学位論文要旨



No 214254
著者(漢字) 片山,龍一
著者(英字)
著者(カナ) カタヤマ,リュウイチ
標題(和) 光ディスク用光ヘッドの小型化、高性能化に関する研究
標題(洋)
報告番号 214254
報告番号 乙14254
学位授与日 1999.03.17
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第14254号
研究科 工学系研究科
専攻 物理工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 伊藤,良一
 東京大学 教授 黒田,和男
 東京大学 教授 板生,清
 東京大学 助教授 志村,努
 東京大学 助教授 近藤,高志
内容要旨

 光ディスク装置はリムーバブル、高速アクセス、大容量等の特徴をバランス良く兼ね備えた記憶装置であり、オーディオ・ビデオ用ファイル、コンピュータ用ファイル等として普及している。光ディスク装置の開発の方向は大きく2つに分けられる。第一は、携帯型のオーディオ・ビデオ用ファイル、ノートPC内蔵のコンピュータ用ファイル等を目指した小型化である。第二は、長時間、高画質なディジタルビデオ用ファイル等を目指した高性能化(高S/N化、高密度化、高速化、高機能化等)である。光ディスク装置において光を直接取り扱う心臓部である光ヘッドに対しても、このような小型化、高性能化への取り組みが求められる。

 以上の背景を基に、本研究は、光ディスク装置の小型化、高性能化に寄与する各種の新規な構成の光ヘッドを提案し、具体的な設計を行うと共に、それらの有効性を実験により実証することを目的として行われた。

 具体的な研究題目は、

 (1)小型化のためにチップ素子実装技術と偏光性を有する回折光学素子を組み合わせた光磁気ディスク用光ヘッド、

 (2)高S/N化のためにファラデー回転子を内蔵することにより戻り光の影響を抑制した低雑音半導体レーザ、およびそれを用いた光ヘッド、

 (3)高密度化のためにランド/グルーブ信号と差動プッシュプル信号の検出を可能としたランド/グルーブ記録再生用光ヘッド、

 (4)データ転送速度の高速化のために光源に半導体レーザアレイを用いてディスク上に複数個の集光スポットを形成したマルチビーム光ヘッド、

 (5)高機能化のために基板厚0.6mmのディスクと基板厚1.2mmのディスクの互換を可能とした二波長合成による光ヘッド

 の5つである。以下に得られた成果を要約する。

(1)チップ素子実装による光磁気ディスク用小型光ヘッド

 (1)チップ素子実装による新規な構成の小型光ヘッドを提案、試作した。偏光性を有する回折光学素子を往路の光と復路の光を分離する偏光ビームスプリッタとして用いることにより、CD用光ヘッドで実績のあるチップ素子実装技術の導入を初めて可能にした。

 (2)偏光ビームスプリッタの機能と誤差信号検出の機能を複合化した偏光性ホログラム光学素子を用いる方式(偏光性HOE方式)と、偏光ビームスプリッタと誤差信号検出にそれぞれ偏光性回折格子とホログラム光学素子を用いる方式(二重DOE方式)の2種類を考案した。

 (3)偏光性HOE方式の光ヘッドでは、波長830nmの半導体レーザを用いた再生実験において、第一世代のISO規格の条件で実用上十分な45dB以上の搬送波対雑音比(C/N)が得られた。

 (4)二重DOE方式の光ヘッドでは、波長685nmの半導体レーザを用いた再生実験において、第一世代のISO規格の4倍容量の条件で実用上十分な45dB以上のC/Nが得られた。

(2)ファラデー回転子内蔵半導体レーザを用いた光ヘッド

 (1)ファラデー回転子をパッケージに内蔵することにより戻り光の影響を抑制した、光ヘッドの小型化と半導体レーザ(LD)の高出力化を両立できる、波長780nm帯の新規な構成の低雑音LDを光ディスク用として初めて提案、試作した。

 (2)ファラデー回転子を構成するガーネット膜をキャップの窓材として用い、磁石をキャップの内部に設けることにより、通常のLDのパッケージと同じ大きさを実現した。

 (3)ファラデー回転子を用いた場合のLDの相対雑音強度は、光学式ビデオディスク用光ヘッド、光磁気ディスク用光ヘッドの条件でそれぞれ-140dB/Hz以下、-125dB/Hz以下と要求を満たす値であった。

 (4)本LDを搭載した光ヘッドによる光学式ビデオディスクの再生実験において、自励発振型のLDを用いた場合と同等の41.6dBの良好なS/Nが得られた。また、光磁気ディスクの記録再生実験において、高周波重畳法を用いた場合と同等の58.4dBの良好なC/Nが得られた。

(3)高密度化のためのランド/グルーブ記録再生用光ヘッド

 (1)ランド/グルーブ信号と差動プッシュプル信号の両方を検出することが可能な、新規な構成の3ビーム方式の光ヘッドを初めて提案、試作した。前者はトラック引き込み動作中のランド、グルーブの判別に用いられ、後者は対物レンズのシフトに伴うトラック誤差信号のオフセットの補正に用いられる。

 (2)本方式の光ヘッドは、異なるトラックピッチのディスクに適用可能であり、かつディスクの偏芯に対して安定であるという特徴を有する。

 (3)実験において、ランド、グルーブの判別およびトラック誤差信号のオフセットの補正が可能であることを確認した。

(4)データ転送速度高速化のためのマルチビーム光ヘッド

 (1)光源に半導体レーザアレイを用いた新規な構成の光磁気ディスク用マルチビーム光ヘッドを提案、試作した。

 (2)複数個の集光スポットを所望のトラックに同時に追従させるため、ドーベプリズムを用いた像回転アクチュエータによりディスク上の集光スポット列を回転させる並列トラッキング方式を採用した。また、信号検出光学系に光検出器アレイを用いた光学系の簡素化により、通常の1ビーム光ヘッドと同等の大きさを実現した。

 (3)本光ヘッドにより4チャンネルの並列トラッキング動作、データ転送速度22Mb/sでの4チャンネルの並列記録再生動作、および線速33m/sの高線速度下での実時間記録再生動作を実現し、データ転送速度の高速化を初めて実証した。

(5)二波長合成による基板厚0.6mm/1.2mm互換光ヘッド

 (1)波長選択性を有する素子を用いた二波長合成による新規な構成の基板厚0.6mm/1.2mm互換光ヘッドを初めて提案、試作した。基板厚0.6mm、1.2mmのディスクに対し、それぞれ波長635nm〜650nm帯、780nm帯の光を用いる。

 (2)基板厚の違いに伴う球面収差の補正には、HOE方式および可変倍率方式、さらに両者の長所を組み合わせた波長選択フィルタ方式を考案した。いずれの方式も、書換可能型の光ディスクへの応用に適しておりCD-Rの再生も可能である。

 (3)HOE方式および可変倍率方式の光ヘッドでは、波長785nmの光のみを回折させるホログラム光学素子を用いること、波長785nmの光に対してのみ対物レンズを設計と異なる倍率で用いることによりそれぞれ球面収差の補正を行った。また、どちらの光ヘッドにおいても、4倍密度CD、通常CDの再生実験においてそれぞれ約11%、約9%と良好なジッタが得られた。

 (4)波長選択フィルタ方式の光ヘッドでは、波長780nmの光に対してのみ透過光の位相分布を変化させる波長選択フィルタを用いることにより球面収差の低減を行った。また、DVD、CDの再生実験においてそれぞれ9.3%、7.9%と良好なジッタが得られた。

審査要旨

 本論文は「光ディスク用光ヘッドの小型化,高性能化に関する研究」と題し,光ディスク装置の小型化,高性能化を目的として各種の光ヘッドを提案し,具体的な光学設計および実験を行った結果についてまとめたものである。

 光ディスク装置は媒体可換性,高速アクセス,大容量等の特徴をバランス良く兼ね備えた記憶装置であり,オーディオ・ビデオ用ファイル,コンピュータ用ファイルとして普及している。光ディスク装置の開発の方向は,携帯型のオーディオ・ビデオ用ファイル,ノートPC内蔵のコンピュータ用ファイルを目指した小型化,および長時間,高画質のディジタルビデオ用ファイルを目指した高性能化(高S/N化,高密度化,高速化,高機能化)の二つに大きく分けられる。光ディスク装置において光を直接取り扱う心臓部である光ヘッドに対しても,このような小型化,高性能化への取り組みが求められる。

 本論文では,小型化のためにチップ素子実装技術を用いた光磁気ディスク用光ヘッド,高S/N化のためにファラデー回転子を用いて戻り光の影響を抑制した低雑音半導体レーザ(Laser Diode:LD)および光ヘッド,高密度化のためにランド/グルーブ信号と差動プッシュプル信号の検出を可能としたランド/グルーブ記録再生用光ヘッド,データ転送速度の高速化のために光源に半導体レーザアレイを用いたマルチビーム光ヘッド,および高機能化のために基板厚0.6mmと1.2mmのディスクの互換を可能とした二波長合成による光ヘッドについて述べている。本論文は7章から構成されている。

 第1章は「序論」であり,本研究の背景と目的、および本論文の構成を述べている。

 第2章は「チップ素子実装による光磁気ディスク用小型光ヘッド」と題し,半導体レーザと光検出器をチップの状態で共通のパッケージに実装するという小型化に不可欠なチップ素子実装技術を,偏光性を有する回折光学素子と組み合わせることにより光磁気ディスク用に初めて導入した光ヘッドについて述べている。波長685nmの半導体レーザを用いた再生実験において,第一世代のISO規格の4倍容量の条件で実用上十分な45dB以上のC/N(Carrier to Noise Ratio)を得ている。本成果は,現在各社から実用化されているチップ素子実装による光磁気ディスク用光ヘッドの先導的な役割を果たしたものである。

 第3章は「ファラデー回転子内蔵半導体レーザを用いた光ヘッド」と題し,光ディスク用として初めてファラデー回転子をパッケージに内蔵することにより戻り光の影響を抑制した,小型かつ高出力の光ヘッドについて述べている。光学式ビデオディスクの再生実験において従来の自励発振型のLDを用いた場合と同等の41.6dBのS/N,光磁気ディスクの記録再生実験において従来の高周波重畳法を用いた場合と同等の58.4dBのC/Nを得ており,本LDの光ヘッドへの適用可能性を実証している。

 第4章は「高密度化のためのランド/グルーブ記録再生用光ヘッド」と題し,高密度化の一方式であるランド/グルーブ記録再生において,トラック引き込み時のランド,グルーブの判別に必要なランド/グルーブ信号,および対物レンズシフト時のトラック誤差信号のオフセット補正に必要な差動プッシュプル信号を,4分割回折格子を用いることにより初めて同時に検出した3ビーム方式の光ヘッドについて述べている。

 第5章は「データ転送速度高速化のためのマルチビーム光ヘッド」と題し,光源に半導体レーザアレイを用いた光磁気ディスク用マルチビーム光ヘッドについて述べている。複数の集光スポットを所望のトラックに同時に追従させるため,ドーベプリズムを用いたアクチュエータにより集光スポット列を回転させる方式を採用している。本光ヘッドによりデータ転送速度22Mb/sでの4チャンネルの並列記録再生動作および線速33m/sの高線速度下での実時間記録再生動作を実現し,データ転送速度の高速化を初めて実証している。

 第6章は「二波長合成による基板厚0.6mm/1.2mm互換光ヘッド」と題し,基板厚0.6mm,1.2mmのディスクに対してそれぞれ波長650nm帯,780nm帯の光を用い,かつ波長選択性を有する新規な素子を用いた,書換可能型の光ディスクへの応用に適しておりCD-Rの再生も可能な光ヘッドについて述べている。基板厚の違いに伴う球面収差の補正にはHOE(Holographic Optical Element)方式,可変倍率方式,波長選択フィルタ方式の3種類を提案しており,DVD,CDの再生実験においてそれぞれ9.3%,7.9%と良好なジッタを得ている。可変倍率方式の光ヘッドはDVD/CD互換光ヘッドとして現在各社から実用化されている。

 第7章は「総括」と題し,本論文で得られた成果を要約している。

 以上のように,本論文では,光ディスク装置の小型化,高性能化に寄与する各種の新規な構成の光ヘッドを提案し,具体的な光学設計手法を確立すると共に,それらの有効性を実験により実証している。これらの成果は光ディスク分野のみならず光学素子技術,光学設計技術等の観点で光学分野への寄与が大きく,物理工学への貢献が大きい。

 よって,本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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