本論文は、SYNTHESES OF HIGH-SILICA MOLECULAR SIEVES USING ORGANIC STRUCTURE-DIRECTING AGENTS AND OF ORGANIC-FUNCTIONALIZED MOLECULAR SIEVES(有機構造指向剤を用いた高シリカモレキュラーシーブの合成および有機官能基を有するモレキュラーシーブの合成に関する研究)と題し、ゼオライト系モレキュラーシーブの合成条件と生成する結晶構造の関係につき、構造指向剤である有機分子の構造に着目して検討した結果と有機官能基をゼオライト骨格中に包含する新規ゼオライトの合成についてまとめたものであり、10章からなる。 第1章は、序論であり、モレキュラーシーブの機能材料としての特徴と研究の現状をまとめ、本研究の目的、意義についてのべている。すなわち、モレキュラーシーブの特徴である分子レベルの均一細孔を制御することは合成技術にとって非常に有用であり、そのために用いられる有機化合物の役割を明らかにすることが本研究の目的の一つであるとしている。第二の目的は、モレキュラーシーブに化学的機能を付与する方法を開発することで、有機官能基を共有結合を介して細孔内に導入したモレキュラーシーブの開発を取り上げその合成に成功している。 第2章から第6章は高シリカモレキュラーシーブの合成に関する研究結果について述べている。モレキュラーシーブを合成する際によく用いられる4級アンモニウム塩等の有機化合物をここでは構造指向剤(Sturcture-Directing Agent,SDA)と呼び、SDAによってもたらされる構造指向作用を分子レベルで理解するために、Al,B等のヘテロ原子、Na,K等のアルカリ金属を含まない純粋なシリカ系でモレキュラーシーブ合成を検討した。 まず、様々なジピペリジニウム骨格を有する化合物を合成し、それらを純シリカ系でのモレキュラーシーブ合成に用い、ベータゼオライト(BEA)やZSM-12(MTW)以外にも純シリカZSM-5(MFI)やMCM-41型のメソ細孔材料等がジピペリジニウム化合物のN-アルキルグループを変えるだけで得られることを見出した。さらに、両ピペリジニウム環の間に存在するメチレン鎖の長さを変えた化合物やモノピペリジニウム化合物を用いて得られるモレキュラーシーブの構造を検討することによってBEAを与える条件を明らかにしている。 また、N-ベンジル-ジピペリジニウム化合物によるBEAおよびMTWの合成過程を小角X線散乱、微小角X線散乱および広角X線散乱を用いて観測し、BEAの生成条件では2.6nm程度の粒子がモレキュラーシーブの結晶化に先立って観測されたが、MTWの生成条件下では1.5nm程度の粒子のみが存在したことから、BEAは構造指向性によって、MTWは細孔充填機構によって生成しているものと推定した。さらに、スパルテイン誘導体のジアステレオマーを用いた高シリカモレキュラーシーブ合成の実験結果と分子モデリング計算の比較からスパルテイン骨格自体に加え、SDA分子の内側に存在するN-メチルグループと骨格構造の適合性が構造を決める上で重要であると結論した。 第7章から第9章では、有機官能基を骨格中に含むモレキュラーシーブの合成とキャラクタリゼーションの結果についてのべている。まず、テトラエチルアンモニウムフツ化物を構造指向剤として用いてBEA構造を有する有機官能化モレキュラーシーブの合成に成功した。 次に、フェネチル基を含有するBEAをフェネチルトリメトキシシランを添加して合成し、構造指向剤を溶媒抽出により低温で除去したのちSO3処理することによってスルフォフェネチル基を有する純シリカBEAを合成、これが形状選択的酸触媒として機能することを実証した。また、アミノプロピル基を導入したBEAの場合に、アミノプロピル基が細孔内に共有結合を介して存在し、このアミノ基は有機合成的手法によってイミンに変換できることを示した。この方法により各種の有機官能基を直接純シリカBEAの細孔内に導入することができ、また、導入された官能基は一般的有機化学手法を用いて他の官能基に変換できることから、様々な官能基を有する有機官能化モレキュラーシーブの合成が可能となることを示した。 第10章は結論であり、以上の成果をまとめるとともに今後の展開の可能性についてのべている。 以上、本論文は酸化物多孔質系のモレキュラーシーブの結晶構造と合成時に添加する有機分子の構造の関係について詳細な検討を加えモレキュラーシーブ設計の指針を与えるとともに、有機官能基を構造内に包含するモレキュラーシーブの合成に成功し多孔質機能材料の分野に新たな可能性をもたらした。 これらは、無機合成化学、機能材料科学、触媒化学に貢献するところ大である。 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |