審査要旨 | | 本論文は「光ディスク用光ヘッドの小型化,高性能化に関する研究」と題し,光ディスク装置の小型化,高性能化を目的として各種の光ヘッドを提案し,具体的な光学設計および実験を行った結果についてまとめたものである。 光ディスク装置は媒体可換性,高速アクセス,大容量等の特徴をバランス良く兼ね備えた記憶装置であり,オーディオ・ビデオ用ファイル,コンピュータ用ファイルとして普及している。光ディスク装置の開発の方向は,携帯型のオーディオ・ビデオ用ファイル,ノートPC内蔵のコンピュータ用ファイルを目指した小型化,および長時間,高画質のディジタルビデオ用ファイルを目指した高性能化(高S/N化,高密度化,高速化,高機能化)の二つに大きく分けられる。光ディスク装置において光を直接取り扱う心臓部である光ヘッドに対しても,このような小型化,高性能化への取り組みが求められる。 本論文では,小型化のためにチップ素子実装技術を用いた光磁気ディスク用光ヘッド,高S/N化のためにファラデー回転子を用いて戻り光の影響を抑制した低雑音半導体レーザ(Laser Diode:LD)および光ヘッド,高密度化のためにランド/グルーブ信号と差動プッシュプル信号の検出を可能としたランド/グルーブ記録再生用光ヘッド,データ転送速度の高速化のために光源に半導体レーザアレイを用いたマルチビーム光ヘッド,および高機能化のために基板厚0.6mmと1.2mmのディスクの互換を可能とした二波長合成による光ヘッドについて述べている。本論文は7章から構成されている。 第1章は「序論」であり,本研究の背景と目的、および本論文の構成を述べている。 第2章は「チップ素子実装による光磁気ディスク用小型光ヘッド」と題し,半導体レーザと光検出器をチップの状態で共通のパッケージに実装するという小型化に不可欠なチップ素子実装技術を,偏光性を有する回折光学素子と組み合わせることにより光磁気ディスク用に初めて導入した光ヘッドについて述べている。波長685nmの半導体レーザを用いた再生実験において,第一世代のISO規格の4倍容量の条件で実用上十分な45dB以上のC/N(Carrier to Noise Ratio)を得ている。本成果は,現在各社から実用化されているチップ素子実装による光磁気ディスク用光ヘッドの先導的な役割を果たしたものである。 第3章は「ファラデー回転子内蔵半導体レーザを用いた光ヘッド」と題し,光ディスク用として初めてファラデー回転子をパッケージに内蔵することにより戻り光の影響を抑制した,小型かつ高出力の光ヘッドについて述べている。光学式ビデオディスクの再生実験において従来の自励発振型のLDを用いた場合と同等の41.6dBのS/N,光磁気ディスクの記録再生実験において従来の高周波重畳法を用いた場合と同等の58.4dBのC/Nを得ており,本LDの光ヘッドへの適用可能性を実証している。 第4章は「高密度化のためのランド/グルーブ記録再生用光ヘッド」と題し,高密度化の一方式であるランド/グルーブ記録再生において,トラック引き込み時のランド,グルーブの判別に必要なランド/グルーブ信号,および対物レンズシフト時のトラック誤差信号のオフセット補正に必要な差動プッシュプル信号を,4分割回折格子を用いることにより初めて同時に検出した3ビーム方式の光ヘッドについて述べている。 第5章は「データ転送速度高速化のためのマルチビーム光ヘッド」と題し,光源に半導体レーザアレイを用いた光磁気ディスク用マルチビーム光ヘッドについて述べている。複数の集光スポットを所望のトラックに同時に追従させるため,ドーベプリズムを用いたアクチュエータにより集光スポット列を回転させる方式を採用している。本光ヘッドによりデータ転送速度22Mb/sでの4チャンネルの並列記録再生動作および線速33m/sの高線速度下での実時間記録再生動作を実現し,データ転送速度の高速化を初めて実証している。 第6章は「二波長合成による基板厚0.6mm/1.2mm互換光ヘッド」と題し,基板厚0.6mm,1.2mmのディスクに対してそれぞれ波長650nm帯,780nm帯の光を用い,かつ波長選択性を有する新規な素子を用いた,書換可能型の光ディスクへの応用に適しておりCD-Rの再生も可能な光ヘッドについて述べている。基板厚の違いに伴う球面収差の補正にはHOE(Holographic Optical Element)方式,可変倍率方式,波長選択フィルタ方式の3種類を提案しており,DVD,CDの再生実験においてそれぞれ9.3%,7.9%と良好なジッタを得ている。可変倍率方式の光ヘッドはDVD/CD互換光ヘッドとして現在各社から実用化されている。 第7章は「総括」と題し,本論文で得られた成果を要約している。 以上のように,本論文では,光ディスク装置の小型化,高性能化に寄与する各種の新規な構成の光ヘッドを提案し,具体的な光学設計手法を確立すると共に,それらの有効性を実験により実証している。これらの成果は光ディスク分野のみならず光学素子技術,光学設計技術等の観点で光学分野への寄与が大きく,物理工学への貢献が大きい。 よって,本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |