原子炉の圧力容器や配管系等の健全性確認のために、磁気的性質を用いた探傷の研究が行われている。代表的な例として、渦電流を用いるものがあり、そのプローブ開発が進められた結果、実用の域に到達しており、また、空間分解能上の制限があるものの、SQUIDも高感度な方法として知られている。本論文は、新しい方法として高温超伝導体を用いて、その完全反磁性的性質による磁束の遮蔽効果を使うことにより、新しい磁束源の高感度検出を目的としたものである。論文は6章で構成されている。 第1章は、研究の背景について述べており、医学分野の生体磁気計測や、航空、原子力産業の金属材料の強度評価などに、磁気的方法が利用されていることを紹介し、特に、渦電流用のマイクロプローブ法や磁気ヒステリシス法、バルクハウゼン法、SQUID法などにつき、特質、現状等を含めレビューを行なっている。 第2章は、磁界測定の基本的問題について説明しており、原理的に逆問題としての一意解は求められないことを定量的に紹介し、何らかの先験的知識のもとに解を限定していくことになるとしている。そして、磁束源が電流源である場合と磁化源である場合について、それぞれ空間周波数特性を求め、最適なセンサ配置について、有効な指針を得ている。 第3章は、超伝導体を用いた新しい磁界の検出方法について述べており、完全反磁性を持つ超伝導体が示すマイスナー効果を利用したものと説明しており、このような試みは始めてのことであり、この点に、本研究の独創的なところがあると考えられる。この効果のため、超伝導体の内部では磁束の侵入を完全に打ち消すように、超伝導体の表面に遮蔽電流が流れることになる。この遮蔽電流を測定することにより、超伝導体自身に入り込む磁束が測定できるが、この状況は超伝導体の幾何学的形状により変化する。この幾何学的形状について、平行平板のとき、円盤のとき、円筒のときの3つのケースについてそれぞれ定式化しており、3種の特質について説明している。 第4章では、前章で示した超伝導体の完全反磁性を用いた磁界の検出用素子を具体的に作成したことを報告している。コア材は、液体窒素温度以下で動作可能なCo-Fe-Si-B系アモルファスを用いている。このコア材についても、低温下での電気抵抗特性や磁気的特性の測定のほか、負帰還回路を用いた磁界センサプローブの製作を行ない、システムとしての評価を行なってある。その結果、+1エルステッド(Oe)から-1エルステッドの範囲で約1mV/mOeの感度であり、センサプローブの測定分解能は、14.2Kで0.4ミリガウス以下であった。 第5章は、円盤型超伝導体と磁界センサーを用いた場合の磁束源の検出実験の例である。円盤には、細いスリットが入っており、リング状の遮蔽電流が生じないようになっている。その結果、実際に亀裂の入ったパイプを用いて、模擬探傷実験を行なって、1個の磁気ダイポール及び2個の平行磁気ダイポールの位置を、高分解能で検出することが可能なことが分かり、実際の応用可能性を示すことができた。 第6章は、まとめと今後の課題について述べているが、このような新しい磁界検出方法を考案し、これをさらに、小型電気式冷凍機等を用いてハンディ化を計りたいとしている。 このように本論文は、超伝導体のマイスナー効果を用いた磁界センサープローブの可能性を実証しており、磁気測定法の応用を拡大開発した点で、システム量子工学の各方面への発展にとって、寄与するところが少なくないと判断される。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |