守を行う際の基本的指針を提供している。

 第8章では、本研究で得られた結果とその意義を総括して論じている。

 以上これを要するに、本論文は通信設備の雷害及び誘導防止のために接地に関するシステム的な検討を行い、新たに考案した接地抵抗予測計による接地抵抗予測精度の向上、避雷器用接地のための過渡応答特性に優れた接地構成方法の開発、通信線路設備、山頂基地局及び通信センタビルのEMC(電磁環境適合性)を考慮した接地方式の開発、さらに接地電極の腐食に伴う電極の寿命推定方法と接地抵抗の上昇率について論じている。これらの成果は、電気通信工学、特に接地の設計・施工・保守技術の向上のために貢献するところが少なくない。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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